元書店員の作家・多崎礼さん、「少しでも本屋さんに貢献できたら」

文字数 2,586文字

※この記事は現代ビジネスからの転載です
本屋大賞ノミネートに驚き

元書店員の作家・多崎礼さん、「少しでも本屋さんに貢献できたら」


2024年2月1日、「2024年本屋大賞」にノミネートされた10作品が発表されました。その一つが、『レーエンデ国物語』です。著者の多崎礼さんは以前、書店でアルバイトをしていたため、書店員が選ぶ本屋大賞の候補に入った嬉しさは人一倍です。今回のノミネートをどう受け止めていらっしゃるか、多崎さんに聞きました。

報告後、頭に浮かんだのは書店員さんの笑顔

――ノミネートをお聞きになった時の率直なお気持ちを聞かせてください。


本当にびっくりしましたね。報告を聞いた時、もちろん嬉しさもあったのですが、あまりに驚きすぎて思考がついていかず、2日後に「すごいことだ!」と喜びが時差で湧き上がってきたほどです(笑)。そして頭の中に浮かんだのは、昨年末に訪問させてもらった本屋さんで出会った方々のことです。「(本屋大賞に)推します!」と言ってくださる方が何人かいらっしゃったのですが、その方たちの笑顔が一番に頭の中に浮かびました。


――ノミネートは、予想していなかったのでしょうか?


全く予想をしていませんでした。私は書店員として長らく働いていたので、シリーズもののファンタジーで、しかもまだ完結していない作品は、本屋大賞に選ばれない傾向があることを知っていました。しかも500ページ近くあって、値段も2000円以上とお手頃価格ではない。だから、私の中では選ばれる要素が入っていないので、反対になぜ選んでいただいたのか聞いてみたいです。本当に、なぜでしょうか?

世界観を作ってくださっていたことに感動

――『レーエンデ国物語』を通して、全国の書店を訪問されましたか?


はい、東京首都圏、関東をはじめ、名古屋、大阪、福岡に行きました。どのお店でも目につくところに、表紙が見える「平積み」で置いてくださっているのがとても嬉しかったですね。『レーエンデ国物語』は装幀が素晴らしいので、それがわかるように並べてくださることは元書店員としても嬉しく思います。というのも、書店には毎日新刊が入るので、スペースが限られる店内において、平積みは場所を取る並べ方なんです。それでも、非常に良い場所に、お客様の手に取りやすいように並べてくださる心遣いや、オリジナルで手作りされたPOPや装飾品を飾ってくださる工夫に、本当に頭が下がる思いでした。


――本の置き場所やPOPは、元書店員の多崎さんだからこそおわかりになるありがたみなのですね。


はい。本というのは、本屋さんのプッシュがあるからこそ、お客様の手に取ってもらえる要素は大きいと思います。手に取って読んでもらえなければ、自分の好みに合うかどうかもわかりません。なので、手に取って開いて見てもらう工夫をしてくださり、読者さんの手に渡りやすくしてくださったことに、本当に伝わってくるものがありました。何十倍にも嬉しく感じましたね。


――POPや装飾品で印象深かったものはありますか?

入店してすぐの棚に、「泡虫」を模したシャボン玉の絵が点々と貼られていて、それを追っていくと、『レーエンデ国物語』の本が並べてある工夫が施されていたり、銀色にペイントした葉っぱや砂、銀色の折り紙で作った魚をディスプレイしてくださっていたり、『レーエンデ国物語』の世界観を作ってくださっていたことに感動してしまいました。

大阪での“おもてなし”に、驚きすぎて反応できず

――印象的だった書店員の方はいらっしゃいましたか?


大阪に行った時のエピソードなのですが、ずっと軍手をなさっている男性書店員さんがいました。書店では手を切りやすく、私も書店員時代は冬場に軍手をして作業をしていたので、軍手をされていることを気にしてなかったのですが、帰り際になって、「実は僕、銀呪病にかかっておりまして……」と話しかけてくれて。軍手を取り、袖をめくられると、なんと、腕から指先が銀のスプレーで塗られていて……! 私は東京人ということもあり、驚きすぎて最初、リアクションが上手くできなかったのですが(苦笑)。 さすが関西の方は笑いに対する意気込みが違うと感心するとともに、ここまでしてくれるんだと嬉しくなりましたね。そんなおもてなしのお礼は、サイン本を作ることぐらいしか今は思いつかないので、サイン本を書かせてもらっています。


――サインは何冊くらいされたのですか?


時間が許す限り書かせてもらいました。1店舗につき10冊〜50冊ほど書いたのですが、おかげさまでサインをするのが速くなりました(笑)。サイン本というのは、新品の商品に書き込みをする形になるので、書店側からすると返品ができない覚悟が必要なんです。売れ残ってしまったら“不良債権”になるリスクを背負ってでも、サイン本を依頼し、店頭に置き、読者の方を喜ばせたいという書店さんの期待に応えられたら、という思いで毎回サインをさせてもらっています。SNSで、書店さんの「サイン本入りました」の投稿は、私のアカウントでリポストさせてもらうようにしています。今回の本屋大賞ノミネートに乗じてのブームが続いて、完売することを願っています!

本屋さんで本を買ってもらうために


――各書店の後押しや熱意があってこそのノミネートなので、元書店員として恐縮してしまう面はありますか?


あります! 経験上、好きでないとそこまで出来ないことがわかるので、端々から熱意と愛情が伝わってきました。すごく嬉しいのと、ありがたいなという気持ちでいっぱいです。なので、少しでも本屋さんに貢献できたらいいなと思っています。電子書籍も流行っている今、「レーエンデ国物語」シリーズは手触りがよく、装幀も素敵で、帯も凝っています。私は紙の本がとても好きなので、本屋さんで本を買ってもらうために、自分の本だけではなく、できることがあれば、もうなんでもしたいと本当に思います!

▼プロフィール
多崎礼 (たさき ・ れい)

2006年、『煌夜祭』 で第2回C・NOVELS大賞を受賞しデビュー。 著書に 「〈本の姫〉は謳う」、「血と霧」シリーズなど。2023年、『レーエンデ国物語』を皮切りに、第2部『レーエンデ国物語 月と太陽』、第3部『レーエンデ国物語 喝采か沈黙か』を刊行。現在、第4部を執筆中。

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