「敵は本能寺にあり!」と言ったのは光秀です/矢野隆

文字数 1,765文字

「戦百景シリーズ」と題して刊行している今シリーズ、第5弾は「本能寺の変」です! 

いわずと知れた、明智光秀による、織田信長への謀反。あまりにも有名な「日本史上最大の謀反」、著者の矢野隆さんによるエッセイです!

「敵は本能寺にあり!」と言ったのは光秀です/矢野隆

 歴史にはとかく謎がある。

 坂本龍馬は誰に殺されたのか? 東洲斎写楽は誰なのか?

 そして。

 織田信長暗殺の首謀者は誰? で、ある。

 いま挙げた三つが、日本史のなかでも有名な謎ではないだろうか。


 しかし、謎とはいうが、この三つの事柄には、一応の結論が存在している。

 坂本龍馬の暗殺については、後世、生存者の口から京都見廻組の犯行であるとの証言があり、真の意味で迷宮入りというわけではない。


 東洲斎写楽については、『浮世絵類考』という書物のなかで、阿波藩お抱えの能役者、斎藤十郎兵衛であると記されている。


 織田信長についても同じことが言える。

信長の家臣であった太田牛一が記した『信長公記』のなかで、信長は明確に明智光秀の謀反によって殺されたと記されているし、当時の公卿の日記などにも光秀の謀反であると書かれている。


 そう。

 すでに犯人は特定されているのだ。

 なのに歴史ファンは、光秀の背後にさまざまな真犯人を夢想する。旧主である足利義昭であるとか、朝廷権力を歯牙にもかけない信長を恐れた有力公家であるとか、信長の死でもっとも利益を得た豊臣秀吉などなど……。


 本能寺の変の真犯人に迫る書籍は枚挙に暇がない。

 しかし『戦百景』は、あくまで戦を主人公に据えたシリーズである。私の推理を披歴するものではない。

 なので……。

 ここで断言させていただく。

 今回の『戦百景 本能寺の変』において、信長と相対するのは明智光秀である!

 真の敵はいない。


 これまでのシリーズと一線を画しているとすれば、時間のスパンが非常に長いということであろう。信長と光秀の出会いから、本能寺にいたるまでの道程を二人の視点に絞って描いている。多視点で進行する本シリーズにおいて、視点人物が二人というのも新しい試みだ。


 本能寺の変に真犯人など存在しない。

 織田信長と惟任光秀。

 十七年にも及ぶ二人だけの戦。

 心行くまで堪能していただきたい。


本能寺の信長公廟    写真:アフロ

矢野隆(やの・たかし)

1976年福岡県生まれ。2008年『蛇衆』で第21回小説すばる新人賞を受賞。その後、『無頼無頼!』『兇』『勝負!』など、ニューウェーブ時代小説と呼ばれる作品を手がける。また、『戦国BASARA3 伊達政宗の章』『NARUTO-ナルト‐シカマル新伝』といった、ゲームやコミックのノベライズ作品も執筆して注目される。また2021年から始まった「戦百景」シリーズ(本書を含む)は、第4回細谷正充賞を受賞するなど高い評価を得ている。他の著書に『清正を破った男』『生きる故』『我が名は秀秋』『戦始末』『鬼神』『山よ奔れ』『大ぼら吹きの城』『朝嵐』『至誠の残滓』『源匣記 獲生伝』『とんちき 耕書堂青春譜』『さみだれ』『戦神の裔』『琉球建国記』などがある。

「戦百景」シリーズが深掘りするのは、天下の趨勢を一夜で変えた「本能寺の変」。

織田信長を斃した明智光秀を突き動かしたものとは!

織田信長と明智光秀。日本史上最大の謎とされる「本能寺の変」の主役二人が出会ったのは案外遅く、永禄11年(1568年)のことだった。信長は美濃の斉藤氏を滅ぼして、尾張を併せた二ヵ国の太守。片や光秀は、次期将軍就任を目ざす足利義秋(のちの義昭)に仕える細川藤孝の家人だった。越前の朝倉家の食客の身に甘んじていた義秋主従は朝倉家当主・義景に愛想を尽かし、やがて信長を頼る。信長と義秋のパイプ役を務めていた光秀は、その後信長の直臣に。それから光秀は出世を重ね、織田家重臣の筆頭格にまで昇りつめる。家臣の中で最初に持ち城・坂本城を与えられ、家中の出世頭となった光秀に転機が訪れる。それは、東の強国・武田氏を滅ぼした年のことだった。天下布武を目前にした信長にどんな変化があったと言うのか。手に入れた織田家中における栄誉を、なぜ光秀は手放す気になったのか。日本史最大の謎を、シリーズ最深の深掘りをして変の真相に迫る、超人気シリーズの書下ろし歴史長編。

こちらもぜひ!

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色