優秀賞 2020年11月21日≪18枚目のマスクと≫

文字数 1,154文字

【2021年4月開催 「Our Day to Day」優秀賞受賞作】


2020年11月21日≪18枚目のマスクと≫


著・madder

カタン···その音を聞くと悲しみ、せつなさ、そして温かさと、いろいろな感情が溢れ出てくる。私の住む都市でコロナの感染者が初めて確認されたのが昨年の1月末日。それから連日感染者が増え続け、1ヶ月後の2月末に独自の緊急事態宣言が発令された。外出自粛に学校等の一斉休校、飲食店やデパートは休業を強いられた。医療従事者の夫は毎日感染のリスクや激務と戦い、娘は幼稚園がしばらく休園になり不安や外に出られないストレスから体調を崩してしまった。出来る限り家族の支えになりたいと思いつつ、買い物さえもままならない日々。一体いつまでこの非日常的な生活が続くのだろう···と不安に駆られていた矢先、「カタン」と玄関先から音がした。郵便物が届いたのかなと思い向かうと、郵便受けに薄ピンク色の封筒が届いていた。が、切手が貼っていない。恐る恐る開けてみると中には小さなマスクが2枚と便箋が入っていた。送り主は近くに住む母だった。孫に手作りマスクを作ったので直接渡したかったけど、このご時世なのでポストに入れておきますとのことだった。白地のマスクにハートのアップリケが付いていて「ばぁばから可愛いマスク届いたよ。」と娘に渡したらとても喜んでいた。それから月に1度、ばぁばからのマスクが郵便受けに届くようになった。必ず2枚入っているそのマスクは白地にハートやリボンのアップリケや、布地が動物や花柄のマスクなど毎回変わっていて、何が届くかいつも開けてからのお楽しみだった。玄関のドア1枚ですら隔てなければならない状況に心は痛んだが、母の心遣いと娘の笑顔に私は心底救われた。幼稚園が再開し一進一退の日々を過ごす中、夏に一旦収束かと思われたコロナウイルスも秋口には再び猛威を奮い、11月には過去最多の新規感染者を記録してしまった。この報道が出てから数日後に娘のお遊戯会が予定されていた。娘は毎日幼稚園で一生懸命練習してきて、この日を本当に楽しみにしてきた。ばぁばから届いた18枚のマスクを並べて「お遊戯会は特別だからどのマスクにしようか迷っちゃう〜。」と嬉しそうにしている。残念だけどこの状況だときっと中止になるのかな···。と思っていたが、幼稚園側の苦渋の決断でコロナ対策を徹底した上でお遊戯会は無事開催された。この数ヶ月間を振り返り、娘が舞台で踊る姿を見て私は涙がこみ上げてきた。「お遊戯会の写真、たくさんばぁばに送ろうね。」

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