『くらのかみ』解説/大矢博子

文字数 1,398文字

「十二国記」「ゴーストハント」「残穢」小野不由美さんの知られざる傑作、『くらのかみ』が、文庫化です!

単行本は2003年、「ミステリーランド」というレーベルから刊行。ミステリーランドは、「かつて子どもだったあなたと少年少女のための」をコンセプトにした、児童向けのミステリーレーベルでした。

…そして21年目にしてついに文庫化!

刊行を記念して、文庫巻末収録の書評家・大矢博子さんの解説の一部を特別に掲載します!

解説 大矢博子(書評家)


 物語の語り手は小学校六年生の耕介。夏休みに、父と一緒に田舎の本家を訪れた。親戚が集まって後継者の相談をするためだったが、それぞれの親についてきた子どもたちは正直退屈。そこで話に聞いた「四人ゲーム」を試してみることにした。真っ暗な部屋の四隅に立ち、そのうちひとりが壁づたいに歩いて次の隅で待っている子の肩を叩く。叩かれた子は同じように進んで次の隅の子のところへ行く。それを繰り返すと、四人目の子は最初の子がいた場所、つまり今は誰もいない場所に辿り着く……はず。


 ところが、そこには誰かがいた。慌てて灯りをつけると、なんと五人いる! ひとり増えている。それなのに知らない子はいない。え、どういうこと?


 という、典型的な「座敷童子」登場という場面で物語は幕を開ける。その場にいた子どもたちはひとり増えたことはわかっているが、それが誰なのかわからない。大人に聞けばわかるかと思いきや、大人たちもみな、最初から五人いたと思い込んでいるらしい。うわあ、なんてワクワクする幕開けだろう。


 そして謎はそれだけではない。なんと大人たちの食事にドクゼリが混ぜられており、死者こそ出なかったものの、五人が具合を悪くして救急車を呼ぶ騒ぎになったのだ。だがこんな時期にドクゼリが間違って摘まれるなどということはありえない。これは相続に絡む殺人未遂なのでは? ところが長年本家で暮らす老人は言う。「これは、たたりだ」。


 座敷童子、殺人未遂、そしてたたり! 田舎の旧家で起きた相続問題とたたりだなんて、ミステリ好きにはたまらない組み合わせではないか。金田一耕助がいきなり登場してもおかしくない。そこに座敷童子まで入ってくるんだから面白くならないわけがないのだ。


 それを子どもたちが解決しようとするのがポイント。たたりを思わせる事件が相次ぐ中、狙われたのは誰かという観点からポイントを絞っていく。その過程はまさに本格ミステリの醍醐味だ。特筆すべきは座敷童子の存在である。話が進むにつれて座敷童子の謎はちょっと横に置いておかれ、殺人未遂とたたりが中心となるのだが、終盤の謎解き近くになって「そこに座敷童子が絡むのか!」と驚くことになる。これは座敷童子というファンタジー要素を論理的な謎解きに組み込んだ、一種の特殊設定ミステリと言っていい。


※大矢博子さんの解説全文は、講談社文庫『くらのかみ』(小野不由美・著)でお読みください。

行者に祟られ、座敷童子に守られているという古い屋敷に、

後継者選びのため親族一同が集められた。
この家では子どもは生まれても育たないという。

夕食時、後継ぎの資格をもつ者のお膳に毒が入れられる。
夜中に響く読経、子らを沼に誘う人魂。
相次ぐ怪異は祟りか因縁かそれとも──。

小野不由美の隠れた名作!

ミステリーランド刊行時の装幀!

イラスト/村上勉

装幀/祖父江慎+阿部聡(cozfish)

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