現役大学生が読んだ!一穂ミチ『スモールワールズ』
文字数 1,221文字

今回は一穂ミチさんの『スモールワールズ』収録の「愛を適量」。
どんなお話かは、PVでチェック!
『スモールワールズ』感想/A.U
7編すべてがそれぞれの個性を持ち、心をくすぐる短編集『スモールワールズ』。どれも良いから迷いに迷って、中でももっとも考えさせられた「愛を適量」について書く。
「愛を適量」は、高校教師の孤独なおじさんが主人公だ。見ているこっちまで哀しくなってくるような寂寥感を漂わせている。しかし、何にも熱中することなく淡々と過ごしていた彼の日常は、妻と離婚してから何年も会っていない実の子、佳澄との生活が始まると、ほんの少し色づき出す。
久しぶりに会うトランスジェンダーの娘と、「適量」がわからない不器用な父。初めはどうなるかと思ったが、案外二人での生活はフィットしているように感じた。佳澄が「お父さん」ではなく「先生」と呼ぶ距離感が心地いい。少しぶっきらぼうでからっとした佳澄の口調は、学校で腫れ物扱いされる先生にとっては気が楽なのかもしれない。親子というよりはもっとフラットな関係性だ。緻密に描かれる二人の暮らしには、何にも代えられない絶妙な空気感があった。存在しない思い出をなぞっているような懐かしさもあった。佳澄が出ていくことは決まっている。けれど、この日常をずっと見ていたい気もした。
さて、タイトルにもなっている「愛の適量」について考えてみた。適量は、確かに難しい。やりすぎてもいけないし、少なすぎてもいけない。でも人間関係において適量が分かる人なんてどれほどいるだろうか。私自身も、ここまでやるのはかえって迷惑なんじゃないか、でもやらなさすぎるのもよくないし、などとしょっちゅう考えてしまう。けれど、本当は適量など考える必要はないのかもしれない。適量がわからず悩んでいた先生は、佳澄と暮らしたことで確実に変わった。
きっと、相手がどんな人で、何を思い、何を求めているかを考えること、相手を想う気持ちが大事なのだろう。
2022年本屋大賞第3位
第43回吉川英治文学新人賞受賞!
共感と絶賛の声をあつめた宝物のような1冊。
夫婦、親子、姉弟、先輩と後輩、知り合うはずのなかった他人ーー書下ろし掌編を加えた、七つの「小さな世界」。生きてゆくなかで抱える小さな喜び、もどかしさ、苛立ち、諦めや希望を丹念に掬い集めて紡がれた物語が、読む者の心の揺らぎにも静かに寄り添ってゆく。吉川英治文学新人賞受賞、珠玉の短編集。
一穂ミチ(いちほ みち)
2007年『雪よ林檎の香のごとく』でデビュー。『イエスかノーか半分か』などの人気シリーズを手がける。『スモールワールズ』(本書)で第43回吉川英治文学新人賞を受賞し、2022年本屋大賞第3位となる。『光のとこにいてね』が第168回直木賞候補、2023年本屋大賞にノミネート。『パラソルでパラシュート』『うたかたモザイク』『砂嵐に星屑』など著作多数。