擬人化がくれた自由自在……『東京23話』
文字数 974文字
私は東京出身、生まれは葛飾(柴又ではない)だ。生まれてこの方、東京以外の場所で生活をしたことがない。
職業柄、仕事場は日によって変わる。でも大体行く場所は決まっている。遊ぶ場所だってなんとなく決まっている。私は東京で育ったのに東京のことをよく知らない。
渋谷や原宿に憧れの何かを追い求めて通った10代、新宿という街が憩いの場になった20代。そのくらいしか浮かばなくて、何が東京育ちだ、と思ってしまう。もっと生まれ育った場所のことが知りたくなったのはここ最近の話。
そんな時に手に取った山内マリコさんの『東京23話』。山内さんの描く現代の奮闘する女性像をたどることが大好きで、今回もそんな其々の区にまつわる女性が登場する物語なのだろうかと前情報なしにページを捲ると驚き。
話の語り手は区やその区にある建物たち。お堅い語り口の千代田区、文豪のような文京区、ギャル口調な渋谷区に、まっさら何もない場所から高層ビルが立っていくのを見届けていた新宿区の京王プラザホテルなど。
23区23様の彼らが自由に今昔を語るストーリーが綴られている。最後に収録されている東京都自身が語り手になる話は切なく、しかし未来も感じさせてくれる諸行無常の流れが心地良い。ふと今まで当たり前にあったものをこの先もずっと当たり前にあると思い過ぎていた自分を省みたりもした。
私にとってこれは東京への探求の素晴らしい皮切りになった。話は飛ぶが、私は1つ選ぶと他の選択があまりできない。レストランでもいつも同じメニューを頼み続ける性格だ。おそらく、私はこのまま自分に必要最低限な場所にだけ行って人生を終えることもできると思う。
でも、そこから少し遠回りをして足を伸ばしたら、いつもしない選択をしたら。
そんなことで日々のどのくらいのことが変わって派生していくんだろうと頭の中に新しい引き出しが出来た気がした。ちょうど引っ越しを考えていた時期だった。
慣れ親しんだ場所に愛着もあるが、違う場所に出ていくこともいいのかもしれないという選択肢を頭に浮
かべさせてくれる一冊だった。