メフィスト賞座談会2019VOL.1【前編】

メフィスト賞 座談会    メフィスト2019.VOL.1 【前編】

※メフィスト賞座談会……メフィスト賞を決める、編集者による座談会

【座談会メンバー紹介】

 本格ミステリマニア。古今東西ミステリの知識量が凄すぎる。

 警察ミステリ、時代小説など単行本作品の担当が多い。サザンとホークスのファン。

 理系作品の関わりが多くリサーチ力も高い。第59回『線は、僕を描く』 担当。

 様々なジャンルの編集部を渡り歩いてきた百戦錬磨の編集者。

 乗り鉄で鉄道ミステリ好き。第61回『#柚莉愛とかくれんぼ』担当。 

 理論と情熱とアイデアの編集。第58回『異セカイ系』担当。

T イヤミス編集の女王の風格あり。宝塚歌劇とワインをこよなく愛する。

 投稿作を優しい言葉で鋭く批評する達人。第62回『法廷遊戯』担当。

 涙を誘う作品が特に好物。第57回『人間に向いてない』担当。

 ミス研出身。ミステリに強く、青春モノに甘い。第60回『絞首商會』担当。

 元マンガ編集の目線でメフィスト賞投稿作をメッタ斬り。洋楽ヲタ。

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ネバーオープニングストーリー?


 どーもーメフィストです。永遠の十五歳です。ねぇねぇ、最近ぼーっと生きている大人が多いと思わない?

 なぜ僕を見て言うんですか!? タイガ編集長としてこんなに頑張っていると言うのに。平成最後のメフィスト座談会、はじめましょうよ。

 平成最後とかすぐ言っちゃうあたり、ぼーっと生きてんじゃねーよー!

 それ言いたかっただけでしょ!

 あの〜、ぼーっと生きてる……かもしれない文三メンバーにガツンと衝撃を食らわせたいので、言わせてください。前回の座談会で読んでもらった『絞首商会の後継人』、マジ面白く改稿できました。さあ、どうだ!!

 法医学の権威が殺されて、元泥棒の探偵が遺留品を元に捜査を進めていくって話だったよね。

 動機がユニークだし、ミステリの構図もいい。元々、力のある書き手だとは思っていたけど、改稿によってさらに磨きがかかった印象があります。前回の座談会で話し合われた懸念を見事にクリアしていますね。

 才能のある書き手って、修正する能力も高いって言われたりしますし。

 まさしく、この方がそうでした。絶対、ミステリファンにはたまらない作品でしょう。さっそく言っちゃいますよ、心の準備はよろしいですか。第60回メフィスト賞は『絞首商会の後継人』に決定です!

一同 おめでとうございます!!(拍手)

 とにかくロジックが美しい本格ミステリ! 遺留品を扱う手つきはすでに超一流です! 大正時代を舞台にしたこの美しい物語を皆さんにお届けできるのが、今から楽しみです。

 でも冒頭で受賞発表ってこの後の座談会のハードル上げてませんか?

 ええやん、ええやん。勢い大事! さっそくスタートするよ。『裏地図』、キャッチコピーは「五番目の島――異端の血をめぐる裏の大地の物語」。

 正統派のファンタジーが来ました! 日本の裏側に異相の世界が存在し、違うエネルギー法則、違う理、違う風習があるという設定です。父親を知らずに生まれ育った少女が、唯一の家族であった母親を病で失って島に迷い込んだところから物語が始まります。素晴らしいのは、作品の世界観とマッチした文体です。「このキャラはこんなこと思わないだろう」とか、「物語の進行のために言わされてるな」と思うところが一切ないんです。それと、物語内の不思議な現象や存在が主人公に寄り添って描かれているので、一気にのめり込んで最後まで読まされてしまいました。さあ、どうだ!!

 さっきの受賞を受けて、金が調子乗り始めてない?

