『花咲舞が黙ってない』池井戸潤×キャスト4人クロストーク!

文字数 6,983文字

4月某日、作家の池井戸潤が日本テレビ・生田スタジオの門をくぐった。代表作の一つである『花咲舞が黙ってない』が連続ドラマ化され、出演陣への挨拶も兼ねて撮影現場の見学に訪れたのだ。


今田美桜が演じるヒロインは、メガバンク・東京第一銀行の臨店班──支店のミスをチェックする本店の部署──に所属する花咲舞。上司である相馬健(山本耕史)と共に銀行内で起きたトラブルを次々に解決し、密かに進行する陰謀に立ち向かうというストーリーだ。


本作はかつて杏と上川隆也のコンビで2014年と2015年に連続ドラマ化されていたが、キャストを一新。過去2回のドラマ放送後に発表された新作小説(中公文庫・講談社文庫『花咲舞が黙ってない』)を原作に、ドラマオリジナルの展開もふんだんに盛り込んだ内容になるという。


舞というヒロインは、旧態依然とした価値観を振りかざすお偉いさん方に、ズバッともの申す。4月13日に放送された第1話では、原作ファンにはお馴染みの「お言葉を返すようですが」というキラーフレーズが冒頭から登場。とある支店に届いた告発状から始まるミステリーの面白さに加え、今自分がいる環境に問題があるならばわきまえずに声を上げることの大切さや、池井戸原作の『半沢直樹』シリーズにも通ずる爽快な逆転劇が絡み合い、視聴者から絶賛の声を集めた。


この日は、第4話(5月4日放送予定)の撮影が行われていた。昼休憩で無人となっていた第1スタジオに入ると、そこには臨店班の部屋のセットが。「本館ではなく別館、しかも地下に追いやられているイメージです」と、プロデューサーがセットのコンセプトや細部のこだわりについて説明する。


臨店班の隣にあったのが、舞の実家であり叔父の健さんが店主を務める「酒肴処・花さき」のセットだ。中に入って大丈夫、何も触ってもOKということで、底が桜の花びらの形になっているグラスやドラマ用オリジナルパッケージのお酒などを手にしていく。舞が暮らす2階へと繋がる階段は、実物で見るとびっくりするぐらい小さい。映し方でこうも大きくサイズ感が変化するのか、と興味津々の様子だ。


舞がいつも座っているカウンターの席につき、「ドラマで観た時より照明が暗いですね。これくらい暗い方がのんびりできる雰囲気が出ていいんじゃないかな。そんな意見を伝えたところから、プロデューサー陣とのやり取りが活発化する。「先日お送りした6話の脚本で気になるところはありましたか?」。法律が絡んでくる複雑な展開をもっと単純化できるのではないか、と池井戸は疑問と共に改善案を語り出し、プロデューサーが「まさか花さきでホン打ち(台本の打ち合わせ)が始まるとは思わなかった!」と嬉しい悲鳴をあげる。「だとすると、この点はどうなります?」と質問し、返答し、さらに質問し……と打ち合わせはヒートアップ。原作者と製作陣がざっくばらんに何でも言い合える関係性が、今回のドラマの成功を支えているのだと感じた瞬間だった。


打ち合わせの途中でキャスト陣がスタジオに入ってきた。花咲舞役の今田美桜、舞のバディとなる相馬役の山本耕史、臨店班の上司である芝崎役の飯尾和樹、舞の叔父の(花咲)健役の上川隆也。全員で花さきのカウンターに集合し、池井戸を囲んで集合写真をパチリ。そこから約30分間、メディア初となる原作者×キャストのクロストークが繰り広げられた。

池井戸 ようやくここに来られました。僕ね、花さきのシーンが好きなんですよ。


上川 前のドラマの時からそうおっしゃってくださっていますよね。それは、どうしてなんですか? 先生の作品の中にはない要素なんですが。


池井戸 そうなんです。もともと花さきは原作には出てこないんですが、ここがあると銀行内ギクシャクしたというかギスギスした感じがふっとほどけますし、登場人物のプライベートなところが立ち上がってくる。いいシーンだなぁといつも思って観ているんです。


山本 確かに、箸休めではないんですけど、ちょっと安心して、落ち着いて、スピード感が違う会話ができる場所ですよね。


上川 緩急の「緩」の部分が生まれるシーンになっている。


今田 撮影も、すごくリラックスした雰囲気の中でやっています。お料理も毎回、本当に美味しいんです!


