『耳をすませば』/朝井リョウ

文字数 1,324文字

8月27日(金)から、『劇場版 アーヤと魔女』がいよいよ全国ロードショーされますが、夏休みの夜といえば、そう、ジブリ映画ですよね!


「物語と出会えるサイト」treeでは、文芸業界で活躍する9名の作家さんに、イチオシ「ジブリ映画」についてアンケートを実施。素敵なエッセイとともにご回答いただきました!

本日より毎日更新でお届けします。今回は朝井リョウさんです。

朝井リョウさんが好きな作品は……


『耳をすませば』

 『耳をすませば』を観るといつも、内なる自分に耳元で「結局こういうのが好きなんだろお前はよォ?!」と問い詰められているような気持ちになる。そしてそのたび、「……そうです……」と何かに屈服するように白旗を挙げるほかなくなるのだ。他に様々なことをテーマに掲げるジブリ作品があることはもちろん知っているが、進路、友人関係、恋、家族との亀裂、学校の屋上、野球部の掛け声が響くグラウンド、ふたりだけの神社、不思議で素敵な隠れ家のような場所、秘密の約束、大切な人の夢……はーあ! どこを切り取っても感情のポストカードみたいになるこの映画の追手を、誰が振り払えるというのでしょうか?!


 今でも長めの階段を見つければ雫のように小気味よく駆け下りたくなってしまうし、図書館に行ったときは“天沢聖司”の四文字をどこかに探してしまう。そんなふうに、日々の生活の中に頻繁に顔を出してくるのが、『耳をすませば』のすごいところだと思う。


 文章を書くことの途方もなさにしんどさを感じるときは、小説家を夢見る雫に向けた地球屋の主人のセリフが蘇る。


「自分の中に原石を見つけて、時間をかけて磨くことなんだよ。手間のかかる仕事だ」


 誰かに頼ってばかりの状態に甘えそうになったときは、「お前を乗せて坂道のぼるって決めたんだ」と語る天沢聖司の自転車から降り、「そんなのズルイ。お荷物だけなんてヤダ!」と奮闘した雫の姿を思い出す。


 自分の人生について多数派でない選択をするときには、雫の父のセリフを噛み締める。

「人と違う生き方は、それなりにしんどいぞ。何が起きても、誰のせいにもできないからね」

 甘やかな青春映画のようでいて、大人になった今こそ味わい直したいシーンが多く鏤められている一作。何度も言うが、私は結局、『耳をすませば』には抗えないのである。


朝井リョウ(あさい・りょう)

1989年生まれ。2009年桐島、部活やめるってよで第22回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。2013年何者で、戦後最年少で第148回直木賞を受賞。2014年世界地図の下書きで第29回坪田譲治賞を受賞。他の著作に少女は卒業しないスペードの3何様『スター正欲などがある。

直木賞作家・朝井リョウが描く「世にも奇妙な物語」!


異様な世界観。複数の伏線。先の読めない展開。想像を超えた結末と、それに続く恐怖。もしこれらが好物でしたら、これはあなたのための物語です。待ち受ける「意外な真相」に、心の準備をお願いします。各話読み味は異なりますが、決して最後まで気を抜かずに――。オチがすごい! いくつもの書店で週間ランキング1位に輝いた話題作!

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