 じゃ、出る杭を打てるかどうかは、Tさんお願いします。

 確かに一気に面白く読んだんですけど、結局これ、トゥ・ビー・コンティニューではというところに引っかかっちゃいました。文章も世界観の作り方もうまいのですが、それぞれ設定の説明で結局終わっている感じです。肝心の主人公やもう一人の男のコのことはどうなるのと啞然としました(笑)。

U そうですね、文章も設定も見事で読まされるんですけど、登場人物の対話が、質問・設定説明・質問・設定説明と続くから、キャラクター同士がせっかく会話していても彼ら同士の関係性がまったくわからないんです。いつのまにか少年と少女の間に信頼関係が生まれている。ファンタジーにおける設定はすごく大事で、それがその世界を豊かにすると思うのですが、すごくもったいないなと思いました。

 やや旗色が悪いなあ。

 この人はファンタジーを含め、良質な読書体験があるんだろうなと思わせる、たおやかな文章力がありますし、ネーミングや複雑な設定もとても考え抜かれていますね。だけども、この希緒が主人公なのに自分で何かを獲得していく姿勢がないことが気になりました。そしてもう一つ、希緒が異世界に来ていると認識するのが遅すぎですね。不思議な恐い怪物に会っているんだから、とんでもないところに来たと気づくでしょう、ふつう。それなのにまだ「ここは日本なのか」とか言っていて、そりゃ、いくら何でも鈍すぎるだろうと思うわけですよ(笑)。そして、お二人がおっしゃる通り、まさにここから物語が始まるというところがラストだったので、壮大な序章を読んだという印象なんです。やはり世界観と結びつく謎を考えて、それを主人公が解く構成にすればよかったと思います。それなら主人公が能動的になるし、世界の謎も解けるし。ちょっと全体的に厳しいかなと思いました。ただ、文章はとてもいいと思います。

 文章の佇まいはすごくいいし、読ませられるという感想は皆さんと一緒です。ただ、心地よく読めるが縦軸が見当たらず、最後の最後にテーマが出てきたのはいただけない。これが短い作品だったらよかったのですが、応募できる上限枚数近くまで書き進んでも、最終的に本丸までたどり着いてない。シリーズ化前提のつくりになってしまっていますね。もう一つ、この作者は説明過多の印象が……。読者に想像させる、委ねることも大切ですよ。期待は持てるけど、はたして規定枚数内で書けるんでしょうか。


金 物語が始まったところで一巻目が終わるということで言えば、『十二国記』という大傑作の先例がありますから! ただ、『十二国記』の場合は、この作品と違って主人公が延々もがき続けるんですよ。それがないというのはまさにおっしゃるとおり致命的だなと思います。とはいえ、情報とキャラクターは十分足りているので、おそらく作者は、前から順番に書いていったらラストが詰まってしまったのではないでしょうか。書ける可能性のある方だなと思っています。

 どこが結末になるのかは、ほんとに重要。もしもこの方に問い合わせてみたとしたら……。

 実は全十巻で、展開を滔々と語られてもおかしくないのではと思ってるんですけど(笑)。

 とはいえ、金さん、この人に会いたいんでしょ?

 子どものころにファンタジーを読んでいた気持ちになれました。こういう気持ちになりたい人、たぶん世の中にたくさんいると思うので、一度お電話をしてみたいと思います。


ミステリにおける客観的検証の重要性


 次は『サイレント・アイ〜言葉なき探偵〜』、キャッチコピーは「究極の無口探偵! このJK、いつになったら喋るんだ」。Nさん、お願いします。

 傷がすごく多い作品なので、これで受賞ということはまずないんですけど、可能性を感じたので皆さんに読んでいただきました。能力は優れてるけれど、一切言葉を発しないという風変わりな女子高生探偵・藍と、それを支える助手である桜ちゃんが活躍する物語です。探偵事務所を構える彼女たちに三つの調査依頼が舞い込みます。一つは巨万の富を築いた亡き実業家の残した遺産が入った金庫の暗号解読、一つは同級生の祖父の失踪事件で、もう一つが暴力団の事務所で起きた密室盗難事件。これらの依頼が思ってもみない大きな事件に発展して……というストーリーになっています。この作品を私がいいなと思うところは、よくも悪くも情報量の多いカードを使って作者がちゃんと最後まで書き切ったところです。欠点はほんとにいくつもあって、そんなうまいこと三つの事件が絡むかなとか、リアリティがないとか、ヒントの出し方が全部後出しじゃないか、などなど。でも私、ラストで泣いちゃったんですよね。あれ? なんか心が弱ってるのかな?(笑) 欠点は多いけど、何かいいものを読んだなという気が私はしていて、皆さんのご意見をいただければと思います。

 「泣いた」というフレーズはやっぱり強いよね。書店のポップ見て思わず手に取ってしまうし。金さん、どうだった?