飯尾 こちらのお店、値段も安いですよね。たぶん、家賃がかかってないんですよね?


池井戸 確かに、家賃がかかっていたらこの値段で出すのは無理ですよね(笑)。


上川 そんな事情も皆さんが知っていてくださると、より演じやすくなります(笑)。


──制作発表会見の際、池井戸さんは「花咲よ、風になれ!」というメッセージを送ってらっしゃいました。第1話をご覧になって、どんな感想をお持ちになられましたか?


池井戸 風になっていましたよ。


今田 なっていましたか!? 嬉しいです!


池井戸 新しい風になっていましたね。杏さんがずっとやってらっしゃった役を引き継ぐのはとても難しいと思うんですけど、完全に自分の役として昇華されていた。「今田さんの花咲、いいじゃん」みたいな感想がSNSにもいっぱい出ていましたし、良かったなと思っています。


今田 ありがとうございます。舞ちゃんは演じていて、すごく疾走感と爽快感があります。その中にずばっと、ぐさっとくる瞬間とか言葉が出てくるんですが、くすっと笑えるようなところもあるんです。そこの緩急というかバランスが、演じていてとても楽しいなと思っています。


山本 僕は役柄的に今田さんと常にご一緒させてもらっていますけど、例えば僕が後ろをついていくようなシーンで、背中から熱さが伝わってくるんですよ。セリフが大量にあるシーンの、本番の集中力もすごい。「支えてあげなきゃな」じゃなくて、「付いてかなきゃな」っていうふうに感じさせてくれますよ。


上川 今田さんとは酒肴処・花さきでしかお会いすることがなかったんですが、第1話のシーンを初めてご一緒させていただいたテストの場で、台本にはないけれども筋からは逸れない程度の会話をちょっと差し込んでみたんです。その時の反応、きちんと花咲舞として対応してくださっている姿を目の当たりにすることができたので、そこからはもう何の遠慮もなくやらせていただいています。


飯尾 僕は、今田さんとは臨店班のシーンでご一緒しているんですが、パワーを感じていますね。僕の何気ない一言に対して、カウンターパンチを喰らう、みたいな……。


一同 (笑)


飯尾 生粋のドMなんで、嬉しいんですけどね。銀行内でのやり取りがほぼ全てなので「いってらっしゃい」「おかえりなさい」、たまに途中報告を受けるという感じなので、舞が外でどんなことをしているかは知らないんです。もちろん脚本を読んではいるんですが、1話のオンエアを観てびっくりしましたね。「あっ、こんなに黙ってないんだ」と思って(笑)。


池井戸 すごい迫力ですよね。「お言葉を返すようですが」って、あの言葉の後に何が来るかが、テレビ越しに見ていてもかなり怖いです(笑)。


飯尾 「何返されるんだろう!?」って思いますよね。


今田 ホントですか(笑)。

新しい『花咲舞が黙ってない』を生み出すために必要だったことは


──今田さんは、以前のドラマを学生の頃にご覧になっていたそうですね。


今田 はい。放送当時と、今回お話をいただいて改めて拝見したのですが、元気と勇気もらえるんです。数あるドラマの中で、すごく印象に残っているドラマでもあったので……最初にお話をいただいた時は「どうしよう!?」とは思いました。


上川 いや、勇気がいりますよ。どなたかが1回演じた役っていうのは。


今田 そうなんです! 大人気作でもありますし、杏さんが演じた舞は知的で魅力的に感じましたが、私にはなかなかそうは難しく……。どうやって自分なりの花咲舞をみなさんと一緒に作っていくかというのは、最初はドキドキソワソワしていました。いざ撮影に入ってみたら、一つ一つのシーンについて、話し合う機会がいっぱいある現場なんです。そのおかげで新しい花咲舞ができあがっている、という感じがしています。


──第1話では、舞の右手の握り拳が何度か映されていたのも印象的でした。例えば、お偉いさんにまっすぐな言葉をぶつけた直後に映された、力が抜けてふるふると震えている拳のアップ。舞にも緊張があったし、勇気を振り絞って言っていたんだなと、その震えから伝わってきました。


