よく知る二人、気になる二人/後藤拓実(四千頭身)×加賀 翔(かが屋)対談①
文字数 4,410文字
後藤 芸歴的には加賀くんが先輩だけど、講談社とのお付き合いは僕が先輩ですので。
加賀 ああ、まあ、はいはい。そうですね。いつから書いてたの?
後藤 2020年ぐらいから。
加賀 え、連載してから1年ほどで本になったの? 早くない?
後藤 だから足りなかったです。最終的には「あと10日で7作品必要です」ってくらいに足りなかった。
加賀 やば(笑)。
後藤 しかも足りてない状態で本に収録する対談はやってて、ムロツヨシさんと、作家の武田綾乃さんと。
加賀 さらにやば(笑)。
後藤 その対談のために武田綾乃さんの小説を一気に読んだんですけど、僕もともと全然本読まないから、武田さんの小説で知った漢字とかワードが頭に残っちゃって。だからその後に追加された7作品は、だいぶ武田綾乃集です。フィーチャリング武田綾乃。
加賀 フィーチャリングではないでしょ、サンプリングでしょ! てか、そんなに本読まないの?
後藤 全く読んでませんでした。
加賀 じゃあ、俺が書いたやつ読めた?
後藤 読めた。
加賀 良かった、良かった。
後藤 持ってきてるんです。ただちょっと宣伝になっちゃうんでね、カバーは外してます。
加賀 外すなよ!! 電車で読む人がなんか恥ずかしいから外すとかならわかるけど!!
後藤 カバーは外したけどするっと読めた。ちゃんとチェックしながら読んだ。ちょっといいですか……。ここ「『怖ぁないんじゃおらぁ!』と、声を出さないように息で叫び」。これ素晴らしい。
加賀 えー、はずっ。普段、失礼なことしか言ってこないのに。
後藤 だって、想像できるなと思って。あとチキン。チキンめっちゃ面白かった。お父さんの誕生日プレゼント。あそこ良かったな。
加賀 嬉しい、ありがとう。
後藤 「誰かが辛い時、自分の経験で人の気持ちを少しでも軽くすることができるなら、出来事には意味があった」。これも響いた。
加賀 改めて出されるとめっちゃ恥ずかしい。芸人さんに読まれるのめっちゃ恥ずかしい。
後藤 「駐車場でおしっこの話をしていたとは言えなかった」のところ、じゃあ加賀くんはなんて言ったんだろう? とか考えながら読んでた。
加賀 「加賀くん」ではないけどね。草野くんね(笑)。うわ──(対談は)武田さんより俺が先が良かったな。俺が先が良かったなーそうなってくると。後藤の目が肥える前に!
後藤 いやいや、すごくいい箇所いっぱいありました。
加賀 でもそれで言ったら、後藤のエッセイも読んでびっくりして。
後藤 びっくり?
加賀 だって、本を読まないっていうのはチラッと聞いてたから。エッセイとか読んだことあるのかなと思って。
後藤 本が縦書きってことも知らなかったんですよ。
加賀 え、マジで? だから正直引いたんですよ。このエッセイの技というか。こんな多才なことができるんだと思った。エッセイで自分の感情をここまで出すっていうの難しい。感情を出すっていうのは、人の目を気にしちゃいがちなんですよ。どこまで深掘って、どこまで自分の主観を言っていいんだろうっていう葛藤が生まれる。そこを「僕はこうなんです」と。で、さらにそこを突き詰めて書けるのが、多分才能なところで。
後藤 嬉しい。
加賀 『これこそが後藤』っていうタイトルもそうだし、世界観がしっかりあるんですよね。章のタイトルに「後藤」が絶対入ってるようなパッケージ能力とか。だから四千頭身の漫才もいろいろなアイディアがいっぱい出てくるんですよね。こいつってアイディアマンなんだなっていうのはあらためて思いましたね。
後藤 ふぅー(照)。
加賀 エッセイを書くってなって「じゃあどうしようか」と悩んで、身の回りのことから書くかって思ったと思うんですけど、それをよくここまで広げられるなっていう。
後藤 見透かされてる。なんてことだ。
加賀 たとえば三軒茶屋っていう言葉自体の面白さをちゃんと考えてみよう、みたいな。書くこと何もないなってなったときに、これを面白がる才能が後藤にはすごくあるので。だから素晴らしいと思いました。
後藤 嬉しい。ここカットせずに載せてください。
加賀 ちょっと文章を書かなきゃいけない機会があるときに、めちゃくちゃ悩むのよ俺。
後藤 悩みます?
