『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』訳者あとがき/亀井よし子

文字数 2,031文字

© Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022

37ヵ国で刊行され、英国文学最高の賞〈マン・ブッカー賞〉にノミネート、日本でも本屋大賞第2位(翻訳小説部門)の傑作小説『ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅』が映画化! 本国英国では初登場新作No.1の大ヒットを記録しました。


今回、映画の日本公開に合わせ、原作小説が装いも新たに映画邦題『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』と同タイトルに改題、講談社文庫より5月15日発売決定となりました。

6月7日からの日本公開を前に、原作の翻訳を担当した亀井よし子さんの「訳者あとがき」を、特別に一部掲載いたします。

最後に映画の試写会ご招待情報もあります!必見!

訳者あとがき/亀井よし子


 2012年に発表されたこの作品は、著者の小説としての第一作だが、デビュー作でいきなり英国文学界最高の賞であるマン・ブッカー賞にノミネートされて大きな反響を呼んだ。残念ながら受賞は逃したが、著者自身は同年の「本年の新人作家」に選出された。また、作品そのものはのちに37ヵ国で翻訳出版されるとともに本国イギリスで映画化され、このほど日本でも2024年6月7日から公開されることになっている。


 主人公のハロルドには『アイリス』でアカデミー賞とゴールデングローブ賞の助演男優賞に輝いたジム・ブロードベント、妻モーリーンには「ダウントン・アビー」シリーズのペネロープ・ウィルトンと、ともにイギリスを代表する名優が演じて心に染みる感動作に仕上がっている。


 なお、この作品の刊行後まもなく、著者は何人かの友人・知人から続編を書く気はないかと問われ、そのつど「ない」と答えてきた。「ハロルドとモーリーンについては語るべきことをすべて語った、このへんでふたりにはわたしに観察されたりメモを取られたりすることなく自由に生きてもらいたい」と。ところが、ある日、「『わたしはここよ』というクウィーニーの声」が聞こえてきて、いまさらのように、作品の中でクウィーニーの内面をほとんど描かずにきたことに気づくと同時に、クウィーニーの物語が「まるで閃光のように」、しかも「ほぼ完成されたかたちで〝降りて〟」くるのを感じたという。というわけで、2014年、ハロルドの到着を待つあいだクウィーニーが何を思い、いまにも尽きようとする命の火をどう燃やし続けてきたかを語るパラレルストーリー『ハロルド・フライを待ちながら クウィーニー・ヘネシーの愛の歌』(拙訳、2016年、講談社)が完成した。


 さらに、2022年には、“MAUREEN FRY and the Angel of the North”(未訳、仮題『モーリーン・フライと北の天使』)が出版されている。ハロルドの出奔から10年後、ハロルドの旅に一時同行した女性からのポストカードに誘われて「まさか」の旅に出るモーリーンの姿が、今回もまた映像を見るように描き出されている。それによって、人間への愛と上質なユーモア、情景描写の美しさ、心理描写の機微、そして何よりもみごとなストーリー展開などによって、人生の哀歓を語り尽くした「ハロルド・フライ・トリロジー」が完結したことになる。

映画『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』特別試写会にご招待!


2024年6月7日公開の映画『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』特別試写会に10組20名様をご招待します!


【応募締切】5月16日(木)23:59


【試写会概要】

   日時:5月27日(月)開場18:30 開映19:00
   上映後にトークショーを実施予定です。(21時半頃終了予定)
   会場:千代田区立日比谷図書文化館地下1階コンベンションホール

     (東京都千代田区日比谷公園1-4)


応募はこちらから>>


『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』映画サイトはこちらから>>

『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』(講談社文庫) 5月15日発売!

65歳のハロルドに元同僚の女性から、末期癌でホスピスにいるという手紙が届く。

彼は20年会っていない彼女に返事を書くが、ポストへの投函を躊躇ううちに、一人で1000キロの道を歩き、直接気持ちを届けようと決意する。家族の秘密に世界が泣いた感動作。(『ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅』改題)

レイチェル・ジョイス

イギリス生まれ。テレビ、ラジオ、演劇などの分野で20年にわたり脚本家として活躍し、2012年に初めて発表した小説が本書。刊行後、英国文学界で最高に権威のあるマン・ブッカー賞にノミネートされ、同年、ナショナル・ブック・アワード新人賞を受賞した。他の著書に『ハロルド・フライを待ちながら クウィーニー・ヘネシーの愛の歌』、本書の妻モーリーンが主人公の「Maureen Fly and the Angel of the North」(原題・未翻訳)などがある。

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