 僕は、泣いたか泣かなかったかで言うと泣き寄り。けっこう最後グッときたんですよ。

 きっと疲れてるに違いない。

 ちゃうわい! ラストシーンの圧がとにかく強いんです。自分に問いかけるような文体で女のコ二人がどういう関係にたどり着いて、これからどうなるのかというような……。逆にこの圧がそれまでには一切なかったことにもけっこうびっくりしたんですよね。本文というか事件パートとの書き味が明らかに違うところで感動しちゃって。この構成は正直、よくも悪くも作者の味だなと思います。ただ正直、事件部分にはもう一声欲しかったです。謎解きのポイントはここですよ、と整理されないままザラザラッと解決していく感じというのは結構看過できなかった。Nさんが気にされていた、全部の事件が絡むことについても、うまいこと絡みすぎてしまっている印象です。でも、このキャラクターが書けるんだったら、もっとポップにチープに寄せることもできただろうに、本格的に取り組んだ心意気はすごく買います!

 冒頭とラストは確かに魅力的ですね。ただ、その間は盛りすぎだし長すぎる。なによりも全ての情報が後出しジャンケンで出されてくるので読み手が置いてきぼりな感じがしてしまいました。キャラクターはすごく魅力的です。この喋らない主人公も、周りの人物たちもいい。ただ、主人公に驚異的な記憶力があることがそれほど話の中に生かされてないなと思いますし、喋らない原因もちょっと物足りない。そこが描かれるともっとこの主人公の気持ちに添えるかなと思いました。

土 後出しで言うと、キャラクターも事件のために造形をしたように感じられてしまって、もったいないですね。それと、キャッチで「このJK、いつになったら喋るんだ」って煽ってるのに、後半からラストにかけて、主人公が変わってしまっているのも気になりました。主人公は、マンガ『響〜小説家になる方法〜』の主人公・響みたいな感じにできると思うんです。世間的な評価はマイナスだけれども、そこが実はキャラクターの強みなんだという設定で。お約束的ではありますが、作れますよね。そういうこともせずに主人公が交代してしまうのはどうなんでしょう。むしろ女のコ二人の百合っぽい感じというか、褒められてポッと赤くなってしまうみたいな描写を意識する方がキャラも生きると思いました。本格っぽいことにするのか、キャラをきちんと生かした物語づくりをするのかという取捨選択をして直せばこの作品は何とかなるのかなと思いました。僕がいちばん引っかかったのは、某国の毒ガスによる大量殺害というくだりです。その復讐と亡き人との約束という組み合わせのリアリティのなさにゲンナリしてしまった。

P では寅さんお願いします。

寅 事件がどんどん広がっていくのはいいんですけど、広がりすぎちゃって、女子高生が主人公の探偵という設定を考えると、僕としては追いついていけない。ヤクザが出てきて、毒ガスってなってくるとちょっと世界が違ってくる感がありました。あと、藍ちゃんが主人公なのに、三章、四章になると、友達の桜ちゃんが行動や調査の主体となっている。サイレント・アイという喋れない設定の藍ちゃんだと視点人物としての動きを書きづらかったのかなという気もする。そうだとすると設定自体が難しかったのかもしれないわけです。二人の関係性が事件を通して深まった感じもあまりしませんでした。

