現役大学生が読んだ! 荒んだ心に沁みる、あの世界的名作②
文字数 1,336文字
今回はおよそ100年前(!)に出版された世界的名作、ジョン・スタインベックの『ハツカネズミと人間』を読んでいただきました。
令和の学生は、不況の真っ只中にある1930年代のアメリカを舞台にした作品をどう読んだのか…?
自然豊かな1930年代のカリフォルニア。
大恐慌による景気の落ち込みは深く、失業率は高く不況は深刻。
そんな中で貧しい「渡り労働者」として苛酷な労働と住環境で日々を過ごす、しっかり者のジョージと怪力のレニー。
2人には小さな夢があった。
「いつか自分たちの土地を持ち、ニワトリやウサギを飼い、
土地からとれる極上のものを食べて暮らす──。」
辿り着いたとある農場で、新しい仲間たちや雇い主と出会い、2人は夢の実現へと一縷の希望にすがるが──。
貧しい渡り労働者の、苛酷な日常と無垢な心の絆を描く、哀しくも愛おしい世界的名作。

ハツカネズミと人間 感想/ A.U
ジョージとレニーの関係はまるで兄弟だ。
ジョージがレニーの面倒を見て、レニーはジョージを信頼している。
お互いがお互いを必要だと思って、大切だと思って行動を共にしている。
そんな素敵な関係性だが、傍から見ればアンバランスで不思議な関係に見えるのだろう。
ジョージは親方に、レニーを騙して金を巻き上げようとしているのではないかと勘違いされてしまう。
一般的な渡り労働者は一人で旅をするため、二人で行動しているだけで裏があると思われたのかもしれない。それに加えて、しっかり者のジョージと知的障害のあるレニーという組み合わせである。一見すると二人は対等な関係であるようには見えないのだ。
これは現代でもいえることで、むしろ現代の方がアンバランスな二人組への理解が無いかもしれない。
人は同じような趣味、思想、バックグラウンドを持つ者同士で群れる傾向にある。他の人の視線を気にして、なるべく自分と同質の人間と付き合おうとする。もちろんそうでない集団もあるが、付き合う人の選別が無意識に行われている。
けれど、レニーは違う。誰に対しても垣根がなく、黒人のクルックスにも、厄介者扱いされているカーリーの妻にも、分け隔てなく接する。ジョージとレニーは正反対だけど、先入観のないレニーと、レニーの優しさに触れたジョージだから、話したいことが話したいだけ話せる関係になったのだ。
皆がレニーのような素直な心を持って接していたら、クルックスも、カーリーの妻も、救われていたかもしれない。
スタインベックを読むのは初めてだったが、100年も前の物語とは思えないほどすんなりと世界観に没入することができた。
考えさせられる内容ではあるが決して難しい話ではなく、自分の様々な感情を引き出してくれる読み応えのある物語だった。
アメリカの小説家・劇作家。1929年に処女作『黄金の杯』を出版。’34年には短編小説「殺人」が『ノース・アメリカン・レビュー』4月号に掲載され、これにより「O・ヘンリー賞」を受賞する。’97年に『ハツカネズミと人間』(本作)を出版する。’57年には国際ペン大会で来日を果たした。’62年にノーベル文学賞受賞。