ミステリがなければ生きていけない 堂場瞬一×林家正蔵で語り尽くす!①

文字数 1,778文字

今年作家デビュー20周年を迎え、数多くの人気シリーズを抱える堂場瞬一さん。その中でも「警視庁犯罪被害者支援課」は、捜査部門ではないセクションに光を当てた異色シリーズと言える。シリーズ・シーズン1の終章を飾る『チェンジ』と、シーズン2の幕開けとなる『聖刻』刊行を記念し、堂場ファンを自任する落語家の林家正蔵さんと新作の読みどころについて、そして愛する海外ミステリについて、存分に語り合っていただいた。

(聞き手・構成)宮田文久

(写真)森 清

ミステリ愛好家、初顔合わせ


正蔵 これまで長らく堂場さんの作品を楽しませていただいてきましたが、今回の新刊2作、『チェンジ 警視庁犯罪被害者支援課8』と『聖刻』も、大変面白く拝読しました。と、その前に、御礼を申し上げるのですけれども、5月に刊行された『ピットフォール』の解説にご指名いただき、ありがとうございました。

堂場 こちらこそ、ありがとうございました。実は以前から、正蔵師匠が海外ミステリを大変お好きだということは存じておりまして。私も海外ミステリを好む作家として自分の小説を手がけているところがありますから、何かお願いできないか、虎視眈々とチャンスを狙っていたんです。そんな折、昨年1月に邦訳が出たロバート・ベイリー『黒と白のはざま』で解説を書かれていたじゃないですか。あれ、私も書きたかったんです(笑)。


正蔵 そうだったんですか(笑)。あれは前作の『ザ・プロフェッサー』があまりに面白くて、編集部に「続編もぜひ出してください!」と思わず電話してしまったご縁がありまして。

堂場 そうだったんですね(笑)。私としては「やられた!」と思いつつ、だったら今度は自分の作品のときに何か書いていただこうと心に留めているうち、まさに師匠がお好きだろうという小説が世に出る運びになり、お声がけした次第でした。


正蔵 いやあ、本当に嬉しかったので、『ピットフォール』についてはまた後でお話しすることもあると思います。さて、「支援課」シリーズの最新作『チェンジ』と、独立した長編である『聖刻』、今回の2作は実は関係性の強いものだということが読んでいくうちにわかっていくわけですが、堂場さんのなかではそれぞれ、どのような位置づけの作品なのでしょうか。

堂場 『チェンジ』は、シリーズの主人公・村野秋生が支援を行うことになった通り魔事件の被害者が、実は八年前の強盗殺人事件で容疑者として名前が挙がった人物だとわかり、事態が混迷を深めていく──という作品です。今年は私の作家デビュー20周年の企画として3大警察シリーズのコラボというものを行っておりまして、支援課シリーズ最新作の『チェンジ』に「警視庁追跡捜査係」シリーズの刑事コンビ・沖田大輝と西川大和が出てくるのも、お読みいただいた通りです。そして沖田が心配するように、支援課の村野は、本人は気づかずとも、とても仕事に疲れているんですね。


正蔵 犯罪被害者支援の仕事がつらいということは、シリーズを読んできて痛感します。堂場さんの作品にある、アメリカのハードボイルド小説の精神とでも言えばいいのか、「自分ではその人のことを救えないかもしれないけれども、人の痛みをわかりたい、わかっていなければいけない」という優しい心が、「支援課」シリーズの肝ですよね。


堂場 かといって、本当にわかるわけではない。私もこのシリーズを通じて、人の痛みはわかるわけがないと、繰り返し書いています。要するに、他人の痛みはわからないということを前提にしながら、それでも何とかしてあげたい、と願って動く仕事なんですね。単なる感情移入でもない。あなたのことはわからないけれど助けたい、という……。実際に現在の警視庁のなかには同様の部署があり、とても重要な仕事だと思いますが、考えようによっては“地獄”かもしれない。


正蔵 たしかに、言われてみれば地獄かもしれませんね。

『ピットフォール』(堂場瞬一・著、講談社文庫)


1959年、ニューヨーク。

元刑事で探偵のジョーは、役者志望の女性の行方を捜してほしいと依頼を受ける。

その矢先、衝撃的な知らせが。

黒人の探偵仲間ウィリーが殺されたというのだ。

残忍な手口は、女性ばかりを狙う連続殺人事件と同じだった――。


ハードボイルドの美学が詰まった傑作!〈文庫オリジナル〉


解説 林家正蔵(落語家)

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