第1話 ショートショート「マッチングサイト」
文字数 2,139文字
僕は二十歳になった。その年に衆議院選挙があった。せっかくなので投票に行こうと思ったが、どの政党に投票すべきか分からなかった。
そこで僕は、インターネットの「政党マッチングサイト」を利用した。そのサイトでは、政治に関する簡単なアンケートに答えるだけで、僕がどの政党に投票すべきかをコンピューターが判定してくれた。コンピューターが決めたことなら間違いない。僕はその判定の通りに投票した。
僕は二十一歳になり、就職活動を始めた。でも、どうしても就 きたい職業があるわけでもなく、人並みに給料がもらえればどんな仕事でもよかった。
そこで僕は「就活マッチングサイト」を利用した。そのサイトでは、簡単なアンケートに答えるだけで、僕にどんな就職先が向いているかコンピューターが判定し、適当な会社を紹介してくれた。コンピューターが決めたことなら間違いない。僕は紹介された小さなIT関連会社に就職した。
僕は二十五歳になった。親しい同僚が結婚したのを見て、僕も結婚に憧れるようになった。でも、大学時代からの恋人にその話をしたら「仕事が楽しくて結婚はまだ考えられない」と言われた。
そこで僕は、彼女とはきっぱり別れて「婚活マッチングサイト」を利用した。そのサイトでは、簡単なアンケートに答えるだけで、登録会員の中から最も僕に合った女性をコンピューターが選び、紹介してくれた。コンピューターが決めたことなら間違いない。僕はその女性とメール交換をして数回のデートを経て交際するようになり、やがて結婚した。
僕は二十八歳になった。息子が生まれた。でも、人の親になるのはもちろん初めてなので、子供をどう育てるべきか見当もつかなかった。
そこで僕は「父親像マッチングサイト」を利用した。そのサイトでは、簡単なアンケートに答えるだけで、僕がどういった父親になっていくべきかコンピューターが判定してくれた。「筋金入りの雷親父タイプ」が僕に向いているという判定は意外だったが、コンピューターが決めたことなら間違いない。僕はそういう父親像を目指すことにした。
僕は三十歳になった。僕が理想の父親像を演じるためにやむをえず行 () ってきた、必要最低限の罵 () 倒 () や暴力が原因で、妻と離婚することになってしまった。また、時を同じくして、会社の経営も傾き始め、長時間のサービス残業や給料の遅配が常態化していった。公私ともに過酷な日々の中、心が荒 () んでいく。ああ、何か精神的にすがれるものが欲しい……。
そこで僕は「宗教マッチングサイト」を利用した。そのサイトでは、簡単なアンケートに答えるだけで、僕がどんな宗教に入信すべきかコンピューターが判定してくれた。コンピューターが決めたことなら間違いない。僕は、名前を聞いたこともない新興宗教に入信することにした。
僕は三十二歳になった。半年分の給料が未払いのまま、ついに会社が倒産してしまった。教祖様のパワーが込められた幸運の壺 () を五百万円で買った直後にこんなことが起こるなんて、理不尽にもほどがある。どうやらあの宗教はインチキだったらしい。
僕はこれまで、マッチングサイトの判定に基づいた真っ当な人生を歩み、一時は家庭も築いたのに、今では借金しか残っていない。なぜこんなことになってしまったんだ……。思い返してみれば、「父親像マッチングサイト」あたりからどうもおかしかったような気がする。いや、あのサイトで出た理想の父親像についてこられなかった元妻が悪いのだとすれば、「婚活マッチングサイト」がおかしかったのかもしれないぞ。う~ん、判断に迷う。
そこで僕は「マッチングサイトマッチングサイト」を利用した。そのサイトでは、簡単なアンケートに答えるだけで、僕が今後どんなマッチングサイトを頼っていくべきかコンピューターが判定してくれる……はずだったのだが、コンピューターが出した結論を見て僕は唖 () 然 () とした。
「あなたの回答を分析した結果、あなたには自分の信念というものがまるでなく、きわめて周囲の情報に惑わされやすいため、そもそもマッチングサイトなど利用すべきではないということが判明しました。近年、ネット上にはいい加減なマッチングサイトが氾濫しています。また、人生の大事な場面で決断を下せず、マッチングサイトばかりを鵜呑みにして人生を台無しにする『マッチングサイト廃人』も社会問題化しています。あなたはそうなる前に、マッチングサイトに頼らない人間になるための『マッチングサイト断ち』を決行すべきです。そこでオススメなのが、こちらの『断マッチングサイト道場』です――」
