②昔のおばけと窓の首/福澤 徹三,糸柳 寿昭

文字数 2,180文字

暑い夜のおともにぴったり!

怪談社の糸柳寿昭と上間月貴が全国各地で怪異を取材、作家の福澤徹三がそれを書き起こす。心霊スポットや事故物件など、さまざまな「場所」にまつわる怪異はときに不可解な連鎖を遂げ、予想外の恐怖と戦慄にたどり着く──。

ページをめくるにつれて読者の日常をも侵食する最恐の怪談「実話」集、3巻目『忌み地 惨 怪談社奇聞録』刊行を記念して3本試し読み! 第2弾「昔のおばけと窓の首」をお楽しみください!

 糸柳は刺殺事件のあったマンションを離れて住宅街を歩いた。

「途中で顎マスクで爆笑しよるおばちゃん二人組がおったから、こらいけるやろと思うて声かけた。そしたら千里にある橋に幽霊がでるていう」

 糸柳はその場所を教わって千里へいった。橋はなかなか見つからなかったが、近くの住人に話を聞くと、橋で遊んでいた子どもが誰もいないのに川に突き落とされたとか、老人が橋から落ちて骨折したとか、そんな話がいくつかあった。

 ようやく見つけた橋はちいさく、その下は川というよりコンクリートで固められた水路で水は流れていなかった。とりあえず写真を撮っていたら橋にいた老人が水路を指さして、あれ鳥かな、といった。

 鳥ではなくゴミに見えたが、適当に返事をして、

「このへんに幽霊がでるて聞いたんですけど」

「だいぶ前に死んだ奴やろ」

 くわしく訊こうとしたら、老人は無視して立ち去った。


 糸柳が橋を離れて歩いていると、中学生くらいの男の子たちが路上でバッグを投げあって遊んでいた。さっきの橋のことを訊いても知らなかったが、こんな話をしてくれた。コロナ禍の影響で林間学校が中止になり、かわりに日帰りの林間学校体験という催しがあった。

 そのとき校内で肝試しをしたら、誰もいない教室から声が聞こえると、五、六人の女子生徒が騒ぎだし、おどかし役で隠れていた教師たちも青ざめていたという。

 ほかにはなにかないか訊いたら、男の子のひとりが、

「うちの姉ちゃんが見たいうてた。団地の窓から首がぶらさがってたて」

 その首は窓から垂れて、ゆらゆら揺れていたという。

 糸柳は団地の場所と棟番号を聞き、近くの公園で休憩した。

 いままで聞いた話をメモ帳に書いていると、子どもが三人寄ってきて、

「なんで、そんな変な髪の毛なん」

「おっちゃん、なにしてんの」

 口々に話しかけてきた。糸柳は両手を前に垂らして、

「おっちゃんはなあ、おばけ探しよるねん」

 怖がるかと思いきや、子どもたちは平気な顔だった。ひとりの男の子が、

「おばけやったら、昔のおばけおるねんで」

「昔のおばけて、なに?」

 そう訊ねたが要領を得ないでいると、その子の母親らしい女性が近づいてきた。男の子は彼女を振りかえって、なあママ、といった。

「昔のおばけおったんやんな」

 大声で叫んだから恥ずかしくなった。

 母親はうなずいたので、どういうことか訊いたら、

「すぐそこの神社で、昔の服着たおばけを見たて、近所の子がよういうてました」

「昔の服て、どんなんでしょう」

「ようわかりません。二年くらい前から、でらんようになったみたいで」

 ほかになにか知らないか訊いたら、その神社のなかに防空壕があるという。


 糸柳はさっそく神社にいくと防空壕のことを訊いた。

「この界隈の歴史について調べてるていうたら、社務所におった男のひとが案内してくれた」

 その男性は五十年も神社にいるが、ずっと防空壕の存在は知らなかったという。

 男性と神社の裏へいってみると、防空壕は竹藪の斜面に横穴を掘ったような形状で、ほとんど土に埋もれていた。

「防空壕が見つかったんは二年くらい前ていうから、おばけがでなくなった時期とおなじやなと思うた。関係ないかもしれんけど」


 糸柳は神社をでたあと、首がぶらさがっていたという団地へいった。

 これといって特徴のない古い団地で、昭和三十年代から四十年代に建てられたとおぼしい。団地の住人に何人か声をかけて幽霊の噂があるか訊いたら、みな露骨に厭な顔をした。

 さっきの男の子の姉は窓から首が垂れていたといったそうだから、バルコニーがある側ではないだろう。建物の反対側には、トイレや浴室らしいちいさな窓がならんでいる。それを撮影してから「大島てる」で検索すると、次の投稿があった。


 406号室

 自殺(首吊り トイレにて)

 近隣住民 幽霊目撃あり

福澤徹三(ふくざわ・てつぞう)

小説家。『黒い百物語』『忌談』『怖の日常』など怪談実話から『真夜中の金魚』『死に金』などアウトロー小説、『灰色の犬』『群青の魚』などの警察小説まで幅広く執筆。2008年『すじぼり』で第10回大藪春彦賞を受賞。『東京難民』は映画化、『白日の鴉』はドラマ化、『侠飯』『Iターン』はドラマ化・コミカライズされた。他の著書に『作家ごはん』『羊の国の「イリヤ」』などがある。

糸柳寿昭(しやな・としあき)

実話怪談師。全国各地で蒐集した実話怪談を書籍の刊行やトークイベントで発表する団体「怪談社」を主宰。単著として『怪談聖 あやしかいわ』があり、怪談社の著作に『恐國百物語』『怪談社RECORD 黄之章』『怪談師の証 呪印』など多数。狩野英孝が司会を務めるCS番組「怪談のシーハナ聞かせてよ。」に、本作に登場する怪談社・上間月貴とレギュラー出演中。本書は福澤徹三と共著の『忌み地』『忌み地
弐』続編となる。

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