戌 いわゆる連作短編にして、最後にそれまでの各編の伏線がつながって一つの事件が見えてくるという構成は、完全に定着しましたね。逆に言うとそれに縛られちゃってるのかなという気がします。やっぱり第四の事件ですよね。三つの事件がつながってくる第四の事件がどうしても無理筋に見えてしまう。そこで僕は鼻白んでしまった。あと、皆さんも言っていた後出しの部分は、要するに推理がないんですよ。主観的に言ってることが当たっているだけ。「だって、作者がそう書いてるから」という感じなんです。ミステリとして作るのであれば、ある種の客観的な検証をちゃんと入れないと推理にはなりません。この点はかなり大きな問題だと思っています。

P 「無口の女子高生探偵誕生」って書かれたらいやがうえにも盛り上がるんですよ、キャラクターとして。期待して読んだんですけど、皆さんと同じで僕もかなり無理筋だなと感じていて、その上この作品がかもしだす暗さから個人的には読み進めるのに苦労しました。このキャラクターを楽しく読ませたうえで最後に深い関係性を読者に見せつけるような落差があってもよかったですね。以上です。よろしいでしょうか、Nさん。

N はい。また応募してきてください!


専門家ならではの知識と見識に期待!


 次は私からです。タイトルは『夜のミステリ、昼のメランコリ』。キャッチコピーは、「孫とお祖母さん? 新米精神科医とベテラン老看護師のミステリ」です。精神科の隔離病棟で拘束衣の患者が殺された。監視カメラには部屋に入る不審人物の姿はなく、これは密室殺人ではないかと思われる。その日の当直担当だった新人の医師は、ベテラン看護師と一緒にこの事件の当事者として関わっていくことになる。二人が患者の死の真相を探る中で二つ目の密室遺体が……、というストーリーです。短編連作の中の一作を長くした感じで淡々とした印象がするかなという気持ちはあります。ですが、文章の読みやすさや食べ物の描写がとても魅力的です。また精神の疾患というテーマを専門家として表現していくということができる書き手だと思います。

 現役医師が書いた作品ですが、Nさん、どうでした?

 いや、うまくつながっているなーと思って読みました。さっき巳さんが「淡々としてる」とおっしゃったことで言えば、抑制が利いた文体で非常に読みやすい。気になったのは、語尾が全員一緒なところです。そのあたりも含めて淡々としちゃうんだろうなと思います。私がいちばんいいなと思ったのは、精神科医が主人公の探偵かと思いきや、老看護師が本当の探偵役という設定でした。舞台が病院ならではのアイディアもとっても斬新で私は驚きました。疑問点としては、危険薬品の数が合わないことは問題にしているのに、持ち出す方法にはあんまりハードルがないような気がして、そのあたりをうまく書いてくれたらもっと驚けたんじゃないかなと思います。あとは長編にするにはちょっと華がないので、連作短編にしたら一冊になるんじゃないかと思いました。

 僕はとにかくスピード感が好きです。スピード感と専門家ならではのクオリティを感じさせます。正直ドラマはありませんが、読者を選ばない可能性のある方だなと思います。一方で、ミステリとしては吞み込めないことが多々ありました。たとえば、こんな拘束具を使っていたら死人が出まくるのではとか(笑)。統合失調症になりやすい性格がある、という描写があるのですが、それは専門家が言っちゃって大丈夫なのでしょうか……。専門分野におけるクオリティの高さと不用意さの両面がありますね。

 非常にスピード感があってサクサクと読める文章もいいですし、専門的な薬の知識も説得力がありました。ただ、細かい部分で見過ごせない点がいくつかあり、ページを捲る手が止まってしまったのが残念です。キャラクターのことですけど、老看護師さんと新任の先生というコンビは、老看護師さんをもっとフィーチャーしてミス・マープルみたいな感じにしたら面白くなると思いました。

P ミステリ部分に関しては、皆さん厳しめの感想ですね。戌さんはどうでしたか?

