⑤お涼さまの名言実践講座その3
文字数 1,537文字
『創竜伝』『銀河英雄伝説』『アルスラーン戦記』など大人気シリーズを世に送り出してきた田中芳樹さんのもう一つの人気シリーズ、「薬師寺涼子の怪奇事件簿」。最新刊『海から何かがやってくる 薬師寺涼子の怪奇事件簿』が講談社文庫より刊行になったのを記念して、お涼さまの魅力を深堀りしていきます!
5回めの今回は、作品に登場するお涼さまの名言を実生活で役立てよう!という実践講座のその3。
ぜひ日々の生活の中でお役立てください!
ただし、その後の責任はとりかねますので、各自自己責任でお願いいたします!
3ヵ月にわたる大きなプロジェクトを終えた金曜日。苦楽をともにした憧れの先輩と一緒に打ち上げをすることに。随分恋もご無沙汰。これはひょっとして、なんてちょっと浮かれていたところ、連れてこられたのはチェーンの居酒屋。ワインで祝杯、は望みすぎたか。内心ちょっとテンションが下がったけれど、ビールで乾杯以降、かしこまらない雰囲気が逆に心地いい。実際、商談相手の愚痴で盛り上がり、気づけば時刻は23時を越えていた。あぁ、もうちょっと話してたいなぁ。このあともう一件あったりして、なんて淡い期待をした矢先。
「そろそろ行こうか。会計は割り勘で良いよね」
ん? なんだか雲行きが怪しい。まぁ、別に割り勘でも文句はないんだけれど……。
「あ、ちょっと待って。困ったなぁ、端数が5円だって。綺麗に割れないよ~」
……。
「じゃあ、ここは俺が1円多く払うからさ。次、一緒に食事するときは――」
言葉が途中から耳に入ってこない。あぁ、私ってなんて馬鹿だったんだろう。こんな男に憧れてたなんて――。
──こんなときは、お涼をまねて言ってやりましょう!
「大の男が、億以下の金額でガタガタさわぐんじゃないッ!」
同棲して半年。そろそろお互いの本性がバレてくる頃合い。とにかく論理的で几帳面な彼に対し、あたしはどちらかというと四角いところを丸く掃くタイプ。確かにちょっとズボラで大雑把かもしれないけど、これがあたしだ。それなのに――
「右利きなんだから、ハンガーは普通フックが左にくるようにかけるだろ」
「どうしてこれから出かけるのに先に郵便受けを確認するの? 荷物が増えるじゃん。帰ったときに見ればいいのに」
最近は彼の小言ばかりが増えてきて、なんだか窮屈になってきた。どんどんあたしらしさが失われていく気がする……。溜息をつきつつ向かったのは台所。お互いに仕事が忙しく、2日間ため込んだ食器の量は多くて、食器乾燥機がパンパンになってしまう。なんとか蓋を閉じてひと段落ついたかと思いきや、新しいコップにお茶を注ぎながら彼がこんなことを言ってきた。
「なんでこんな風に向きもそろえず、めちゃくちゃに入れるわけ? 皿は立てて入れれば必然的にスペースはできるし、もっと綺麗に入るじゃん」
あー、もうイライラする。いいじゃん、別にちゃんと入ったんだから!
──こんなときは、お涼をまねて言ってやりましょう!
「うるさいわね。必然性よりあたしらしさのほうがダイジなのよ!」
『海から何かがやってくる 薬師寺涼子の怪奇事件簿』
敵は深海怪獣、自衛隊、海上保安庁!?
警視庁の破壊の女神、絶海の孤島で
全軍突撃!
絶海の孤島に作られたリゾート地に怪生物が襲来。飛行艇が破壊され、島の人々に危機迫る。未解決事件の捜査で居合わせた薬師寺涼子警視は事態の収拾を急ぐが、海自と海保との主導権争いに巻き込まれ……。怪物と悪役(?)相手に「ドラよけお涼」の血が騒ぐ。部下の泉田を引き連れて不穏な謀画スタート!