森博嗣様


トラブルに巻き込まれて視野が狭くなると、「ネットの情報は玉石混淆」という顕著な事実すら見えにくくなるようで、法律知識がある悪い人の餌食にされてしまいかねません。専門家に頼らない自己防衛が理想だとしても、冷静な客観視が難しい状況にあるならば、弁護士や探偵に限らずとも第三者の意見は聞くべきだと思っています。


現在は法律事務所で修習中なのですが、弁護士に求められる技能のうち傾聴が占める割合の大きさに驚いています。なので、完璧な相槌を打つ聞き上手なAIが発明されない限り、弁護士は生き残れるはずです。とはいえ、法的な評価が求められる作業(養育費や慰謝料の算定、懲役や罰金の認定等)は、既に大量のデータが集積されており、いずれはAIの独壇場になる気がしています。


高齢者の交通事故に対する世論を見ていると、自動運転の普及後に起きる事故の責任論がどうなるのかと考えます。メーカー側が責任を負うのが原則のはずですが、車の保有者の謝罪や誠意を求める風潮は根強く残るのではないでしょうか。最終的な責任は人間が負うべきという固定観念は、動物が起こした事故や自然災害でも時折り出現します。


復讐が法的に正当化されるのは、正当防衛が成立する場合に限られます。フィクションでは、もっと広い意味での復讐が容認されているようですね。それを読者の納得を得るための動機として用いていいのかは、登場人物やストーリーと向き合いながら今後も考えていきたいテーマです。


作家としての生き方……、思考に刻み込みました。

他者の声や音に惑わされることは多々あると思いますが(自己分析です)、一方の個性として持つ我の強さと相殺しながら、幻覚や錯覚を振り切って前進していく所存です。

自分の力で前進するためのエネルギーを、今は小説を書く純粋な楽しさや未来への期待で補っている気がします。きっと、それらはある種のまやかしなのでしょうから、ひた向きに物語を紡いで、地に足をつけて前進するエネルギーを蓄えたいと思います。


よろしくお願いいたします。


作品タイトル:【インタビュー・対談】

記事名:森 博嗣 × 五十嵐律人  往復書簡

作者名:メフィスト  mephisto

|その他|連載中|7話|38,361文字

メフィスト賞 , 真下みこと

インタビュー