[dialogue]ロックと小説とSFと/朽木外記×鵜狩三善

文字数 4,681文字

「テラのオショウ」が大活躍する異様なテンションの小説『ボーズ・ミーツ・ガール』(鵜狩三善・著)と、まるで大河時代小説のような筆致でファンタジー世界を描く『城主と蜘蛛娘の戦国ダンジョン』(朽木外記・著)。異色作揃いのレジェンドノベルスでもひときわ異彩を放つ両作の著者が、ついに邂逅! 独自の創作論を語り合いました。はたして、あの話題作のルーツはどこにあるのか?

聞き手・構成:レジェンドノベルス

自分たちの作品は泥まみれ
朽木 今日のお話は楽しみでした。

鵜狩 こちらこそ。『ボーズ・ミーツ・ガール』2巻が急に話題になって、鵜狩とはどんな作家なんだという声がちらほら聞こえてきて、そしたらこのタイミングで対談のお話を頂いて光栄です。担当編集さんが同じ方なんですけど、朽木さんの小説を読んで「この方はきっと好きなものが似てるな」と勝手に思っていました。

朽木 似てるといえば、主人公がお互いにハゲてるくらいじゃないですか(笑)。鵜狩さんの作品は文章が格調高くて、新しい家というか桐の新木でできた宮殿のような品の良さを感じます。文章がそもそもきれいですよね。私には書けないですよ。

鵜狩 ありがとうございます。朽木さんの『城主と蜘蛛娘の戦国ダンジョン』って、よくあるファンタジー系の固有名詞などを取り入れつつ、下町情緒を感じさせる文体だと感じました。宮部みゆきさんの人情もの系時代小説みたいというか……。さらに、築城や戦争に関するしっかりした知識を織り込みながら、それが嫌味になっていない。これを書くのは、相当突っ走っている方だぞと思いました。

朽木 いやいや(苦笑)。正直、よく声がかかったなと今でも思っています。展開は最近の小説にしてみたら、めちゃくちゃゆっくりだし、どう読まれているのか本当に大丈夫なのかなという気持ちでいますよ。

鵜狩 自分は今他社で剣豪小説を書いてるんですけど、むしろ朽木さんが書いた剣豪小説を読みたいなと思いました。この情緒性で、この設定を上手く活かして、それぞれの種族で剣豪ものやったらきっと面白いのでは。

朽木 それはですね、一度やってるんです。『白雪姫と七人の戦鬼』という「小説家になろう」に投稿した作品で。

鵜狩 実はそれも読んでます。まだ途中ですが、先が楽しみで。

朽木 ところが自分は戦闘シーンがあまり得意でないんですよ。

鵜狩 いやいや、そんなことはないでしょう。ガッツリ書いてらっしゃるじゃないですか。あまりお好きじゃないんですか。

朽木 今のファンタジー小説って、必殺技じゃないですけど、えいやってすごいもの振り回して大勝利って感じじゃないですか。ああいう爽快感が書けないんですよ。どうしても。私の場合は、みんなが泥の中で全身泥まみれになってガッツガッツ殴り合うような感じにどうしてもなってしまうんですよね。

鵜狩 それを言ったら、自分も結構泥臭い感じですよ。やっぱり、えいやって振るにしても、そこまでの積み重ねがあり、そいつはこういう人間だからいざという時にこうなるというものが必要で、そこでの勝ち負けの綾を書くのが好きなんですよね。

両作の源流となった作品とは
鵜飼 読者の方の感想の一つに、『ブラックロッド』(古橋秀之著、電撃文庫)みたいって感想があったんです。嬉しかったんですけど、自分の中では同じ古橋作品でも『サムライ・レンズマン』(徳間デュアル文庫)なんですよ、原点は。ああいうどこか日本を勘違いしたSF作品的なことをやってみたかった思いは常にあったんです。朽木さんが影響を受けた作品というのも気になります。
朽木 実は、自分で書くようになってからは、他人の作品はあまり読まないようにしてるんです。影響されやすいタイプなので、どんどんどんどんグサグサ刺さっちゃう。だから宮部みゆきさんも好きなんですが、あえて読まないようにしています。

鵜飼 では『戦国ダンジョン』はどこから?