加賀 悩む。文章書くのが苦手で。
後藤 え──。罪深いこと言いましたね。
加賀 だからこの小説を書くにあたっても、自分のボキャブラリーがあまりないから若い子の目線で書こうと思った。多少言葉が出てこなくても自分らしく書けるかなって。「ます」の次は「でした」、「ました」にしようとか。そのぐらいのレベルで悩むのよ、俺は。
後藤 ラッパーの悩み方だ。
加賀 そう。語尾ね。語尾大事じゃん、やっぱり。
後藤 じゃあ次僕の番なんですけど。
加賀 ターン制でやってないよ(笑)。
後藤 「時々こんな風に自分からはみ出してしまうことがある。自分の体なのにまるで他人の身体のような感覚になり、意識がはみ出してあらゆることが他人事のように感じられる」。これね、コント師がこれ言ってるんです。ああ、だから加賀くんはコントできるんだろうなって思った。僕、コントというか演技というか、全くできないので。この一文に加賀くんの演技の才能が全部入っているんではないかな。
加賀 いやいや。実はそこ、編集の方に「もうちょっと細かく書いてみませんか?」って指摘されたところで。ここを多分俺はそんなに意識してなかったの。だから元の文章より少し書き込んだんですよ。
後藤 あと、大地くんのおばあちゃんの表現、雰囲気。「丸い顔で雰囲気は少年のようだった」。これは素晴らしいと思って。たったのこの一文で「若ボーイッシュ」なおばあちゃんを表現できてる。僕だったらもっと説明して文字数稼ぎそうなのに。
加賀 マジでそこも編集の人に言われたところだ……。おばあちゃんの描写すごくいいですねって。だからおばあちゃんの描写に合わせて、他の人の描写も少し変えてみませんかと。
後藤 あ、そうなんですか? うれしい(笑)。でも僕初めて本で声出して笑いましたよ。
加賀 え、嬉しい。マジで? 俺もうほとんどないよ。本を読んでいて声を出して笑うって。
後藤 誕生日のプレゼントのプロレスラーのお人形。あの一瞬の出来事とかも想像できちゃうし。
加賀 いやなんか……気恥ずかしいしね。
後藤 「恥ずかしい」も入ってた。この本にワードとして。
加賀 エッセイを書くことに「気恥ずかしさ」ってあった?
後藤 僕はなかったですね。
加賀 なんか「もうちょっとこうしたいのにな」とか「出てこないな」みたいな感覚は?
後藤 全くないです。最初に言われてた文字数が一回1200から1800文字だったんですけど、言いたいことを全部書き終わったときに1150文字だったとすると、ちょっと丸の数を増やしてみたり。
加賀 「俺」を平仮名にしてみたり、都築のことを「つづちゃん」にしてみたり(笑)。
後藤 そういう葛藤はありました。
加賀 葛藤の話なんだ、これ(笑)。俺、最初どう書いていいかよくわからなくて、編集の人に相談したら保坂和志さんの『書きあぐねている人のための小説入門』(中公文庫)っていう本を渡されたの。
後藤 読んだんですか?
加賀 読んだ。そこに書いてあった「これやっちゃだめ」っていう、悪い例を、俺全部やっていて。
後藤 うわー。
加賀 安易に回想に入ったりするとか、予めこうなるって決めておいて書くとか、ミステリー小説じゃないんだったら、そんなことをしないほうがいいって書いてあった。あと小説って書いてたら放っておいてもどんどん暗い方向に行くらしくて。だから明るく書くつもりで丁度いい具合になるって。
後藤 だからか、すごい明るかった。
加賀 それは嬉しい。だいぶ明るく書いたんだ、俺。明るく書いたんだけど、それでも読んでくれた10代の子とかが「しんどかったです」って。「つらかったです」みたいな子が多いのよ。
後藤 ああ、自分自身とリンクしちゃったりするとね。
加賀 そうそう、そうなんですよね。でも結構大変な家庭で育った子は「あるあるがいっぱい詰まってる」って言って笑ってくれてた。それはそれで、俺もねじれてるなって思うんだけど。お笑いLIVEに来ている人と違って、誰もが笑おうと思って本を開くわけではないんだよね。だから、神妙な空気になっちゃうのよ。後藤が笑ってくれた「チキン」のところも、後藤じゃなかったらしんどい。なんてひどいお父さんなんだって。だから「お父さんむかつきました」みたいなハガキが届いたりする。「半分ぐらいで読むのやめました。胸くそ悪くて」みたいな。
後藤 えー、面白いのに。もったいない。
加賀 面白いって言ってくれる人は結構ねじれている人が多い(笑)。
後藤 ……面白くはなかったかな。
加賀 やめろよ(笑)。そうなってくると話が違う(笑)。
乞うご期待!
後藤拓実(ごとう・たくみ)
1997年岩手県生まれ。2016年、都築拓紀、石橋遼太とともにお笑いトリオ「四千頭身」を結成。おもにツッコミとネタ作りを担当している。YouTubeに四千頭身公式チャンネル「YonTube」を開設し動画を配信中。FM-FUJIにて四千頭身でのレギュラー番組「四千ミルク」を放送中のほか、日本テレビ系列にて「宮下草薙」の草薙航基とレギュラー番組「ハネノバス」を放送中。1993年岡山県生まれ。マセキ芸能社所属のお笑い芸人。2015年に加賀壮也とお笑いコンビ「加賀屋」を結成。「キングオブコント2019」では決勝に進出。ラジオ・バラエティ番組の他、趣味の短歌と自由律俳句のイベントにも出演し、マルチに活躍中。
岡山の田舎の小さな町で、細いゴリラのような父に振り回され、繊細な心を削られて生きる「ぼく」。凛とした母、ふんわりしたおばあちゃん、無二の親友との心の交流を描く、自身初の小説。
定価:1540円(税込) 講談社