今田 そこは監督やスタッフさんたちと大事に作っていった場面です。ただズバッと言ってしまうだけではない、等身大の女の子っていうところも描きたいね、と。言葉の裏にある心情も窺えるようになっているかなと思うんです。


池井戸 新しかったですよ。新しい相馬とのコンビも良かったです。1話から型がしっかりできていて、みんなが納得するコンビになっていたと思います。


──別の俳優が演じている役を、今度は自分が……という難しさは、山本さんも感じてらっしゃるのではないでしょうか? 前回のドラマで上川さんが演じた相馬を、今回は山本さんが演じていますね。


山本 よく上川さんのことを、スタッフさんが「相馬さん」って間違えるくらいですからね。


上川 なんだかすみません。僕、一回席を外しましょうか(笑)。


山本 そりゃあ上川さんの相馬さんっていうのは一つの伝説というかね、前のドラマから観てくださっている方々は当然、そのイメージを持っていますから。同じ名前だけれども違う、新しいものとして僕もやらせていただいています。逆に上川さんがいらっしゃることが安心にもなっているし、僕としては非常に心強いです。


上川 さきほど池井戸先生が「花さきのシーンが好きだ」と。原作者の方にドラマオリジナルの部分に関してそうおっしゃっていただけるのは、とてもありがたいことなんですよね。だからこそ、このシーンの持っている意味や役回りは大事にしたいと思っていますし、1作目、2作目では、「花咲」のカウンターに大杉漣さんがいらっしゃいました。今回は僕がカウンターに立っていますが、大杉さんの面影を常にどこかで感じながら演じているんです。


池井戸 上川さんがいてくださっているおかげで、前のドラマのファンの皆さんも親近感を持たれていると思います。


上川 恐れ入ります。


山本 この作品って、リラックスできる居酒屋花さきがあって、ほんわかしている臨店があって、ピリッとしてる銀行内のいろいろな支店があって。一つ一つの場所の雰囲気がバラバラで面白いんですよ。いろいろなドラマを撮っているみたいな感覚にも陥るから、すごい特殊ですよね。毎回ゲストの方も変わりますし、今後は経営企画部長の紀本(平八)や昇仙峡玲子(経営企画部主任調査役・特命担当)との絡みも出てくるでしょうし。この先、また違ったドラマが始まってくるんだろうなって予感はあります。


今田 1話を観て、その二人を演じた要(潤)さんと(菊地)凛子さんの、ドシッと重厚感がある雰囲気に圧倒されました。


飯尾 すごかったですよね。1話を観ていて、ほんと怖かったですもん。「笑ったことあんのか?」っていうぐらい。


池井戸 昇仙峡さん、6話で初めて笑いますよ。


上川 おおっ、極秘情報が!(笑)

「お言葉を返すようですが」は、向き合う相手によって意味が変わる


──みなさんは舞のように不正を見逃せず、「お言葉を返すようですが」とズバッと言うタイプですか?


今田 私は、プライベートでは「お言葉を返すようですが」って、一度も使ったことはないので……。


上川 これからもあんまり使わないでいいんですよ(笑)。


飯尾 でも、結構みんな心の中では思っていますよね。「それを言うんでしたら」、みたいな。


上川 だからこそのカタルシスが、この作品にはある。


今田 「お言葉を返すようですが」もそうですが、その後に続く舞の言葉に対して、同じことを感じているという方がたくさんいらっしゃると思うんです。その言葉を伝える相手との向き合い方によって、「お言葉を返すようですが」の意味がどんどん変わっていて、今3話まで撮影が終わったんですが、舞は自分のためというよりは誰かのことを常に思ってそう言っているんだなと感じていて、だからこそグッときました。


上川 池井戸先生は前回のドラマの原作となった『不祥事』という原作をお書きになるに当たって、先生の中にもなかなか思っていることを言えないとか、現状を突破できない、変えられないという思いはあったんですか?


池井戸 そうですね。会社って、理不尽なことがいっぱいあるんです。そういったことを、女性行員で権力も地位もない、何もない子がどんどん解決する小説って面白いんじゃないかなという着想で書いたものでした。それが1冊目の『不祥事』です。実は、ドラマのタイトルになった「花咲舞が黙ってない」というフレーズは、講談社文庫版『不祥事』のオビのキャッチコピーからきているんです。


一同 へーー!!


