『立花三将伝』文庫化記念 登場人物による特別架空座談会②
文字数 3,344文字

『立花三将伝』 特別座談会<その2>
(日時:非公開、場所:都内某所)
赤神:では早速、今回は後半〈第2部〉の読みどころについて――。
皐月:親友同士が敵味方に分かれて戦う戦国の悲劇、それも和泉どのが不本意ながらも憧れの道雪公を敵に回して奮闘するという設定がたまらないわね。もう昔とは違う。みんな、もう大人になっていて、背負うものが大きくなっているのよ。
野田:抗っても、抗っても運命に追い詰められてゆく。最も戦いたくない昨日までの友を敵に回す不本意極まりない戦なのでござる。中盤の盛り上がりの見せ場は、三百まで絞り込むので精一杯でござった。
赤神: 負けるわけにはいかないけれど、相手を思いやるんですよね。和泉さんは昨日までの敵を味方につけて、何とか対抗しようとして、成功する。
皐月:最大の見せ場は、何といってもクライマックスの立花城攻防戦で、右衛門太どのが〇〇するところでしょ。あれで、一挙に場面が転換するの。和泉どのが落城の際に、愛妻を手に掛けられずに弥十郎どのを頼るように言って別れるシーンも好きよ。
赤神:そうなんです。右衛門太さんが皆を救いたい、昔に戻りたいと願って行動することで、逆に登場人物たちのすべての運命が定まってゆく皮肉。この小説はもう、あのカタストロフィーのために描いてきたようなものですからね。
皐月:落城秘話は史実だったらしいけれど、それをベースにしたわけね。
赤神:むしろ右衛門太さんの最後の〇〇から逆算して構想して行ったんです。なぜ右衛門太さんが〇〇したのか。すべての人間模様をその一点に向けて高めてゆき、ダムが決壊するように一挙に破綻させる。われながら上手くいったと思います。「三将伝」ではありますが、実は右衛門太さんがいないと成立しない物語なんですよね。
野田:わしは脇役なのに、そんなにすごいことをしたのでござるな。いやぁ、照れるなぁ。
皐月:そこ、照れるとこじゃないでしょ。あんたが全部悪いんだから。
野田:いえ、姫。実は読者の方から、わしがいい味を出しているとのご指摘がございましてな。そうじゃ、『立花三将伝』人気投票イベントをやってはいかがでござろう? 意外にもわしが優勝するやも知れませんぞ!
皐月:無理無理。でも、登場人物の数からすると、十位以内にはランクインできそうね。
野田:おお、トップテンに入れるのでござるな。緑神殿、ここは一つやりましょうぞ。世界中から投票者を募るんじゃ!
赤神:……素敵なアイデアだとは思いますが、どれだけ投票して頂けるか……。私がブレイクできたらやりたいですね。
皐月:ところで、作者として気に入ってる渋い場面なんかないの? 読者が気づきにくい工夫とかさ。
赤神:そうですね。例えばラストに近いところ、和泉さんが主君の鑑載夫人と赤子を助けて、新宮湊へ落ち延びようとするシーンでしょうか。ちょい役なので名前はつけていませんが、夫人が昔、和泉さんを好きで、抱き上げてもらえることに幸せを感じるんですよね。逃亡中に赤子が泣き出して、追っ手に見つかりそうになる。和泉さんは疲労困憊で、さすがにもう戦えないと諦めかけるけれど、赤子が泣き止む奇跡が起こる。
皐月:地元に伝わる〈夜泣き観音〉のエピソードから着想を得たわけね。
赤神:はい。埋もれがちな歴史を使わない手はありませんから。ぜひ聖地巡礼していただければと願っております。
野田:では、いよいよわしの番でござるな。第二部は全部で800に絞り込んで、リストアップしてござるが、順に読み上げて行けばよろしいか。
赤神:もしかしてその中から、これというのをひとつ、選んでいただくわけには――
野田:そいつはできぬ相談でござる。みんなで頑張った作品ゆえ、是が非でも全部取り上げねばならん。まずは最初に、皆で、わが祖父、野田見山先生の占いを一からおさらいすることから始めてみませぬか? わしと同じで、先生は実はあんまり冴えんお人なんじゃが、占いだけは凄いのですぞ。皆の運命を知っている。でも、知っているのに変えられず、自らも死んでしまう。見山先生の花札占いこそが、弥十郎殿の厭世観の根底にあることに読者の皆様は気づかれたはず。ですが、さらにこの点は、作者の一連の作品のテーマのひとつである、運命論とも繋がっておるのでござる。

