『レーエンデ国物語』の著者が語る小説の原点

文字数 2,641文字

※この記事は現代ビジネスからの転載です
「2024年本屋大賞」ノミネート・作家歴18年の多崎礼さん、

「ヒット作が出せず、申し訳ないと思っていた」

「2024年本屋大賞」にノミネートされた 『レーエンデ国物語』。その著者は、デビュー18年の多崎礼さんです。「もうちょっと売れてくれないと、この先どうなるのだろう」と不安に思った時期を乗り越えての今、自分の得意なジャンルで勝負した作品が支持された喜びを語りました。
本屋大賞の時期は、お祭りみたいでワクワク

――第1部発売直後のインタビューでは、「本当に売れるのだろうかと不安は尽きない」とおっしゃっていましたが、良い意味でその不安は裏切られましたね。

本当にびっくりしました! 『レーエンデ国物語』は元々シリーズ作品として執筆していたため、第1部を出版した時は「完結できるように頑張りましょう!」というのが、担当編集者さんとの合言葉だったんです。本当に売れるのか不安でしたが、刊行から半年余りでこんなにも大きな反響があり、気持ちが追いついてないというのが正直なところです。本屋さんに挨拶回りの訪問をした時、「推しますから!」「頑張ってください!」と言ってくださった方々が、きっと喜んでくださっているのだろうなと考えると、とても嬉しいですね。皆さんのおかげでノミネートされました、と改めてお伝えしたいです。


――本屋大賞はどんなイメージですか?

私は以前に本屋さんで働いていたのですが、その頃にちょうど本屋大賞が始まりました。「本屋さんが選ぶ面白い本」ということで、本をたくさん読んでいる人がオススメする面白い本っていうイメージですね。芥川賞直木賞に比べると、どちらかと言えば庶民的で、お祭りっぽくて、本好きの心をくすぐる賞のイメージです。「これ面白いよ」と誰かに話す“口コミの大きいバージョン”という感覚です。


――書店員時代、本屋大賞の思い出はありますか?

「書店員が選ぶ」ということで、毎年注目されていましたね。私はアルバイトで、しかも担当は文芸ではなくゲームだったので、直接的には関わっていませんでしたが、本屋大賞の時期は店頭に全ノミネート作品が並べられて、お祭りみたいで、ワクワクしていました。

一番得意なフィールドで勝負するしかない
――毎年、本屋大賞のノミネート作品は読まれますか?
書店員時代は読んでいましたが、最近は時間的な余裕がなく、あまり読めていないのが正直なところです。それに加えて、実は以前にベストセラーを読んだ時に、その良さが理解できず、落ち込んでしまったことがあって……。多くの人から面白いと絶賛されている作品に共感できない自分は、欠損しているところがあるのではと思ってしまったんです。人にはそれぞれの好みがあることは重々わかっていたのですが、今回、『レーエンデ国物語』が本屋大賞にノミネートされ、「私の“好き”を、好きだと言ってくださる方がいる」ということがすごく嬉しかったんです。


――以前のインタビューで、小説を書く原点は、「自分が読みたいかどうか」とおっしゃっていました。その時々の流行を取り入れて売れるものを書くのではなく、自分が読みたいものを書く、という軸はブレていないのではと思いました。

そういうふうに言っていただけると、すごくかっこよく聞こえるのですが、結局は自分の好きなもの以外は書けないんですよね。ベストセラー本をはじめ、流行っている漫画や映画を見て人気の理由を分析することがあるのですが、「なるほど、ここの部分が人気なんだな」とわかる一方で、なぜ売れているのか理解できないものもあるんです。後者の場合、何の要素を自分の作品に取り入れたらいいのかわからなくて。結局、そのジャンルが売れているからといって、自分が不得意なジャンルの土俵で何かを書いたとしても、そのジャンルが得意で好きで書いている人には敵わないんですよね。最終的には、「自分が一番得意で、本領を発揮できるフィールドで勝負するしかない」という結論に毎回至ります。


デビュー後、なかなかヒット作を出せずにいた

――現在、作家歴は何年になりますか?

2006年にデビューしたので、18年になります。実は、投稿生活を17年間していたので、昨年ちょうど折り返したなと思っていたところでした。今年から、作家生活の方が長くなっていきます。

――書店員時代にデビューが決まったそうですね。店頭に並んでいるご自身の著作を見た時、どんなお気持ちでしたか?

元々、上司や同僚には小説家になりたくて投稿活動をしていることなどをオープンに話していました。『煌夜祭』(中央公論新社)が「第2回C⋆NOVELS大賞」を受賞した時、情報解禁後すぐに周りに報告しましたね。「実はね、デビューが決まったんだよ」って言うと、たいがい皆さん「え?」って言って3秒ぐらい停止するという(笑) 時間差があって、「えー! おめでとう」とか、「仕入れなきゃ!」などの嬉しい言葉をかけてもらいました。レジに入っていた時、自分の本を販売したことがあるのですが、嬉しい気持ちを顔に出さないようにして、「カバーおかけしますか?」とお客様にお尋ねしたことをよく覚えています。

――再来年にはデビュー20周年を迎えますが、改めて作家人生を振り返って思うことはありますか?

「書く仕事がなくなっちゃうかな」って思った時にいつも、出版社さんから声をかけてもらっていました。出すあてのない原稿を書いている時代というのはあまりなく、すごく恵まれていたと思います。好きなものを書かせていただいて、それを本にしていただいて、自分がひとり生きていくだけのお金は得られていました。でも、ヒット作が出せなくて、出版社さんにも、本屋さんにも申し訳ないなっていう期間は長くありました。もうちょっと売れてくれないと、この先どうなるのだろう、とかあれこれ考えてしまった辛い時期もあったのですが、こうして途切れることなく書かせてもらえたというのは、本当にラッキーでした。改めて、出版社の方々や本屋さんの皆さんに、お礼の気持ちを伝えたいです。

▼プロフィール

多崎礼(たさき・れい)

2006年、『煌夜祭』で第2回 C⋆NOVELS大賞を受賞しデビュー。著書に「〈本の姫〉は謳う」、血と霧」シリーズなど。2023年、『レーエンデ国物語』を皮切りに、第2部『レーエンデ国物語 月と太陽』、第3部『レーエンデ国物語 喝采か沈黙か』を刊行。現在、第4部を執筆中。

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