いとうせいこうが伝える、パレスチナの〈リアル〉

文字数 1,866文字

※ベツレヘム/分離壁に描かれた抗議のグラフィティ    PHOTO:横田徹

世界の矛盾が凝縮された場所──パレスチナ。

そこで作家は何を見て、何を感じたのか?


抗議デモで銃撃されるガザの若者たち、分離壁で囲まれたヨルダン川西岸地区、紛争被害者が集まるアンマンの病院──


同時代の〈世界のリアル〉を伝える傑作ルポルタージュ『ガザ、西岸地区、アンマン「国境なき医師団」を見に行く』の刊行によせて、いとうせいこうさんに寄稿いただきました。

※ガザ/イスラエルへの抗議デモの負傷者たち  PHOTO:横田徹

「どうかガザの外にいる人々に伝えて欲しいんだ。

 平和のために抗議をして、なぜ撃たれなければならないのか。

 少しの時間でいいから、どうかどうかガザに生きている私たちのことを考えてください。」


そこで俺はなぜ自分が生きているのか

わかった気がした。

彼らの伝言を運ぶためだった。

──本文より

『ガザ、西岸地区、アンマン 「国境なき医師団」を見に行く』刊行によせて / いとうせいこう

「国境なき医師団」(略称MSF)の活動地を世界中あちこち見て回ることになったのが2016年。

 もとはと言えば、男も日傘を持つべきだとツイッターで主張したことがきっかけで、見知らぬ傘屋さんと共同で実際にそれを作り、パテント料をもらうつもりはなかったから、ふとMSFに寄付することにしたのだった。


 そのうち団からたまたま顚末を取材された俺は、その場で彼らの活動の細部に興味がわき、逆に取材を申し込んだ。


 それから3年、すでに『「国境なき医師団」を見に行く』というタイトルでまとめた単行本にもあるように、ハイチ、ギリシャ、フィリピン、ウガンダでの彼らの活動に密着取材をさせてもらってきた。


 そこで終わる気はさらさらなかった自分は、そのまま南スーダンへと足を伸ばし、あるいはMSF日本の内部にも密着して『「国境なき医師団」になろう!』という本を出し、さらにはずっとこの目で確かめたかった中東の活動地に入ることになった。それが2019年のことである。

※ベツレヘム近郊のアイダ・パレスチナ難民キャンプへの入り口/難民たちの帰郷への願いが込められた鍵のオブジェ  PHOTO: Shumpei Tachi/ MSF 

 基本的に危険な地域に自分は行かない約束である。そもそも危険であれば、MSFが俺の取材に応じている暇などない……はずなのだが、今回まとまったこの『ガザ、西岸地区、アンマン』には各所に緊張が走る場面がある。自分自身、遠くから銃口を向けられていた記憶が一度ならずあり、知らぬ間に戦場ジャーナリストの卵みたいなことになっているような気がする。あれ? いつからこんなことに……?


 しかし例えばイスラエルの力によって狭い地域に押し込められ、世界の矛盾のシンボルともなっているパレスチナ・ガザ地区に入る以上、取材者の俺一人が安穏としていられるはずもない。そして事実、トランプ政権によって新たな紛争への引き金をひかれた当地で、銃弾は人々の足の肉を破り、骨を打ち砕いていた。 


 コロナウイルスによって世界がさらに窮屈になる寸前のことである。今では全世界の人道組織の活動はさらに困難になり、それでも彼らは日々、目の前にいる患者のために全力を尽くしている。


 その志が少しでも多くの人に伝わることを願って、また一冊こうした本を上梓する。

※アンマン / 再建外科病院で作業療法を受ける女の子たちと    PHOTO: Shumpei Tachi/ MSF 

いとうせいこう

1961年、東京都生まれ。編集者を経て、作家、クリエイターとして、活字・映像・音楽・舞台など多方面で活躍。『ボタニカル・ライフ』で第15回講談社エッセイ賞を受賞。『想像ラジオ』が三島賞、芥川賞候補となり、第35回野間文芸新人賞を受賞。他の著書に『ノーライフキング』『今夜、笑いの数を数えましょう』『ど忘れ書道』夢七日 夜を昼の國『見仏記』(みうらじゅんとの共著)、『ラブという薬』『自由というサプリ 続・ラブという薬』(ともに星野概念との共著)など多数。

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