 やはり動機や推理の内容は、この視点で書く以上はきちんと語られるべきであって、語らないなら理由が欲しいですね。この作品では単に読者をじらすためだけの手法になっています。『アクロイド殺人事件』がお好きと書いてありますが、たしかに「語り落とし」というやり方はあるんですよ。でも、『アクロイド』の場合は理由があってそうなっている。この方は理由がないまま推理の内容を書いていないので、ムカムカしながら読んじゃった(笑)。ちょっと印象がよくないんです。ごめんなさい。専門的な知識を使っているところも面白いなと思うんですけど、叙述トリックでもないので、この書き方だと要らぬストレスを読者に与えてしまいます。二番目のトイレの事件もある意味、「なーんだ」というところもあり、キャラクターの配置は面白いと思うんですが、ミステリとしての完成度は厳しいと思っています。


時事的な問題の賞味期限と普遍性


 さあ、次はですね『#柚莉愛とかくれんぼ』。キャッチコピーは「アイドルたちのかくれんぼ、本当の鬼はだーれだ?」。インディーズのアイドルがメジャーデビューを目指し、動画配信でファンに向けてドッキリを仕掛けたところ炎上がとどまることを知らず、どんどん堕ちていくという話です。実に文章がうまい。アイドルやネット住人の雰囲気づくりがよくておのずと引き込まれて素直な気持ちで楽しめました。結末で、ある一撃を食らって、呆然とするわゾッとするわで、ああ満足。こんな感覚にさせてくれるなんて、エンタメとして最高じゃないですか。レベルの高い作品ですよ。Uさん、どうでした?

 リーダビリティが圧倒的に高くて一気に読まされました。仕掛け自体もストーンと腑に落ちて、シンプルだけど面白いですし、「一度ウソをついたら、二度と信じてもらえなくなるんだよ」というメッセージはシンプルだけどゾッとくるところがあります。じゃあ読者として、この作品を買って読み終えた時に、何か強い印象が残るかというとちょっとわかりません。物語として一時を消費するには適しているんですけど、長く自分の中には残らない感じがしました。おそらく、アイドルとSNSという、どちらもまさに今のものですし、実際にアイドルが巻き込まれる事件のほうがえげつない状況が浮かんでしまったからかと……。

 私も一気読みしてとても面白かったのですが、登場人物が極端に少ないじゃないですか。で、どうしても犯人探ししながら読む中で、このコが怪しいよねと思って読んだら予想通りでした。そこでの新鮮な驚きが欲しかったことと、どうしても新潟の事件のことがあって、これを書いたのとどっちが早かったのかな、みたいなことも考えました。今、起こり得る話をすごくコンパクトにギュッとスピード感あふれる感じで書けていますし、これでもいいと思うのですが、もう一足し何かあってもよかった。アイドルグループ三人のうちの誰かがからんでもよかったのかなという気もするし、それこそ大人たちやマネージャーがもっと踏み込めば、先が読めない感じの恐怖感もあってよかったのかなと思いました。最後、後味は悪いんですけれども、イヤミスを何作か担当させていただいた身からすると、これぐらいだとまだ平気だなと(笑)。

 さすがイヤミス編集の女王であるTさん!

 もう少しいやな気持ちにさせてもらいたかったという感じ。でも、すごく面白かったし、よく書ける人だなと思うので、もうワンエッセンス、ツーエッセンス頑張って欲しかったなと。

 とっかかりがミステリだと思って読み始めると確かにいろいろと見えてきてしまうね。

 そうなんです。やはりその頭で読んだので。

P 僕は現代ホラーとして読んでたから、オチに不意を突かれたんですよ。読み方の立ち位置がすごく重要な作品と言えるね。

土 前にいた部署で関わっていたアイドルたちの顔が浮かんできました(笑)。あのコたちは今後どうするんだろうな、みたいなことを思いながら読みました。さきほど読み方の話が出たときに思ったのは、この作品は縦書きで読むのがふさわしいのかなということ。欧文のアカウント名の表記もそうですし、話してる内容もやっぱり横書きが合っていると思います。しかもリーダビリティがあるんだとしたら、ツイッターやLINEなどメディアを変えてみてもいいかもしれません。昔、『電車男』がありましたけれども、あのノリで書いたほうが読む人が多いだろうし、共感を得るのではないかなと。メディアの形以外では、物語が尻切れトンボだったと僕は感じてしまいました。むしろ読みたかったのはアイドルを仕掛ける側の話ですよね。マネージメント側が何を考えてるのかっていうほうに興味がある。例えば美人局の記録動画が残っていたりするようなときに、結局、矢面に立つのはアイドルのコたち、バッシングの被害にあうのはアイドルのコたちなんだけど、そこに出てこない人たちにうまく焦点を当てられたらさらに面白くなるという気がしました。

