黒田研二さん『神様の思惑』刊行記念インタビュー

文字数 2,410文字

黒田研二さんの『神様の思惑』(単行本『家族パズル』改題)文庫化を記念して、2019年単行本刊行時のインタビューを特別掲載!

作家になったいきさつから、黒田さんご自身の「家族」の話まで…

『神様の思惑』がより楽しめます!

Q1.そもそも作家をめざすきっかけは?


A.幼い頃から物語を作ることが大好きでした。物心つく前から、オリジナルアイデアの紙芝居を作っていたそうなので、作家になることはもはや運命だったのではないかと(笑)。高校三年生のとき、同級生たちが将来のことを見据えて進路を決めるなか、僕には一体なにができるのだろう? と考えに考えた結果、作家しかないことに気づきました。


Q2.好きな作品や好きな作家は?


A.井上夢人(岡島二人)さんと東野圭吾さんのお二方は今でも僕の神様です。パソコン通信時代、東野圭吾さん公認のファンクラブを(おそらく世界で最初に)立ち上げたことはひそかな自慢だったりします。井上夢人さんの『ダレカガナカニイル…』は僕の生涯ベスト本。読了後、小説世界からなかなか戻ってこられなくて四苦八苦したのは、後にも先にもこの作品だけです。


Q3.小説以外にもお仕事の幅が広がっているそうですね。


A.どんな依頼でもほいほいと受けてしまうので(笑)。新しい仕事はこれまでに味わったことのない喜びがあって楽しいです。たとえば、今年初挑戦した舞台劇の脚本。最初は慣れない作業に苦戦しましたが、完成した舞台を観たときの感激は言葉では言い表せないものでした。たぶん、観客の中で一番感動していたんじゃないかなあ。「青鬼」のノベライズの話をいただいたときも、初めての非本格ミステリということでかなり戸惑いましたが、いつの間にやら僕の代表作となりました。シリーズを10作以上書き続けてきた今となっては、「青鬼」の登場人物たちのことを考えない日はないくらいです。ライフワークとして続けていければいいなと思っています。


Q4.今作で「家族」をテーマにしたきっかけは?


A.程度の差はあれど、たいていの人は家庭内と外で言葉遣いや態度、性格そのものまで変わるのではないでしょうか?  もっとも本音をぶつけられるのは家族。でも、ついつい隠し事をしてしまうのも家族。大好きだったり、大嫌いだったり、思いやったり、裏切ったり、相反する気持ちがめまぐるしく入れ替わる関係だからこそ、たくさんの謎が生まれる――これはいくらでもアイデアが浮かんでくるなと思い、作品集にしました。


Q5.執筆で特に力を入れたポイント、気をつけたポイントは?


A.トリックやどんでん返しにどうしても凝りすぎてしまうクセがあるため、できるだけシンプルに、本格ミステリを知らない読者にもわかりやすい物語になるよう心がけたつもりです。


Q6. どんな人に読んでほしいですか? どんなことを伝えたいですか?


A.ふだん、あまり本格ミステリを読まない人、あるいは「青鬼」で僕のことを知ってくださった人に、「事件らしい事件はほとんどなにも起こらないし、頭脳明晰な名探偵も登場しないけれど、こういう形の本格ミステリもあるんだよ」と伝えたいです。


Q7.本書に収録された「はだしの親父」では大道芸人となった息子と父、「タトウの伝言」では画家を目指した息子と母の話など、夢や自己実現にむかって走る(走った)主人公が描かれていますが、作家である黒田さんと重なる部分は?


A.先ほども述べたとおり、高校3年のときからずっと作家になることを夢見てきました。読書好きだった父は積極的に僕を応援してくれて、たとえば大学生時代、テレビ局を舞台にした話を作りたいと話したときには、わざわざ知り合いのテレビ局員に取材の依頼をしてくれたことがありました。依頼を受けた側は、とんだ親バカだと思ったでしょうね。そのときに書いたのが『硝子細工のマトリョーシカ』の原型です。僕が会社勤めを始めてまもなく亡くなってしまったので、父に僕の本を読ませられなかったことは残念で仕方ありません。4年半勤めた会社を辞めて、家に戻ってきたとき、「30歳までに作家になるから」という僕の言葉を信じて(くれたかどうかはわかりませんが)、文句を言わず居候させてくれた母にも感謝の念は尽きません。


Q8. 黒田さん自身に起きた、謎多き「家族パズル」的エピソードを教えてください。


A.子供の頃、大切に飼っていたハムスターが亡くなってひどく落ち込んでいたとき、突然庭にハムスターが現れるという事件がありました。そのハムスターを捕まえて再び飼い始めたのですが、なぜタイミングよく僕の前にハムスターが現れたのかはいまだ謎のままです。冬眠して動かなくなったハムスターを死んだものだと勘違いして庭に埋め、それが蘇生したのではないかと父は推理しましたが、真実はさて。


Q9. これから挑戦したい作品は?


A. デビュー当時のイメージから、黒田研二といえば「トリック」「どんでん返し」「人間が薄っぺらい(笑)」と思っているかたもまだまだたくさんいるかもしれません。その部分をもっと突き詰めた作品も書いてみたいですし、今回の『家族パズル』みたいに、「え? こんなものも書けるの?」と読者が度肝を抜くような新しいものもたくさん書いてみたいです。最近はスマホで楽しむチャット小説アプリ「TELLER」にも参加しています。ふだん本を読まない人が気軽に楽しめる――小説に限らない、いろいろなジャンルに挑戦していきたいです。


※インタビューは単行本刊行時(2019年)のものです
黒田研二(くろだ・けんじ)

1969年三重県生まれ。信州大学経済学部卒業。2000年『ウェディング・ドレス』で第16回メフィスト賞を受賞しデビュー。近年では漫画版「逆転裁判」「逆転検事」シリーズの脚本、「青鬼」シリーズのノベライズ、スマホアプリ『DMM TELLER』でチャットホラー小説、演劇の脚本などを手掛ける。

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