トークイベント開催！＆「産む産まない」シリーズの軌跡

「産む産まない」シリーズの軌跡　　　　　編集担当・N

　2008年、小説現代掲載の短編「コイントス」から始まった当シリーズ。意外にも最初のテーマは“家族”だった。そこから不定期で短編の掲載は続き、2014年に最初の単行本『産む、産まない、産めない』が刊行された。中心となるテーマは“妊娠と出産”に移り、共感を覚える読者の支持を集めて版を重ねた。

　テーマに手ごたえを感じた著者は、小説現代でシリーズ第2弾としての短編掲載をまた開始する。テーマはそのまま引き継がれ、不妊治療クリニックや、産婦人科医、養子縁組コーディネーターなどへの取材も精力的に続けられた。その結実として、シリーズ第2弾『産まなくても、産めなくても』が刊行される。シリーズ1、2巻を通して″顕微授精”や“卵子凍結”、“特別養子縁組”など、当時はまだ聞き慣れなかった“不妊治療”に関連する情報を盛り込んだ作品が練り上げられていった。

　そしてシリーズ第3弾の『私、産まなくていいですか』。1、2巻とは少し趣を変え、中編3本から成る構成で、しかも文庫書下ろしとなった。内容もタイトルどおり“産まない選択”がテーマの中心に据えられる。その中の1編「拡張家族」は原点回帰というか、シリーズ初期と同じく“家族”がテーマとなる。

　進化を止めない著者・甘糟氏のこれらのテーマへの探求はまだまだ続く。

「産む性」として揺れ動く女性たちの“心の葛藤”とそれぞれの“人生の選択”を描いた八つの物語。

不妊治療を始めるか、続けるか、やめるか、突然の妊娠、仕事と出産、育児をどうするか、流産をどう受けとめればいいのか、独身で産むか、病気で産めなくなることにどう向き合えばいいのか……

妊娠と出産をめぐる女性のさまざまな戸惑いや迷いを丁寧にすくいあげる注目作。

妊娠と出産にまつわる、女性にとって切実な話題を切り取った七つの物語──

「第一話　掌から時はこぼれて」39歳の女性弁護士が、ふとしたきっかけで知った卵子凍結の情報に、心が大きく揺さぶられて……。

「第二話　折り返し地点」妊娠よりもオリンピック出場を優先してきた女性アスリート。レース前、胸に去来したものは？「第三話　ターコイズ」不妊治療中の女性たちが集うイベントで、子宮の劣化の話を聞いて愕然となり……。

「第四話　水のような、酒のような」バブル時代に独身生活を謳歌した男が、不妊治療のクリニックで思わぬ宣告を受け……。

「第五話　エバーフレッシュ」妊娠をめざすのか、仕事を優先するのか。女性の厳しい現実に対応する、新しい社内制度とは？

「第六話　五つめの季節」三度目の流産で子供をあきらめかけたとき、養子縁組のことを知り……。

「第七話　マタニティ・コントロール」近未来。不妊治療や子育て支援に大きな予算が投じられ、妊娠は政府によって制御されようとしていた。

産みたくないことに、どうして理由が必要なんだろう？

鎌倉の海辺のホテルで、ウエディングプランナーとして働く美春。一つ年上の夫・朋希の40歳の誕生日に、ライカのカメラを奮発したことから二人の仲がぎくしゃくしはじめる。結婚するときに、子供はいらないと充分確認し合ったはずなのに、将来のために子供のことを考えたいと言い出したのだ。それからは母親の手術をきっかけに、不妊治療中の姉夫婦とも不仲になるなど、朋希との隔たりは一向に修復できないまま。そのあげく、二人は子どものことが原因で離婚に至るのだった……

「独身夫婦」／結婚12年。夫が突然家を出ていき、義母と息子、友人カップルたちと鎌倉の古民家に同居することになり……

「拡張家族」／再婚同士、43歳で結婚した花葉はどうしても二人のDNAをこの世に残したくなり、最新技術を求めて海外へ……

「海外受精」──妊娠と出産をめぐって“女性の選択”を問いかける小説集！