皐月:なんか執筆の裏話でもないの?
赤神:そうですね。いろいろ取材しても、全部は盛り込めないので、執筆で使わないことも多いんですが、例えば当時の立花家で猪の肉を食べていたとか、原生林の楠は立花山が北限だとか、夕日で光るので方向がわかる鏡岩とか……結局使いませんでしたね。
皐月:ふう~ん。さ、もう始めちゃいましょ。わたしも忙しいんだから。
赤神:それでは、今回は『立花三将伝』や大友サーガの今後について――。
皐月:あの終わり方じゃ、今後もへったくれもないでしょうに。
赤神:いえ、姫。戦国大友家の歴史は面白いんですよ。弥十郎さんと三左衛門さんが立花家の主柱になってゆくその後の立花家はいずれ書くつもりですし、時を巻き戻せば、毛利との多々良浜での戦いとか、和泉さんも書けなくはないんです。
皐月:右衛門太どのがまた登場するって噂も聞いたけれど?
赤神:嘘ではありませんが、書くとしてもまだ結構先になりそうですね。もちろんちょい役になりますが。
皐月:そういえば、弥十郎どのが登場する物語を読みたいって読者もいらしたわね。
赤神:はい。でも、味のあるお気に入りキャラなので、中途半端には出せません。当初の構想では予定していなかったんですが、書いているうちにどうしても必要が出てきて、むしろ重要な役割を果たしていただけると考え直しました。<大友サーガ第8弾>では再登場いただく予定です。どうぞご期待ください!
皐月:そうなんだ。あれ、何? あの足音。
赤神:右衛門太さんみたいですね。あの人がドタバタ慌ててやって来ると、いつもとんでもないことが起こるんですよね。
野田:た、大変じゃ!
皐月:どうしたの? もうすぐ終わるわよ。
野田:恐るべき噂を聞き申した。読者の皆様からの熱いご要望で、大友サーガ第8弾では何と、こ、このわしが主人公になるそうでござる!
皐月:そんなわけないじゃん。
赤神:どなたからお聞きになったのか、噂にずいぶん大きな尾ひれが――
野田:弥十郎殿じゃ。面倒くさいから、お主が代わりに出ろと言われ申した。赤神殿、見せ場を最低1000個は作ってくだされよ。リストアップがまた大変じゃが、くれぐれもお頼み申す! 一生懸命に作ったリストが無駄になってしまって、ちと凹んでおったが、ああ、これからが楽しみじゃ!

1972年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業。私立大学教授、法学博士、弁護士。2017年、「義と愛と」(『大友二階崩れ』に改題)で第9回日経小説大賞を受賞に作家デビュー。同作品は「新人離れしたデビュー作」として大いに話題となった。他の著書に『大友の聖将』『大友落月記』『神遊の城』『戦神』『妙麟』『計策師 甲駿相三国同盟異聞』『空貝 村上水軍の神姫』『北前船用心棒 赤穂ノ湊 犬侍見参』『太陽の門』『仁王の本願』『はぐれ鴉』などがある。
関ヶ原の戦いに参戦せずとも、当時最強の武将と謳われた立花宗茂。だがその一世代前、宗茂活躍の礎ともなった若き武将や姫たちがいた。──時を遡ること40年、筑前国の要衝を占める立花家は、「西の大友」と呼ばれる名門であった。大友宗家から立花入りした15歳の三左衛門は、四つ年上の勇将・和泉、三つ上の軍師・弥十郎らと出会う。腕に覚えのあった三左衛門は和泉に打ち負かされるも、すぐに弟子入り。寡兵で大軍を退けた弥十郎の知略にも驚かされる。また、当主の娘・皐月姫や和泉の妹・佳月らの恋心も絡み、三将の絆は深まっていく。8年が過ぎる。筑前では毛利の調略が進み、諸将が次々に大友を離反。立花家は孤立していく中で家中も毛利派と大友派に分裂する。そしてついに、三将の運命を変える大きな政変が……。