井上真偽が凄すぎる/「読書芸人」上田航平(ゾフィー)インタビュー【後編】
文字数 2,700文字

【写真】井上孝明
――『その可能性はすでに考えた』でお好きなキャラクターは?
扶琳(フーリン)が好きです。可愛いのに中国黒社会の幹部だっただけに裏で超残酷な拷問をしたりするじゃないですか。究極のギャップ萌えですよね。ギャップがあり過ぎて、「可愛すぎる」と「怖すぎる」の2種類のドキドキが混濁しています。
――プチ情報ですが、井上真偽さんもフーリン推しだそうです。ちなみに主人公の上苙丞(うえおろじょう)はいかがですか。
金閣寺を燃やしてしまった『金閣寺』の主人公もそうなんですが、自分なりに正義があるけど、はたから見たら「君おかしいよ」「間違っているよ」という人物に僕は惚れちゃいます。
思想がはっきりしているウエオロも、奇蹟を皆に認めさせるために、多くの犠牲を払っているわけですよね。地位や名誉になびかず奇蹟を信じる一貫性に胸熱くなります。
――井上作品で次に注目したのは。
『その可能性はすでに考えた』の設定にハマったので、『恋と禁忌の述語論理』はどうなのだろうと、また作品紹介を読みました。
「雪山の洋館での殺人。犯人は双子のどちらか。なのに何れが犯人でも矛盾」
――ここだけでも面白いなあ。
「この不可解な事件を奇蹟の実在を信じる探偵・上苙丞が見事解決」
――おぉ、ここにもウエオロが出てくるわけだ。
「――と思いきや、天才美人学者・硯(すずり)は、その推理を『数理論理学』による検証でひっくり返す!!」
――ええええ、また全然違う展開だぁ!?って。
――お読みになられていかがでしたか。
まさに数理論理学な本でした(笑)。この小説をパラパラとめくっただけでは、とても推理小説だとは思えない(笑)。最初はかなり困惑しましたが、人物の感情にフォーカスを当てずに、すでに解決した事件が、数理論理学的に正しかったのかどうかを検証する、という発想がとても面白かったです。
――キャラクターたちも印象的でしたよね。
「動機なんて必要ない」と話す硯さんに、「動機さえ解明できれば事件は解決する」というあやめさん。この対称的な2人が事件を解決しようとする構図も斬新でした。井上さんは探偵小説というものをすごく俯瞰で見ながら構造から壊そうとされているような気がします。
それにしても、これがデビュー作とは驚きです!
――数理論理学を用いられたところはいかがでしたか?
数理論理学を知らない人のために、きちんと授業をしてくれるじゃないですか。4つの記号だけで全部説明ができる。これらを使って事件を検証するというこの導入で心躍りました。
――ただ読者の中には少し抵抗感を感じた方もいたようですが。
『その可能性はすでに考えた』を読んでロジカルな推理に心の準備を作ってからこの作品に入るというのはどうですか? 僕はその順序だったので、すんなり読めちゃいました。
――分からないところを調べながら読む上田さんには、この作品も刺激ありそうですね。
線を引っ張りながら読みました。とにかく知識の量が膨大なんです。中に出てくる情報を全部ピックアップして並べてみるだけでも面白そう。世界にはこんなことがあるんだなと、知る楽しみもこの作品にはあります。
――心に残ったものをあげるとするなら。
スターアニス誤食事件ですね。「『スターアニス誤食事件』として実際にあった事件と状況が類似している」こういう事件はどうすれば知ることができるのでしょうか? 絶対出会えない言葉だけど、出会いたい言葉ですよね。どうすれば遭遇できるのか、普段の生活を教えて頂きたいです。

――調べながらの読書だと、作品を楽しむテンションの維持も大変そう。
僕は本を読んでたらすぐ脱線しちゃうタイプなんです。「スターアニス誤食事件」が出たページには付箋をはって調べたことを書き込みました。その説明をきっかけにまた違うことを思いついてそれも書いて。それでも埋まっちゃったら、余白に書くんですけど、文庫は書き込めるスペースが小さい(笑)。こんな読書スタイルなので電子書籍は読めません。
――まるで教科書ガイドが完成したみたい!
読み終えたときには本が分厚くなってます。本を楽しくするための僕専用ガイドの完成。そしてその付箋を全部外して別のノートに貼って並べて見てニヤニヤしたりして(笑)。そういう好奇心をくすぐってくれるのが井上さんの作品です。
――豊富な知識はコントにも活かされそうですか。
さすがに「スターアニス誤食事件」はコントで出しにくい。でもいろんな知識を自分の中で消化させて面白くできる方法がないかはいつも考えています。ちなみに僕は探偵が好きで、探偵のコントもたくさん作っています。
――おぉ、ミステリ作家誕生の予感が!
ただ、ウエオロにしても硯さんにしても、事件が起きる前に解決してしまう『探偵が早すぎる』の千曲川にしても、井上さんがどんどん面白い探偵ものを作品にしてしまう(笑)。井上さんが次の新しい探偵が出る前に僕の探偵を早く出さないと(笑)。
――最後に井上作品の面白さをあらためてお聞かせください。
推理小説の未開の地を進んでいるのが井上さんなんだと思います。探偵小説という構造を破壊しつつ、探偵小説そのものを破綻はさせない。ミステリファンでも、あまりミステリを読んでいない人でもきっと面白く読めるはずです。
――本日はありがとうございました。
ありがとうございました。結局「アメトーーク!」の何倍も喋っちゃいました(笑)

上田航平(うえだ・こうへい)
1984年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学法学部卒。
2014年、サイトウナオキとのコンビで「ゾフィー」を結成。テレビ、ラジオ、ライブをはじめ幅広く活躍。
受賞歴に「キングオブコント2017」決勝進出、「キングオブコント2019 決勝進出」、「令和元年度 NHK新人お笑い大賞」準優勝などがある。
https://twitter.com/zoffy_ueda
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ゾフィーコントスタジオ ZOFFY CONTE STUDIO
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