井上真偽が凄すぎる/「読書芸人」上田航平(ゾフィー)インタビュー【前編】
文字数 3,178文字

――読書芸人としても大活躍ですね! そして井上真偽作品を推薦して頂き、ありがとうございます!
実は、あの番組に出演させて頂くまでは、勝手に好きで読んでいただけだったので、誰かに本を紹介したことがありませんでした。どうしてもおこがましい気持ちもあって。でもそれ以来「この本も面白いよ」と教えてくださる機会が増えたので、自分が面白いと思う本をたくさん世の中に発信していけば、より面白い本に出会える確率が上がるんだと、とてもワクワクするようになりました。今日は「アメトーーク!」で喋れなかったことを、余すことなくぶつけていきます!
――まず上田さんが本好きになったきっかけを教えてください。
祖父が本屋さんだったのですが、祖父母の家にはたくさん本があって、手塚作品や『サザエさん』などの漫画を手当たり次第に読んでいたのが、最初の読書体験です。その後、小説にも興味を持つようになりました。きっかけとなったのは、芥川龍之介の「蜜柑」。すごく短い話なのに、世界がひっくり返るほど心が動かされてしまって。それから星新一、筒井康隆、フレドリック・ブラウン、レイ・ブラッドベリ、テッド・チャン、ジョージ・サンダースと、SFの短編を中心に今も読み続けています。
――小説に興味を持たれたのはいつ頃でしたか。
きっかけは中学受験です。小学生の頃、問題用の短い作品をたくさん読み込んでいくうちに、どんどん魅了されて、授業の範囲をすっ飛ばして、貪り読んでいました。実は僕、塾講師をやっていた経験があるのですが、国語が苦手な生徒がいたら、星新一作品を紹介していました。集中力がなくても短い話だとすぐに読めて、徐々に長い文章が読めるようになります。
――受験にも役立つ短編小説ですが(笑)、上田さんが考える魅力とはなんでしょう。
子供の頃は絵本のように読んでいた星新一作品を、コント台本を書くようになってから改めて読んでみたら、最小限の言い回しで最大限の効果を発揮している無駄のない構成に気づきました。短くより伝わる表現がいたるところに散りばめられていて。面白さが短い文章にぎゅうぎゅうに濃縮されている。短編は文章のコントだと勝手に思ってます(笑)。
――短編好きでありながら、長編の『その可能性はすでに考えた』にたどり着くとは意外な気も。
SFを読み続けている影響か、感傷にひたる作品より、この設定から何が起きるんだろう? 主人公はこの状況で何を考えて何をするつもりなんだろう?という物語の展開に興味を持つようになりました。例えば三島由紀夫『金閣寺』では、主人公の中に理想の金閣寺があったから、理想と違った本物を燃やしてしまおうという設定ですよね? 燃やしたら理想もなにもないのに、なぜ放火に至るんだろう?って。そういう設定そのものに食指が動きます。
――そのアンテナに井上さんの作品がひっかかったんですね。
書店でたまたまこの作品を見つけて、作品紹介を読んでみたんです。
「山村で起きたカルト宗教集団自殺。唯一生き残った少女には。首を斬られた少年が自分を抱えて運ぶ不可解な記憶があった。首無し聖人伝説の如き事件の真相とは?」
――なるほどなるほど、この事件を探偵が解決するんだな。
「探偵・上苙丞(うえおろじょう)はその謎が奇蹟であることを証明しようとする」
――ええええ、どういうこと?? 探偵がトリックを暴くのではなくて、トリックなんて存在しなくて「奇蹟が起きたよ!」ってこと? 度肝を抜かれました。「トリック」ではなくて「奇蹟」の証明。この一文はもっと大文字の太字で載せたほうがいいです! この設定の斬新さに一目惚れして即買いでした!
――実際にお読みになられてどうでしたか。
不可解な事件の謎に対して、主人公以外の登場人物たちが次々と斬新なトリックを提示していく。それに対して、主人公はそのトリックが不可能であることを片っ端から証明していく。まさに「その可能性はすでに考えた」ですよね。つまり、この議論を経て、すべてのトリックの可能性を完全に否定することができれば、「はい、というわけで、この事件は奇蹟でした!」と証明することができる。これって「探偵小説のゴール」じゃないですか!?
――「探偵小説のゴール」とは……絶賛頂きました!
斬新なトリックではなく、そもそもトリックがないという斬新さ。僕も探偵のコントたくさん作っているつもりでしたが「してやられた!」と思いました!(笑) 推理小説の作家さんたちも同じ気持ちじゃないでしょうか?

――コントで似たような衝撃を受けたことはありますか。
面接コントはこの世に何千何万とありますが、だーりんずさんのコントは衝撃でした。会社の面接にやってきた男が、マニュアルっぽい、ありきたりのことばかり言う。でも実は、その会社は出版社で、『就職面接完全マニュアル』という本を出している。青年はそのマニュアル通り喋っているので自分は絶対面接に受かると(笑)。この発想が素晴らし過ぎて面接コントを作るときはいつもこのだーりんずさんのコントが頭をよぎります。
――トリックはいかがでしたか。
掲示されるトリックも全部ちゃんと斬新なことに驚きました。一見するとそれが真実だと感じられるようなトリックが出て来て、そのトリックの弱点を主人公が見つけて不可能だと証明してしまう。そんなトリックがいくつも用意されているわけですから、一体どれだけの労力をかけて井上さんはこの小説を書いているのでしょうか? これらのトリックを別々に分けたら何冊も書けるのに(笑)。
読む前は、トリックを否定するための探偵のロジックは、かなり雑で、強引な、それが馬鹿馬鹿しくて面白い小説なのではないかと、勝手に予想していました。でもいざ読んでみると、理路整然としていて、きちんと論理的に真正面から存在の否定を証明している。「やっぱり奇蹟だよねこれは」と不思議と納得させられていくのが快感でした。
――その他の見どころも教えてください。
僕は作品で知らない言葉が出てくるとすぐに調べちゃうタイプなんですが、キリスト教が奇蹟を科学的に検証する「聖人審査」も実在すると分かり、フィクションでありながら現実世界と結びついている部分が多いこと、井上さんの知識量から生まれるこの作品の底の知れなさを感じました。小説に出てくる、実際に使われている中国語も、実際に行われている拷問も、この作品の不可能の可能性を感じさせる大きな魅力だと思います。
※(上田さんの好きなキャラとは? 『恋と禁忌の述語論理』のある言葉に上田さん悶絶? インタビューは後編へつづく>>)

上田航平(うえだ・こうへい)
1984年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学法学部卒。
2014年、サイトウナオキとのコンビで「ゾフィー」を結成。テレビ、ラジオ、ライブをはじめ幅広く活躍。
受賞歴に「キングオブコント2017」決勝進出、「キングオブコント2019 決勝進出」、「令和元年度 NHK新人お笑い大賞」準優勝などがある。
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