『北緯43度のコールドケース』書評/西上心太

文字数 1,136文字

第67回江戸川乱歩賞受賞作伏尾美紀さん『北緯43度のコールドケース』が文庫化!

書評家・西上心太さんのブックレビューです!

 クローズドサークルで起きた密室殺人と武侠小説が融合した本格ミステリーである桃野雑波『老虎残夢』。そして札幌を舞台に未解決事件に挑む女性刑事を描いた本書。第六十七回江戸川乱歩賞は対照的な二作が同時受賞する運びになった。


 札幌郊外の倉庫から、死後間もない女児の遺体が発見され、三歳の時に誘拐された島崎陽菜であることが判明した。誘拐があったのは五年前のこと。犯人の男は札幌駅で身代金を奪い、逃走中にホームから転落し轢死。人質の行方が不明のまま、事件は迷宮入りしていたのだ。成長した人質が発見されるという新たな展開により、共犯者の存在が浮かび上がる。秘かに陽菜を育てていた理由は、そしていまになってなぜ彼女を殺したのか。事件は世間の注目を浴びるが、またしても捜査は難航するのだった。


 大学院で経営組織科学を学び、博士号を持つノンキャリアの女性刑事という主人公の設定には興味をひかれる。熱量が豊富でページをめくらせる力のある作品だが、ギクシャクした印象も受ける。誘拐の構図や、ある人物が置かれた状況など感心する点も多いのだが、選評で縷々指摘されていたように、ヒロインのトラウマや家族問題、警察の機密漏洩問題など、あれこれと詰め込みすぎたためだろう。それらのエピソードがばらばらで終わることなく、ヒロインの行動原理となったり、プロットと有機的に結びついていくのではあるが。


 経歴を見たらミステリーを書いたのも投稿したのも初めてというので驚いた。それでこれだけ読ませる作品を書き上げたのだから、これからが楽しみだ。テクニックは後からついてくる。シリーズ化も期待できるデビュー作となった。

※このブックレビューは単行本刊行時のものです。(小説宝石2021年11月号掲載)
伏尾美紀(ふしお・みき)
1967年北海道生まれ。北海道在住。2021年、第67回江戸川乱歩賞受賞作『北緯43度のコールドケース』(本作)でデビュー。23年、博士号を持つ異色のノンキャリ警察官・沢村依理子が登場するシリーズ2作目『数学の女王』を刊行した。

第67回江戸川乱歩賞受賞作

待望の文庫化!

異色の女性エリートノンキャリが、組織の闇に翻弄されながらも、未解決事件(コールドケース)の真相にせまる。
新たなヒロイン、新たな警察小説、ここに誕生!


博士号を持つ異色の警察官・沢村依理子。
北海道警察で現場経験を積む沢村は凍てつく一月、少女死体遺棄事件の捜査に加わる。
発見された少女は五年前に誘拐され行方不明となっていた島崎陽菜だった。
容疑者死亡で未解決だった事件は沢村を呑み込むように意外な展開を見せる。

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色