P 作品にあんまり出てないけど、主人公を支えるマネージャー、けっこう好きなんです(笑)。頑張って仕事してるけど、結果的に残酷な人。こういう人いるよねーってリアリティがある。それでは、アイドルと言えば金さん、お願いします

 好きです。僕はこれでいい、これがいい派でした。文字で読むときには、アイドル本人以上にアイドルを観ている人やアイドルに関わっている人が魅力的に見えると気づかされました。サスペンスとしては一本道で、かつ、どんどん不穏になっていくという定型を外してないので、もうワンパーツドラマを入れてしまうと、重くなる気がします。たしかにツイートの部分は縦書きでは読みづらいなと僕も思います。でも2ちゃんねる全盛期に書籍化した横書きの本は、Webで読んだら意外としんどかったんです。一概に横にしたらいいとも言えないなとも思いました。とにかく、面白いのでこれでいい!

 余計なことですが、金さんは欅坂46が好きだそうです。メフィスト賞座談会マニアの皆さんは覚えておきましょう。

 私もミステリだと思って読んでしまい、かなり早い段階から「僕」がどんな人物なのかに気づいてしまったので、最後に驚けなかったというのが正直なところで、もったいない読み方をしてしまったなと思います。この方のいちばんの魅力は文章のうまさで、作中に登場する曲名とかも含めてすごくセンスがいいなと思います。このセンスってなかなか獲得しづらいものなので、武器にしていってほしいなと思いました。否定的な部分では、一人称を「僕」にする理由をもっと腑に落ちたものにしてほしいなと思いました。でも面白かったです! 売り方としては『ルビンの壺が割れた』みたいな方向はどうでしょう?

 面白かったです。僕はツイッターなどに詳しくないんだけど、こうやって炎上させるんだなとか、リアル感があって、アイドル三人の心情を含めてリーダビリティがありました。でも、ちょっとシンプルすぎるので、マネージャーの視点を入れてもう少し厚みを持たせたら……とか感じました。

 僕も面白かったです。僕もある意味油断して読んでたので、八十ページ目で判明するところではほんとに「おおッ!」と思いました。ラストに関しては、このまま終わっちゃう手もあると思ってるんですけど、作者としてはこの先どういうことを考えているのか、結局、主人公にどういう末路をたどらせるのかはちょっと聞いてみたいですね。それを最後に書くか書かないか、もちろんいろんなやり方があると思いますけれども、本当にこのラストまでしか考えてないんだとすると登場人物に失礼だなという気もしていて、そのへんの書き手としての構え方に興味があります。

P この方、好きな小説が綿矢りささんの『勝手にふるえてろ』だそうです。

 メフィスト賞投稿者としては珍しいタイプかも!

 文章の上手さと引き出しの数を思うと、確かにミステリだけ読んでました、みたいな人ではない感じはありますね。

P 様々な面で光るところやいい意味でのクセを持っている書き手なんですよ。そうそう、ついでに言いますと、この方JDです。JDCではございません。

Y メフィスト賞にわざわざ絡めなくても、女子大生って言いたいんでしょ。

 若い書き手なのに、文三メンバーの心をとことんくすぐる手練だこと。ね、戌さん。

戌 それは間違いないと思いますよ。

 僕としては心をとらえて仕方がない作品です。これは世に出してみたいんですよ。皆さん、決めました! いいですかー。もう一本、新しい風を吹かせましょう。『#柚莉愛とかくれんぼ』を第61回メフィスト賞とします!

一同 おめでとうございます!!(拍手)

⇒メフィスト2019 VOL.1 座談会後編に続く