No.3 『空貝』登場人物との対話その2
文字数 2,078文字
「戦国BASARA」でもおなじみの伝説的女武将・鶴姫と、主家への復讐を企む若き軍師・越智安成の悲恋を描いた『空貝(うつせがい) 村上水軍の神姫』。
『立花三将伝』や『大友二階崩れ』で戦国の武将たちを描いた赤神諒さん入魂の「恋愛歴史小説」であるこの物語の文庫化によせて、登場人物×赤神諒さんの架空座談会?をお届けいたします!
赤神:本日もご多用の中、第二回――
ウツボ:白々しいんだよ。同じ日に収録してるのバレバレなのにさ。あっしのネクタイだって変えてないし。
松:しっかし、お茶に柿の種だけって、しょぼいわね。中身のピーナッツもやけに少ないし。もう、青神さんの分まで食べちゃった。隠れた名作しか書いてない作家の苦境が偲ばれるわ。
ウツボ:次の作品こそ、隠れなき名作にって、何度聞かされたかな。ほれ、おいらの残りをやるよ。
松:ありがと。あたしは献本してもらった一冊を片っ端から回し読みさせてるけどね。もうボロボロよ。
ウツボ:この前『空貝』を置いてないコンビニがあったから、カウンターでバイトの学生さんを怒鳴りつけといた。大体置いてないから、行く先々で揉めるんだよ。
赤神:お気持ちはありがたいのですが、そんな真似は――
松:あたしも近くの薬局に置いてなかったから、トラブったことあるけど、もしかしたら、逆効果なのかな。
赤神:ちょっとよろしいでしょうか、一応私が司会――
ウツボ:ああ、『空貝』で意外にいい味出してる場面だろ? おいらは、ちょうど作りかけの厳島神社で、若(安成)が縫殿助の野郎と二人で鶴姫を待ってるシーンなんか、好きだねえ。ちょいと出がけに口論しちまって、恋人同士は剣呑な感じだったんだけど、実は鶴姫は大内家の御曹司から好条件で口説かれてるって、若にわかるところさ。おいらは悪くねえと思うよ。
赤神:おお、ちゃんとおわかりじゃないですか。ちなみにウツボさん、今日は『おいら』なんですね。
ウツボ:よくぞ訊いてくれた。実は――
松:あたしはまだ序盤で、姫が安成さまに恋をし始めて間もない頃。軍船の上で、安成さまの作戦が外れたんじゃないかって、村上通康さまが気を病むんだけど、姫が戦の勝敗じゃなくて、実は安成さまの安否ばかり心配してるって気づくシーン。なんか、いいわよねえ。
赤神:お二人とも、ちゃんと細部まで読み込んでくださってますね。本当にありがとうございます。書いてよかったと――
ウツボ:あんたはどうなんだい? こっそり仕組んだ、意外に目立たねえ工夫なんか、ひとつこの場で明かしてみな。
赤神:渋めの工夫では、やはり磯さんですかね。
松:ちょい役か。可哀想な安成さまの奥方だね。
赤神:もともとは漁師だと素性を偽っている安成さんを、『越智』姓にして、かつ大祝家に入り込ませるための設定だったんですが、彼女にはウツボさんに情報を流したり、毒を盛ったり、何より最後に安成さんを裏切って過去を暴露するという極めて重要な役割を果たしてもらっています。意地でも登場人物をこれ以上増やすまいと決意して、磯さんに役割を統合した結果、むしろ感情の動きと行動に合理性が生まれてきて、物語にもっともらしさを持たせられたと――
ウツボ:要するに、青神さんもこっそり頑張って工夫したってわけだ。
松:要しすぎじゃないの。
赤神:ウツボさん、もうバランほとんど空ですけど、私の説明、ちゃんと聞いてました?
松:では、読者の皆様。次回最終回、ご期待ください!
■主な登場人物
《伊予水軍》
大祝鶴姫(おおほうり・つるひめ) 大祝家絶世の美姫。陣代で台城主。十六歳。
越智安成 大祝家直属の大三島水軍の軍師。二十歳。
ウツボ 安成の腹心。
村上通康 来島村上水軍の頭領。二十三歳。
村上尚吉 因島村上水軍の頭領。
鮫之介 大祝家に仕える水将。鶴姫の武芸の師。
松 鶴姫の乳母にして、侍女。
大祝安舎 第三十二代大祝。大祝家当主。鶴姫の長兄。
大祝安房 陣代。鶴姫の次兄。
越智通重 大祝家臣。安成の舅。小海城主。
磯 安成の妻。通重の養女。
シャチ 来島村上水軍に身を寄せる少年。
《大内水軍》
小原中務丞 剛勇無双の猛将。別名、鬼鯱。
白井縫殿助 大内水軍きっての謀将。