②ざんねんな生き物
文字数 1,942文字

『創竜伝』『銀河英雄伝説』『アルスラーン戦記』など大人気シリーズを世に送り出してきた田中芳樹さんのもう一つの人気シリーズ、「薬師寺涼子の怪奇事件簿」。最新刊『海から何かがやってくる 薬師寺涼子の怪奇事件簿』が講談社文庫より刊行になったのを記念して、お涼さまの魅力を深堀りしていきます! 第2回めの今回は、作品に登場する「ざんねんな生き物」について。
いったい何がどう「ざんねん」なのかといいますと……。
ロシア帝国の名将・アレクサンドル・スヴォーロフ(1730~1800)。
数多くの戦いに勝ち、生涯一度も負けることがなかった「常勝不敗」の男。しかし、とてもクセのある性格で「奇行伝説」多数。さらには誰であろうとも「容赦なく批判」。まさに「勝てば官軍」を地で行く人だったのかもしれない。
……うん? 常勝不敗!? 常識をくつがえす行動!? 容赦なく批判!? 勝てば官軍!?
ああっ! それって、薬師寺涼子ではないか!!
どんな怪事件が続発しようとも、強引かつ非民主的なやりくちで解決し、その後始末は警察組織に押しつける。この猛進、誰であっても止められない。
途轍もない強さと兇暴さを持つお涼さまは、まさに歴史に名を刻むレベルだったのだ!
そんな彼女と戦いたくないのは、生きとし生けるもの全ての思い。だって「敵になったらサヨウナラ」なのだから……。
にもかかわらず「ドラキュラもよけて通る」お涼さまを、不幸にも「よけて通れなかった」モノたちがいた! 今回はそんな「ざんねんな生き物たち」をご紹介しましょう。
【アントワーヌ・デュポア】
フランスのエリート警察官僚。インターポール出向時に、お涼さまのお尻に目がくらんで、ついつい手を伸ばしてしまい……お涼さまの平手打ちで3メートルふっ飛び、頭から窓ガラスへと一直線。全治1週間のケガを負うことに。
セクハラなので完全アウト。今ならSNSなどで告発されて世界から非難轟々となってもおかしくないでしょう。ところが、それ以上に怖いと思われる「一生の後悔」をお涼さまから背負わせられたので、ざんねんな生き物に認定です。
【石棲妖蠍(バレオロザキス)】
密室となったビル内に現れた大理石の中に棲む化け物。サソリの一種。
「思いきり邪悪で、争いや恐怖を好む」性格のようで、お涼さまの性格にも似ているようなとは部下・泉田が密かに抱いた思い。
そんな化け物に対してお涼さまは「猫にマタタビ」的発想を使い、意外なモノで懲らしめていく。
ちなみに事件に巻き込まれたエラい人・エラそうな人の中にも、ざんねん続出!
【有翼人】
結婚式が行われていたホテルの中庭に死体を落とした化け物。その姿は、さしわたし2メートルくらいの翼を持ち、胴体の上に人間のような頭がある不気味なもの。
この空飛ぶ化け物が逃げ込んだ先が、あろうことか財務省の関連施設。化け物と巨大な闇が絡む事件、まさにお涼さまにとっては宝石箱だった!
翼をはためかせ、長い細い強靭な腕をふるい、なぐると同時に、爪をつきたてて肉をえぐろうとする兇悪な化け物であろうとも、勇気のカタマリ、破壊衝動のゴンゲ、敵に無慈悲なお涼さまの攻撃が冴えわたる!
【マヴォーニク】
パリの空港で遭遇した、人間のある部分を吸いとる醜悪な顔をした小動物。リスともサルともつかぬ異形で、聞く者の鼓膜にやすりをかけるような不快な笑い声を立てる。
人智を超えた手段で生み出された化け物、世界を一変させかねない真実を突きつけられたお涼さまは、「これは戦争よ!」と高らかに宣言!
越権捜査など気にしない「やりたいからやる。モンクあるか」が信条のお涼さまの猛進に、化け物ばかりか、日本外交にまでざんねんな危機到来か!?
【お近くの3人】
お涼さまのペースと怪事件に巻き込まれていく忠臣・泉田準一郎、お涼さまのライバル警察官僚・室町由紀子、その部下・岸本明の3人が一番ざんねんなのかも……?
……もっともっと語りたいところですが、お時間となってしまいました。
残りのざんねんな生き物は、作品でお楽しみください!
『海から何かがやってくる 薬師寺涼子の怪奇事件簿』
敵は深海怪獣、自衛隊、海上保安庁!?
警視庁の破壊の女神、絶海の孤島で
全軍突撃!
絶海の孤島に作られたリゾート地に怪生物が襲来。飛行艇が破壊され、島の人々に危機迫る。未解決事件の捜査で居合わせた薬師寺涼子警視は事態の収拾を急ぐが、海自と海保との主導権争いに巻き込まれ……。怪物と悪役(?)相手に「ドラよけお涼」の血が騒ぐ。部下の泉田を引き連れて不穏な謀画スタート!