『立花三将伝』文庫化記念 登場人物による特別架空座談会①

文字数 3,380文字

はじめに


皆さんご存じ、<立花鑑載の乱>

――え? 知らないって?

はい、普通はそうですね。すみません。でも――

筑前立花城を舞台に、運命に立ち向かう若者たちの絆、恋と友情を描いたあの戦国青春群像劇がついに文庫化!

読んでしまうと、表現を微修正したくなりしますし、そんな時間あったら締め切りが迫る次の作品を書けよという話なので、文庫化まで自作はまず読みません。


実は先日、雑誌の特集で、かつて学んだ高校へ30数年ぶりに同窓生と行き、定年間近の恩師にお会いする機会があったんです。

人生の〈朱夏〉が終わろうとする今、あまりに速く無情な時の流れに圧倒されながら、改めて〈青春〉の価値をしみじみと感じました。

無条件に胸がキュンとするんですよね。

悔いなく完全燃焼しても、たとえ悔いだらけでも、齢をとってから振り返ると、ノスタルジーの中で、「あの頃」が無条件に輝いて見え、青春時代のかけがえの無さが胸に迫ります。

本作は、白秋を迎えた二人の主人公が、若くして死んだ親友を、自分たちの青春時代と共に思い返す、爽やかでほろ苦い物語です。

ちょうどのど越しのいいビールみたいな作品ですね。

当たり前ですが、どれだけ振り返っても、惜しんでも、過去は決して変わらない。

もう三十年以上も昔の出来事なのに、青春時代であるがゆえか、二人の心のなかで、亡き親友は若き日のまま凍結されて、羨ましいほど燦然と輝いている――。

親友3人が人生の途中で、永遠に別れる。

当時の設定ファイルを見返してみますと、「運命の歯車」とか「和泉だけが別の道を行く」「和泉に残された道はわずかしかない」などとメモしてありました。

今の二人には思い返すことしかできないけれど、決して亡き友を忘れてはいない。


「青春」と聞いて、皆様はどのような若き日の情景を思い浮かべられるでしょうか。

それはどこで、そこには誰がいるでしょうか。

この物語を通じて、ご自身の青春時代にちらりと思いをいたしていただけるなら、これに勝る喜びはありません。

あ、お若い方は、一度しかない青春を大切に満喫してくださいね!

いい思い出がたくさんできますように。


さて、文庫版のカバーは実力派の添田一平先生に描いていただくことができました。

まさしく本作のイメージ通り! ありがとうございます。


 『立花三将伝』 特別座談会<その1>

(日時:非公開、場所:都内某所)


赤神:本日はご多用の中――

皐月:前置きはいいから、さっさと始めなさいよ。スペースも限られてんだからさ。

野田:それにしても、わしなんかで良いのでござるかな。

皐月:本当ね。「三将伝」なのに、三将の誰も出ないなんて、明らかな人選ミスね。

赤神:すみません。藤木和泉さんには二つ返事でご快諾いただいたのですが、昨晩飲み過ぎたそうで、使い物にならないと。薦野弥十郎さんからはひと言、面倒くさいと。頼みの米多比三左衛門さんも高熱を出されて、検査結果はまだですが、濃厚接触者がいたらしく自粛したいと。結果として、右衛門太さんの双肩に全てがかかることになったわけです。ジェンダー・バランスで女性にも出ていただく必要があるので、佳月さんに出演を依頼したのですが、奥ゆかしい方ですから丁重なお断りが――

皐月:どうせわたしはお転婆ですよ。

赤神:いえ、決してそういう意味では……。

皐月:誰も出ないって、あんた、実は嫌われてんじゃないの?

赤神:え? そうなんですか?

野田:赤神殿、そろそろ始めてはいかがでござろう? わしはこの座談会を三度の飯の次に楽しみにしており申した。実は50回読み直して、読みどころを全部書き出してきたんじゃ。順に読み上げていけばよろしいか?

皐月:ちょっとあんた、なに? その分厚い紙の束。No.333って、いったい幾つ取り上げるつもりなのよ。

野田:ご安心あれ。姫の見せ場なら37個選び抜いてござるぞ。

皐月:相変わらず暇人ねぇ。

野田:ちなみにわしは第一部で100個の見せ場に絞りました。甲乙つけがたいゆえ、ランキングまではまだ付けておりませぬが。

皐月:あんた、そんなに出番あったっけ? それ、全部じゃないの?