池井戸 それがドラマのタイトルになって、それを今度は続編のタイトルにしたんです。小説とドラマが、お互いに影響を与え合いながらできあがっている作品なんですよ。


上川 幸せなやり取りの中で生まれていった作品だなと思います。


池井戸 ちなみに、「お言葉を返すようですが」というのは、前のドラマオリジナルのセリフなんです。シーズン1が放送されたのは2014年ですが、当時はなかなかそんなことは言えなかったと思います。それが10年経った今もまだ売りになっている。いい加減、世の中も変わらなきゃいけないですよね。


今田 なかなか難しいですよね。


池井戸 忖度社会、未だに続いているじゃないですか。そろそろ、今回のドラマをきっかけにして変わってほしいなと思います。


山本 僕はですね……実を言うと普段わりと「お言葉を返す」ほうなんです。


一同 (笑)


山本 今、話を聞いていて気づくことがあって。僕がお言葉を返したことによって、他の人が違う意見を言い出したりするんですよ。それでその場がクリエイティブになったりする時もあるし、誰かが悪者になって矢面に立たないと何も変わらない時ってあるんです。それによって敵もできるけど、団結力も生まれて、みんながどういうふうな角度で目の前の出来事と対峙しているのかっていうのが明確になっていく。もちろん言ったことで後悔することもあるんだけど、黙ってられない自分のほうを僕は大切にしているんです。だって、僕たちって黙って生きているでしょう。ほとんどの気持ちを隠して生きている。お芝居だったら泣いたりするけど、なるべく泣かないように生きてるじゃないですか。なるべく怒らないように、なるべく人に対して余計な一歩を踏み込まないように生きているんだけど、どうしても踏み込まないといけない瞬間ってあるんです。僕はいろんな人に、もう一緒に仕事することはないんだろうなって思われてる気がするんですが……。


上川 そんなに思いきってるんですか!?(笑)


山本 舞ちゃんが言うことによって拍手が起こったりとか、周りの人たちが「そうだった、そこにやっぱり気づかなきゃな」ってなるじゃないですか。それで良かったのかなって、舞ちゃんの存在によって気づかされるところがありました。


飯尾 素晴らしいです。僕はそういう時はスタッフさんに質問して、その答えで「あっ、もう好き勝手やろう」と思っちゃいますね。損するのは自分だから、自分の思うようにやっちゃいます。


上川 なんだか、お酒が飲みたくなってきました(笑)。


──今後の展開というところでは、第5話あたりで、原作にも出てくるあの「半沢直樹」がキャスティングされていると聞いたのですが……。


今田 原作を読んでいる方は、特に楽しみにしているところだと思います。


山本 注目どころですよねぇ。


今田 撮影はこれからなので、私たちも楽しみにしています。観てくださっているみなさんもぜひ、お楽しみに。


池井戸 撮影、頑張ってください。


一同 ありがとうございます!

小休止の後、午後の部は第4話の冒頭シーンのリハーサルから始まった。臨店班の部屋で舞が恋愛相談をふっかけるものの相馬はうんざり顔、そこへ芝崎がドアから入ってきて……。クロストークでも話題となった「アドリブ」や、キャスト陣にスタッフを加えた「話し合い」で、そのシーンにとってのベストは何かと探り合う様子を目の当たりにすることができた。


本番開始の合図を待つ控え室では、今田が山本に声をかけ、少し先のシーンの舞と相馬のセリフのやり取りをチェックしていた。池井戸はプロデューサーから「花さき」の料理があるのでぜひつまんでくださいと勧められ、ソファーに着座。がっちり腰を据えさせられたところで、「さっきの続きをお願いします」と第6話の脚本打ち合わせに突入した。問題は解消し、流れで第7話の打ち合わせも……というところでこの日は時間切れ。続きはメールでと約束し、池井戸はスタジオを去っていった。


取材・文 吉田大助

日本テレビ系『花咲舞が黙ってない』毎週土曜よる9時

(放送後TVerおよびHuluで配信)


ドラマ『花咲舞が黙ってない』原作シリーズ

『新装増補版 花咲舞が黙ってない』講談社文庫

『新装版 不祥事』講談社文庫

登場人物紹介

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