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森博嗣様
丁寧な返信をいただきまして、ありがとうございます。
「法廷遊戯」に関する所感も打ち震えながら拝読しました。
新人賞への応募を始めたとき、「新しさ」を示せなければ受賞はできないだろうと漠然と考えていました。強烈なキャラクター、斬新なトリック、緻密な心理描写……。いろいろと挑戦する中で行き着いたのが、リーガルミステリーとしての「法廷遊戯」でした。
ご指摘いただいたとおり、日本の義務教育では、法律を学ぶ機会がほとんどありません。せいぜい、国民主権・平和主義・基本的人権の尊重という(謎の)三大原則を教えるくらいでしょうか。その是非はともかくとして、日常に溶け込んでいるはずの法律が非日常的な存在とみなされているギャップは、ミステリーの基盤になり得ると感じ、そこに自分の過去の断片を添えてみようと思い至った次第です。
エンタメ要素に重きを置いたリーガルミステリーはまだ開拓の余地があると信じて、自分なりの「新しさ」を愚直に追求していきたいと思います。
諒解が及ばない領域にいるのが天才なので、才能の濃淡をつけることで橋を架ける……。言うは易く行うは難しだと理解していますが、グラデーションを作ってビビッドな才能を際立たせる描写に挑戦し続けて、いつか四季のようなキャラクターを書き上げられたら、天才の呪縛から解放されるかもしれません。
私自身、才能は足切りラインにすぎないと考えており、時間を掛けて向き合えるのが創作の美点ならば、それを言い訳に使うのはナンセンスだと気付くことができました。
創作に抱いている夢……。
弁護士では成し得ないことを、創作を通じて果たしたいと願っています。クライアントの意向に沿った助言が求められる弁護士とは違い、小説は解釈を読者に委ねることができます。「法廷遊戯」を読んで法律学に興味を持った子どもたちが、義務教育の壁を打ち破って独学で勉強を始める――。そんなきっかけを提示できれば、幸甚の至りです。
先生がデビューされた当時、「理系ミステリー」もマイナーでマニアック寄りのジャンルと認識されていたものと推察いたします。そのようなジャンルを扱うにあたって苦労した点や心掛けた点があれば、教えていただけないでしょうか。
よろしくお願いいたします。
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