赤神:では、まず前半〈第1部〉から参りましょう。右衛門太さん、たくさんのリストアップ、大変うれしいのですが、もしかしていくつかに絞ってご披露いただいたり――

野田:そいつはできん相談じゃ。ちなみにこの紙の束は、第二章までじゃからな。わしのバックパックに残り七巻が入っておる。ほれ。

皐月:じゃあ、わたしから。読みどころはやっぱり恋模様よ。相思相愛に片思いが絡まって、どうしても全員が幸せにはなれないのよね。色々な思いが交錯するけれど、少しずつすれ違ってしまう切なさ。でも、お互いに分かり合ってるのが、いいわよねぇ。

赤神:さすがは姫。的確なご指摘です。設定に苦労したんですから。

野田:しかも、そこには稀代のトリック・スター、野田右衛門大夫の勘違いがうまく作用してござった。

皐月:それと、やっぱり和泉どのと弥十郎どのの固い友情ね。悪口や皮肉を言い合って、ぱっと見は仲が悪そうなのに、しっかりと互いを信頼し合い、思い合っているところ。少年の頃のエピソードも好きなのよ。ラストにもその想い出が効いてくるしね。

野田:そうそう。その二人に三左衛門殿とわしも絡んできて、実に読み応えがあるのでござる。

赤神:お二人とも、ちゃんと読み込んでくださってますね。嬉しいなあ。

野田:ではいよいよ、わしから参りまする! 

皐月:あんた、長くなりそうだから、ちょっと待ってて。ねえ、作者として、なんか第一部で意外な裏話とか、ないの?

赤神:そうですね。三人の若者が敵味方に分かれて戦うという物語の構造は最初から不変なのですが、実はごく初期には、弥十郎さんを一番の主人公として設定していたんですよ。でも書いているうちに、やはり和泉さんを中心に据えたほうが悲劇性が高まると考え直したんです。

野田:へえ、そうだったのでござるな。では、いよいよわしから。時系列でまずNo.1からですぞ! かたがた、紙とペンのご用意はよろしいな? それではお手持ちの「三将伝」の1ページを開けてくださらんか。序にはわしが出て参りませぬが、決して気落ちなさらぬよう。その代わり、大事な伏線だらけですからな。じっくりとするめを噛むように味わわねば――


皐月:あら、もうスペースが尽きたわね。ではまた次回!


▲立花山

立花山城下にある地元の「道雪会」の方より、物語の舞台となる各地の写真を提供いただきました。ありがとうございます! また、同会の会長・杉尾民則氏から文庫化に寄せて「三人の主人公が織りなす青春編、ロマンと愛と現実の戦と苦しみが伝わる心を震わす作品だ」と温かい応援メッセージをいただきました。心より感謝申し上げます。

赤神諒(あかがみ・りょう)

1972年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業。私立大学教授、法学博士、弁護士。2017年、「義と愛と」(『大友二階崩れ』に改題)で第9回日経小説大賞を受賞に作家デビュー。同作品は「新人離れしたデビュー作」として大いに話題となった。他の著書に『大友の聖将』『大友落月記』『神遊の城』『戦神』『妙麟』『計策師 甲駿相三国同盟異聞』『空貝 村上水軍の神姫』『北前船用心棒 赤穂ノ湊 犬侍見参』『太陽の門』『仁王の本願』『はぐれ鴉』などがある。

戦国最強と言われた立花宗茂が当主になる前、筑前に感動の青春群像ストーリーがあった。大国に翻弄された若き武将らを描く歴史長編!

関ヶ原の戦いに参戦せずとも、当時最強の武将と謳われた立花宗茂。だがその一世代前、宗茂活躍の礎ともなった若き武将や姫たちがいた。──時を遡ること40年、筑前国の要衝を占める立花家は、「西の大友」と呼ばれる名門であった。大友宗家から立花入りした15歳の三左衛門は、四つ年上の勇将・和泉、三つ上の軍師・弥十郎らと出会う。腕に覚えのあった三左衛門は和泉に打ち負かされるも、すぐに弟子入り。寡兵で大軍を退けた弥十郎の知略にも驚かされる。また、当主の娘・皐月姫や和泉の妹・佳月らの恋心も絡み、三将の絆は深まっていく。8年が過ぎる。筑前では毛利の調略が進み、諸将が次々に大友を離反。立花家は孤立していく中で家中も毛利派と大友派に分裂する。そしてついに、三将の運命を変える大きな政変が……。

登場人物紹介

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