『試験に出ないQED異聞 高田崇史短編集』著者コメント

文字数 1,889文字

博覧強記の薬剤師・桑原崇の超絶推理が冴えわたる「QED」、天才高校生の論理パズル「千葉千波の事件日記」、橘樹雅が神話に隠された敗者の歴史を解く「古事記異聞」。高田作品の人気シリーズが1冊に詰まった贅沢な短編集『試験に出ないQED異聞 高田崇史短編集』の文庫版が登場しました。

そこで著者である高田崇史さんが、収録作品を振り返るコメントを寄せてくださいました!

『試験に出ないQED異聞』


この本は、5年ほど前に「高田崇史、作家デビュー20周年記念特別短編集」(長い)として刊行されたものです。

ということは、今年でデビュー25周年を迎えるわけですが、それに当たって「20周年記念」の短編集を出版するという、文庫担当者の深謀遠慮(?)が窺えます。

なので本書の収載作品は、平成12年(2000)から令和元年(2019)に渡る多彩なラインナップとなっています。

しかし、まず断っておきたいのは、タイトル通りこの本からは何1つ学校の「試験に出ない」ということです。また、もし出題されたとしても、ここに書かれているまま解答してはいけません。あなたは必ず「不可」を貰ってしまうでしょう。

また、この本の内容に関しては、滅多に書くことのない「あとがき(解説風エッセイ)」に一編ごとの細かいエピソードなどまで書いてしまっていますので、ご興味がおありの方は、そちらにお目通しいただければと思います。


「QEDシリーズ」でデビューした後に「メフィスト」誌上にも短編を、と依頼されて書いたのが「千波くんシリーズ」でした。殺人事件も起こらず、あくまでも「パズル」がメインの小説で、今まで誰もこんな(バカげた)ミステリを書かれていなかったようなので、書いてみました。

「解説風エッセイ」にも書きましたが、読者が「何の知識もなく手ぶらで入って行き、与えられた条件だけで事件を解決できる」という、まさに「本格ミステリの本質」なのではないかと(世間の評判とは裏腹に)今でも思っています。


「古事記異聞」という新シリーズ立ち上げに関しては、出雲と伊勢に関しての新たな発見があったことが大きな理由です。

それなら「QED」の続編で良いではないかと思われるかも知れませんが、そうなると「新しい結論」に達するまでの話を、主人公含め周囲の登場人物たちが(長いシリーズの中で)既に知ってしまっているため、何を書いても、

「これは以前に言ったが……」とか「その話は前に聞いている……」

となってしまい、物語として成立しなくなってしまうのです。

そこで(それら前段階の話を全く知らない)橘樹雅に登場してもらいました。


ノベルス刊行時は、木曾義仲に関する謎を追って「QED」の桑原崇・棚旗奈々と、「古事記異聞」の橘樹雅が、旅先で出逢うという話を書き下ろしました。崇は、雅が在籍している大学の助教授・小余綾俊輔と面識があった(らしい)ので、こんな邂逅も面白いのではないかと思って書いてみました。


またその他にも、当時の「メフィスト」に載せた、ぼくにしては珍しく「歴史」も「パズル」も全く出て来ない(こんな物も書いていたんだ……と思えるような)短編を2編、収載させていただきました。


作中にも「あとがき」にも書きましたが、我々もまた「縁」によって出会い、別れていきます。あなたとこうやって巡り会うのも、何かの「縁」が働いているからでしょう。

思えば25年間で「QEDシリーズ」23作を始めとして、講談社だけで60作以上の書き下ろしを出版させていただきました。当初は3作くらい書ければ良いかな、と思っていたのですが振り返ってみると、ただただ素直に驚いてしまいます。

更に今年は「デビュー25周年特別書き下ろし」や「小余綾先生シリーズ」(他社ですが笑)「QEDシリーズ」等々……と、たくさんの書き下ろしが控えていますので、ぜひとも懲りずによろしくお願いします。


ということで、最後に(本書の「あとがき・解説風エッセイ」にも引用させていただきました)三島由紀夫の言葉を。


「どれほどの烈【はげ】しい夜、どれだけ絶望的な時間が、これらの書物に費やされたか、もしその記憶が蓄積されてゐたら、気が狂ふにちがひない」


ではでは、またお目にかかれる日を楽しみに。


高田崇史


高田崇史(たかだ・たかふみ)

東京都生まれ。明治薬科大学卒業。『QED 百人一首の呪』で第9回メフィスト賞を受賞し、デビュー。歴史ミステリを精力的に書きつづけている。講談社ノベルス最長の人気シリーズQEDシリーズをはじめ、著作多数。近著に『古事記異聞 鬼統べる国、大和出雲』『QED 源氏の神霊』『QED 神鹿の棺』など。

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