『紅の豚』/青崎有吾
文字数 1,357文字
8月27日(金)から、『劇場版 アーヤと魔女』がいよいよ全国ロードショーされますが、夏休みの夜といえば、そう、ジブリ映画ですよね!
「物語と出会えるサイト」treeでは、文芸業界で活躍する9名の作家に、イチオシ「ジブリ映画」についてアンケートを実施。素敵なエッセイとともにご回答いただきました!
9月4日まで毎日更新でお届けします。今回は青崎有吾さんです。
『紅の豚』
好きなジブリ作品は何年も前から決まっている。『紅の豚』だ。
文字数が限られているので好きな理由の詳細は省く。同志にだけ「いいよな、豚……」とうなずいていただければ嬉しい。泣くほど面白い序盤の空中戦、久石譲の『狂気』、そしてポルコ・ロッソ。この三つを並べるだけでもウキウキと体が弾んでしまう。戦争の傷をにじませつつ、カラッと気持ちよく仕上がった、飛行艇乗りたちの物語。近年のジブリが重視しなくなった娯楽要素が色濃い作品でもあり、そういう意味でも大好きである。
ジブリ作品には思わず真似したくなるシーンが多い。幼いころの自分は『天空の城ラピュタ』や『魔女の宅急便』を何度も見返し、何度もごっこ遊びをした。ジブリを見たからごっこ遊びをするのかごっこ遊びをしたいからジブリを見るのかわからないほどだった。母と手をつないでシータとパズーが炭鉱に落ちてゆくシーンを演じたり、補助輪つき自転車をこぎながら「飛んだ~!」と叫んだり。『紅の豚』でもいろいろなごっこ遊びをしたが、他作とは少し毛色が違った。車の窓の開閉ハンドルを使ってエンジンをかける動作を真似した。おもちゃのお金を使って札束を数えるピッコロのおやじの真似をした。細長いレゴブロックを使って銃弾を並べるポルコの真似をした。公園の遊具を使って桟橋から船に飛び移るマダム・ジーナの真似をした。とにかく細部の、ちょっとした描写の数々に惹かれた。
『紅の豚』は宮崎駿監督の趣味の塊のような作品で、子ども心にも細部へのこだわりがひしひしと伝わってきたのだと思う。神は細部に宿る。面白くしたければ細部までこだわれ。そんなことを教えてくれた初めての映画が、自分にとっては『紅の豚』である。
怪物たち〈夜宴〉と保険機構〈ロイズ〉も介入し、やがて舞台は人狼の隠れ里へ。満月の夜が戦乱を呼び、二つの村がぶつかり合おうとしたそのとき、輪堂鴉夜の謎解きが始まる。ミステリと冒険が入り乱れる予測不能の笑劇(ファルス)、第三弾!