マッチングサイトに頼らない人間になんて、なれるはずがない。だいたい今の時代に、そこまで自分を過信している人間の方がよっぽどおかしいだろう。最後に勧められた「断マッチングサイト道場」だって、きっとこのサイトの運営者とつながっているのだろう。間違いない。このサイトはインチキだ。もっとまともなマッチングサイトマッチングサイトを見つけなくてはいけない。
僕はすぐに「マッチングサイトマッチングサイトマッチングサイト」を検索した。
そこで僕は、インターネットの「政党マッチングサイト」を利用した。そのサイトでは、政治に関する簡単なアンケートに答えるだけで、僕がどの政党に投票すべきかをコンピューターが判定してくれた。コンピューターが決めたことなら間違いない。僕はその判定の通りに投票した。
僕は二十一歳になり、就職活動を始めた。でも、どうしても
そこで僕は「就活マッチングサイト」を利用した。そのサイトでは、簡単なアンケートに答えるだけで、僕にどんな就職先が向いているかコンピューターが判定し、適当な会社を紹介してくれた。コンピューターが決めたことなら間違いない。僕は紹介された小さなIT関連会社に就職した。
僕は二十五歳になった。親しい同僚が結婚したのを見て、僕も結婚に憧れるようになった。でも、大学時代からの恋人にその話をしたら「仕事が楽しくて結婚はまだ考えられない」と言われた。
そこで僕は、彼女とはきっぱり別れて「婚活マッチングサイト」を利用した。そのサイトでは、簡単なアンケートに答えるだけで、登録会員の中から最も僕に合った女性をコンピューターが選び、紹介してくれた。コンピューターが決めたことなら間違いない。僕はその女性とメール交換をして数回のデートを経て交際するようになり、やがて結婚した。
僕は二十八歳になった。息子が生まれた。でも、人の親になるのはもちろん初めてなので、子供をどう育てるべきか見当もつかなかった。
そこで僕は「父親像マッチングサイト」を利用した。そのサイトでは、簡単なアンケートに答えるだけで、僕がどういった父親になっていくべきかコンピューターが判定してくれた。「筋金入りの雷親父タイプ」が僕に向いているという判定は意外だったが、コンピューターが決めたことなら間違いない。僕はそういう父親像を目指すことにした。
僕は三十歳になった。僕が理想の父親像を演じるためにやむをえず
そこで僕は「宗教マッチングサイト」を利用した。そのサイトでは、簡単なアンケートに答えるだけで、僕がどんな宗教に入信すべきかコンピューターが判定してくれた。コンピューターが決めたことなら間違いない。僕は、名前を聞いたこともない新興宗教に入信することにした。
僕は三十二歳になった。半年分の給料が未払いのまま、ついに会社が倒産してしまった。教祖様のパワーが込められた幸運の
僕はこれまで、マッチングサイトの判定に基づいた真っ当な人生を歩み、一時は家庭も築いたのに、今では借金しか残っていない。なぜこんなことになってしまったんだ……。思い返してみれば、「父親像マッチングサイト」あたりからどうもおかしかったような気がする。いや、あのサイトで出た理想の父親像についてこられなかった元妻が悪いのだとすれば、「婚活マッチングサイト」がおかしかったのかもしれないぞ。う~ん、判断に迷う。
そこで僕は「マッチングサイトマッチングサイト」を利用した。そのサイトでは、簡単なアンケートに答えるだけで、僕が今後どんなマッチングサイトを頼っていくべきかコンピューターが判定してくれる……はずだったのだが、コンピューターが出した結論を見て僕は
「あなたの回答を分析した結果、あなたには自分の信念というものがまるでなく、きわめて周囲の情報に惑わされやすいため、そもそもマッチングサイトなど利用すべきではないということが判明しました。近年、ネット上にはいい加減なマッチングサイトが氾濫しています。また、人生の大事な場面で決断を下せず、マッチングサイトばかりを鵜呑みにして人生を台無しにする『マッチングサイト廃人』も社会問題化しています。あなたはそうなる前に、マッチングサイトに頼らない人間になるための『マッチングサイト断ち』を決行すべきです。そこでオススメなのが、こちらの『断マッチングサイト道場』です――」
マッチングサイトに頼らない人間になんて、なれるはずがない。だいたい今の時代に、そこまで自分を過信している人間の方がよっぽどおかしいだろう。最後に勧められた「断マッチングサイト道場」だって、きっとこのサイトの運営者とつながっているのだろう。間違いない。このサイトはインチキだ。もっとまともなマッチングサイトマッチングサイトを見つけなくてはいけない。
僕はすぐに「マッチングサイトマッチングサイトマッチングサイト」を検索した。