朽木 あれはまず、「ダンジョンって何だろう」というところから始まりました。多くの作品ではダンジョンは冒険者にとってあくまで通過点で、舞台装置でしかない。でもダンジョンには色々なモンスターが棲んでるし、彼らにだって自我があるわけで。それを何とかしてやろうという部分から始まってるんです。
鵜狩 タイトルは『戦国ダンジョン』なのに、描いてるのは築城と攻城戦なのがすごい。
朽木 これはリアルな話ですけど、古今東西の戦争の歴史を紐解いても、地下に潜って勝ったためしがない。それはまず念頭にありました。だから、いかにダンジョンから出て戦って勝つかに絞ったわけです。ダンジョンでの戦いを真面目に書くことはできますよ。しかしそれでは勝利にならないし、すなわち面白くないんですよ。これは、若い時分から戦記物をよく読んでいたことが影響されてると思っています。パウル・カレルというドイツの戦記作家や、アメリカの軍事研究家でゲームデザイナーをやってるジェイムズ・ダニガンの『戦争のテクノロジー』などがベースになってますね。
鵜狩 なるほど。私の方は、多くの方が通る道だと思うんですが、夢枕獏や菊地秀行の影響を多分に受けていると思います。あとは芥川龍之介や菊池寛の作品の「人間観」には感化されてる部分があるかな。
朽木 芥川龍之介は当然ながらすごいですね。
鵜狩 でしょう? 先日、『奉教人の死』を読み返して、今でもうまく感想が言えないんですけど、現代に通じるものがちゃんとあるなと思いました。あとは文学だけでなく、音楽の影響を受けている部分はあると思います。時々ですが、音楽を聴いているとシーンが浮かんでくることがあります。
朽木 やはりありますか。私も同じで、『戦国ダンジョン』の短編、「生きていこう」を書いてるときは、筋肉少女帯の「モンブランケーキ」という曲をエンドレスで聞いてました。何か聞いていないと耳がさみしくなるので、かけていないとダメなんですよ。
鵜飼 自分は逆で、書いている最中に歌詞が入ってくるとダメなんで、書く場合は完全に音は絶っちゃうんです。馴染んでいる曲ならホワイトノイズ的に受け入れられるんですけど。
朽木 ちなみにどんな音楽が好きなんですか。自分は筋肉少女帯聖飢魔Ⅱくらいかな。80~90年代のロックが好きです。
鵜飼 自分は気が多いんですけど、日本語的に好きなのは東京事変かな。あれはヤバいですね。海外ならプリティ・メイズというデンマークのヘヴィメタル・バンドが好きでずっと追いかけていますね。
朽木 あとは映画かなぁ……。実は『戦国ダンジョン』の2巻の各話タイトルは、古い映画のタイトルをもじってるんです。担当さんは気が付いてくれたんですけど。マニアって言われると困っちゃうけど、映画は好きなんで、キャラクターも映画の登場人物をイメージしたりしてます。『戦国ダンジョン』の主人公は、俳優のアーネスト・ボーグナイン(映画『ワイルドバンチ』の主演俳優)だったんで、こちもさんのイラストを拝見してテンション上がりました。
鵜狩 イラストの初見って、テンション上がりますよね。『ボーズ』もNAJI柳田さんがいろんな設定をうまく拾ってくれてあんなカッコいいイラストに。
アイドルの中に演歌歌手が一人
朽木 鵜飼さんの作品は、とにかく多彩ですよね。
鵜狩 多彩、ですか。初めてだな。それを言われたのは。自分は結末から書きたいって考えるタイプなんです。例えば『ボーズ』は、異世界ものがはやりだから書いてみようってところから始まって、とにかく魔皇をブン殴って終わらせたかった。そのためにどうすればいいかを考えて、ただの学生が主人公よりもボーズのほうが面白いだろうと付け足していった作品です。
朽木 自分の場合は簡単なんです。どの作品もそうですが、『戦国ダンジョン』はラブコメのつもりで書いてます。
