幻想シリーズ最新刊『殿の幽便配達』刊行!

文字数 1,676文字

堀川アサコさんの大人気「幻想」シリーズ最新刊『殿の幽便配達 幻想郵便局短編集』が3月15日刊行です!

このシリーズ、いったいどんなお話なの……? 作家の堀田純司さんがわかりやすく解説!

興味はあったけどまだ未読、という方、必読です!

解説 / 堀田純司


 シリーズの主人公は安倍アズサ。『幻想郵便局』の冒頭で、かたっぱしから面接に落ちて就職浪人中だった彼女は、「探し物」という冗談みたいな特技を買われて、ある郵便局で働くことになります。


 その郵便局、「登天郵便局」は山の上にある。不思議なことに狭いはずの頂上に建っていながら、裏には無限の広さの庭が広がっている。大柄でいつも庭仕事に勤しんでいる赤井局長をはじめ、オネエ言葉の青木さん、アメリカンコミックのヒーローみたいなボディの鬼塚さんたち職員も、どことなくその存在が浮き世離れしています。


 それもそのはず、この郵便局の所在地は地獄の一丁目。あの世とこの世の境目にあり、生者と死者の世界をつなぐ役割を担っていたのでした。


 フワッとしてゆるい感じの職員たちですが、そこはやはり、人の世の理を超えた存在。常識が通用しない怖さも垣間見えます。おおらかな性格のアズサもさすがに怖くなったのですが、結局は働き続ける。


 そうして、郵便局サイド「まったくクロ」の、弁解の余地のない地権争いに巻き込まれ、神のお怒りを経験しつつ、友だちになった幽霊、真理子さん殺人事件の謎に体を張って(張るハメになって)、挑むことになります。


「魅力的な物語」とは、さまざまな読み方ができて、いろんな共感ポイントがあるものだと思います。


 僕の場合、この『幻想郵便局』から受け取ったのは、「必要とする心、必要とされたい心があれば、死者とさえ、つながる(だったら生者とつながらないはずがない)」というメッセージ。


 アズサは、面接に落ちまくっていた。つまり誰からも必要とされなかった訳で、いくら両親が「なりたいものになればいいよ」と言ってくれていても、本人も内心では、寂しかったことでしょう。その気持ちは、刺さるほどよくわかります。


 そこに、たとえ人外であっても必要とされたら。もしかすると手先として操られるだけであっても、それはうれしかったはず。


 必要としたい欲望があるのも人間ですが、必要とされるとうれしいのも人間。だからこそ誰からも必要とされないことは、なによりも寂しい。ラストに来てその気持ちは意外な展開を見せるのですが、とても心地よく心にグッとくるものでした。

※この解説は『幻想温泉郷』巻末に収録されている「解説」の一部抜粋です。

あの世とこの世の橋渡しを担う登天郵便局には死者が残して行く手紙や、

生者の書いた届けられない手紙がたどり着く。
そして亡くなった人も。

幽便配達の登天さんは、郵便局を訪ねてきた「殿」と配達に出かけることに。
ウイルスや熊から平安貴族まで転生をくり返している「殿」の意外な正体は?

幻想シリーズは、ここから始まった…!

就職浪人中の安倍アズサは、「なりたいものになればいい」と親から言われてきたけれど、なりたいものってなんだかわからない。

そんなときに特技欄に“探し物”と書いて提出していた履歴書を見て、アルバイト決定の連絡が。

アルバイト先は、山の上、ぽつんとたたずむ不思議な郵便局。そこで出あった不思議な人々と不思議な世界とは……。

ようこそ、登天郵便局へ。オリジナルのものから改稿し、さらにグレードアップ!

堀川 アサコ(ホリカワ アサコ)

1964年、青森県生まれ。2006年『闇鏡』で第18回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。主著に『幻想郵便局』『幻想映画館』『幻想日記店』『幻想探偵社』『幻想温泉郷』『幻想短編集』『幻想寝台車』『幻想蒸気船』『幻想商店街『幻想遊園地』の「幻想シリーズ」、『大奥の座敷童子』『小さいおじさん』『月夜彦』『魔法使ひ』『オリンピックがやってきた 猫とカラーテレビと卵焼き』『メゲるときも、すこやかなるときも』、「おもてなし時空」シリーズなどがある。

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