『カラスの親指』を読んでおけば『カエルの小指』は数倍面白い!

文字数 2,283文字

あいつらが帰ってきた…!


息もつかせぬ驚愕の逆転劇、そして感動の結末! 

道尾秀介さん最初の直木賞ノミネート作品で、第62回日本推理作家協会賞受賞作品『カラスの親指』

あの「やつら」が帰ってきました! 

2022年2月15日刊行の『カエルの小指』を読むまえに、もう一度『カラス』を読んで復讐しておくと間違いなし!

「大の道尾ファン」であるブックジャーナリスト、アルパカさんこと内田剛氏が『カラスの親指』から『カエルの小指』を熱くご案内!

 何事にも順序がある。基礎から応用、起承転結、生老病死。

 いきなりジャンプするよりもホップから始めてステップし、思い切って飛び上がった方がより高く遠くに行けるということは誰しも経験があるだろう。 

 この真理を踏まえて考えてほしい。


 2022年2月、待ち望んでいた吉報が。

 人気作家・道尾秀介の 『カエルの小指』の文庫化だ。

 これはもう全国民に読んでほしい名作にして『カラスの親指』の続編である。一刻も早く読みたくて気持ちがはやるが、こんな時にも慌てず、焦らず。順序が大事。

 前作『カラスの親指』を未読の方は速やかに読むべし。既読の方も再度の熟読を提案したい。深く読むほどにこの二冊は輝きを増す。大胆にして繊細な著者の企みが全身に沁みわたるのだ。 

 個人的な話で恐縮であるが、30年近く書店員として働いていた自分にとって道尾秀介は特別な存在。文庫化されて大ベストセラーとなった『向日葵の咲かない夏』を仲間から薦められて衝撃を受けて以来、この約15年の読書ライフは道尾作品が中心にあったといっても過言ではない。


 近刊でもトリッキーな仕掛けも見事な『いけない』(2019年)や720通りの読み方を味わえる驚愕の短編集 『N』(2021年)など、刺激に満ちた作品も数多いが、特におすすめしたいのは、タイトルに十二支の動物たちが隠された『ラットマン』(2008年)『カラスの親指』(2009年)『龍神の雨』( 2010年)という作品群だ。

 その中でも突出して万人向けといえるのが『カラスの親指』

 詐欺師の話だが嘘偽りなく完成度の高い傑作である。

 ささやかな謎かけから壮大な仕掛けまで、知力を総動員させたような切れ味の鋭いトリックはもちろんのこと、その最大の魅力は登場人物たちのキャラクターにある。     


 阿部寛主演で映画化( 2012年)もされたので映像で記憶している方も多いだろうが、とにかく喜怒哀楽の感情の機微を 閉じ込めた人間臭さが手に取るように伝わってくる。描かれているのはきれい事ばかりではない。 むしろ生きづらい日常だ。

 

 老若男女、人は誰でも十字架を背負って生きている。隠しておきたい心の傷や、目を背けたくなる過酷な現実にも直面する。そんな毎日で不器用でもひたむきに、ただ真っ直ぐに生きる人たち。それは決して物語の中にいる特別な存在なのではなく、一寸先も見えないようなこの世の闇、理不尽な社会の象徴にも思えてくる。そしてストーリーの中に自分やごく親しい存在がいることにも気づくだろう。特殊な設定のようで極めて普遍的な世界に感じられ不思議なほど共感してしまうのだ。 

 

 大事なことなのでもう一度言おう。何事にも順序が大事である。石川啄木ではないが、じっと自分の手を見てもらいたい。そしてゆっくりと指を折ってみよう。親指から小指へ。そう『カラスの親指』から『カエルの小指』と読んでみてはどうだろう。

「親」から「子」へと受け継がれる絆が愛おしい。それぞれの指にかけがえのない人たちの表情が浮かんでくるようだ。


 もちろん新刊『カエルの小指』から読んでも十分に楽しめる。しかし知っておいてもらいたいのは、2つの物語の間には およそ10年の時間が流れている点。子どもたちだけでなく、中年のおじさんも含めた登場人物たちの成長も鍵となっており、言うならば『カラスの親指』そのものが『カエルの小指』の伏線になっているのだ。


 『カエルの小指』の親本(単行本)が世に出されたのは2019年10月のこと。その直後から新型ウイルスの蔓延によって世界中が非日常の生活を余儀なくされた。いまだに変異株など感染の脅威は消え去っていないが、そうした特別なタイミングでシリーズ2点が文庫として並ぶことに非常に大きな意味を感じる。人間同士の生身の触れ合いが希薄になった今だからこそ濃密な人情ドラマが心にも体にも響くのだ。


 ささやかな泣き笑いが心に明かりを灯す。人は決してひとりでは生きられない。たとえ血の繋がらない他人同士であっても、ワン・チームとなり気持ちをひとつにできれば明日を切り開くことができる。

何度読み返しても思いもよらない人肌の温もりと底知れぬ情に涙が止まらない。鮮やかな道尾マジックは眼前の闇をもスッキリと晴らしてくれる。まさに唯一無二の感動を与えてくれるこの時代が待ち望んでいた文学なのだ。優れた物語は世界を変える。心して噛みしめよう。  


↓↓2022年2月15日刊行!↓↓
道尾秀介(みちお・しゅうすけ)

1975年生まれ。2004年『背の眼』で第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞しデビュー。2007年『シャドウ』で第7回本格ミステリ大賞、2009年『カラスの親指 by rule of CROW's thumb』で第62回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)、2010年『龍神の雨』で第12回大藪春彦賞、同年『光媒の花』で第23回山本周五郎賞、2011年『月と蟹』で第144回直木賞を受賞。他の著書に『N』『雷神』『いけない』などがある。

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