鵜狩 冷血でハートフルなラブコメディですねって、これでラブコメはいくらなんでもないですよ(笑)
朽木 いやいや本当にそうなんです。だから、最初に自分の本が出ていろんな作品と並んだときにおかしいなと思ったんですよ。こんな地味なラブコメがここに在っていいのか?って。居場所がないとでもいうのか、妙なモヤモヤが実は今でもあります。こんなくどい作品、いいのかなと。ヒロインは貧乳だし。胸を盛っておくべきだったと自分を呪いました。
鵜狩 それは自分も同じですよ。アイドルの祭典に一人だけ演歌歌手が混ざってるような違和感。
朽木 くどさのいい例が、2巻のリザードマンのシーン。気がついたら挨拶の場面だけで5000字くらい書いちゃってまして。なので、「リザードマンは礼儀作法にやたらこだわる」というオチをつけて整合性を持たせたんですが、こんな書き方ないよなあって思い削りました。
鵜飼 あのシーン、「そちらの作法には不慣れなので無礼を許せ」ってやりとりがありますよね。そこにたどり着くまでのイメージがたくさんあるということですか。
朽木 「寿限無」じゃないですが、どんどん止まらずに書いていました。
鵜狩 繰り返しの話ですが、自分は基本的に、書きたい話の結末から考えていき、キャラをこう配置してこんな物語にしていこうと思うんですが、朽木さんはどんな書き方をしてるんですか。
朽木 基本的に私は3行でかけるあらすじをベースにします。この3行のあらすじをどんどん膨らませていく感じです。
鵜狩 ハコ書きはしないんですか? ずっと先まで計画して話を作られているのかと思っていました。
朽木 その3行あらすじが決まっちゃえば、あとはパパッと最後までです。鵜狩さんは?
鵜狩 結末ありきで書いてるので、最後までどう破綻なく行けるかを確認しながら書いている感じです。『ボーズ』の2巻は実は完全描き下ろしなんですけど、担当さんにプロットを提出した時に、ずいぶん細かいですねって言われて、他の人はそんなに書かないのかなって思いました。だから書き始めた時の構想と違う小説になるってことは無いんですよね。そういう話も聞くのですが。
朽木 自分は逆に、その3行をひねり出さないといけない。そこに全部のイメージが詰まっています。この3行さえあれば10万字に広げられますよ。結局は、自分が読んでて楽しい話しか書いてませんからね。時々感心します。自分、よくこの時こんなの書けたなあって。
鵜狩 わかります。読み返すとこれすごいな自分ってなりますよね。その時だけやたらと文章上手いんですよ。不思議なことに。勢いだけで書くと大体次の日消します。妙に浮いてたりするんですよ、これが。
鵜飼 本日は貴重なお話がきけて楽しかったです。
朽木 こちらこそ、ありがとうございました。
鵜飼 『ボーズ・ミーツ・ガール』なんて、こんな頓智気極まりないタイトルの作品で、100点は取れないだろうけれども、好きな人にはハマってくれればいいなと思って書いている作品なので、これは本棚に置いておきたいな、と思っていただける一冊になれたら幸いです。朽木さんの2巻、読者さんより先に読んじゃいましたけど、発売が楽しみですね。
朽木 今回は、女の子増量でお届けしておりますので。人外娘に女騎士、美人四姉妹など、盛りだくさんです。ごゆるりとお楽しみください。
『城主と蜘蛛娘の戦国ダンジョン』

 朽木外記・著/こちも・装画

 講談社レジェンドノベルス

 2020年8月5日より最新第2巻発売中!

『ボーズ・ミーツ・ガール 住職は異世界で破戒する』

 鵜狩三善・著/NAJI柳田・装画

 講談社レジェンドノベルス

 1・2巻発売中!

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