『頭痛肩こり樋口一葉』 一葉役・貫地谷しほりさんインタビュー

文字数 1,995文字

樋口一葉の直筆原稿

2022年8月5日(金)から、紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて、こまつ座第百四十三回公演、井上ひさし作の『頭痛肩こり樋口一葉』が上演されます。

そこで樋口一葉を演じられる女優の貫地谷しほりさんに意気込みをうかがいました!


聞き手:神田桂一 撮影:村田克己

「(樋口一葉の肉筆を見て)しゃべるよりも書くほうが流暢だったんじゃないかと思わせるような流麗な筆跡です。死ぬ前の十四ヵ月で数々の代表作を一気に書き上げた一葉を演じることは大変光栄なことですけど、凄く恐ろしい気持ちもあります。でも、これまで数々の女優さんが演じられた歴史のあるお芝居で自分も演じることができるのは、今からとても楽しみです」


 二〇二二年八月五日(金)から、紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAで、こまつ座第百四十三回公演、井上ひさし作の『頭痛肩こり樋口一葉』が上演されます。

 今作は、二十四歳の若さでこの世を去った夭折の天才作家、樋口一葉の十九歳から死の二年後までを描いた評伝劇。また、約四十年前に、井上ひさしが座付き作家を務めたこまつ座旗揚げ公演のために書き下ろされた記念すべき戯曲であり、時代時代ごとに、魅力的な女優が樋口一葉を演じてきました。その第九代目の樋口一葉を演じるのが、冒頭で意気込みを語っている女優の貫地谷しほりさん。あらすじを簡単に説明すると、


 激動の明治に生を受け、父や兄に先立たれ、若くして樋口家の戸主となった一葉(本名・夏子)。

 女性でありながら母・多喜と妹・邦子との暮らしを守るために小説を書いて生計をたてることを決意。母の期待や妹の優しさに応えようと孤軍奮闘の日々を送り、恋をする自由も将来を夢みる余地もない。

 そして、明治二十四年の盆の夕刻。

「ぼんぼん盆の十六日に地獄の亡者が出てござる……」

 少女たちの歌う盆歌に導かれて、苦悩やしがらみと向き合いながら筆を執る彼女の前に現れたのは一人の幽霊。「花螢」と名乗り、歌い踊る。

 好景気で浮かれる上層と下層の間で、美しい文体で時代とともに生き抜いたあらゆる階級の女性達の頂上から底までを見た一葉と花螢のユーモア溢れる交流を軸にした、ある時代を生きた女性六人の物語。


 樋口一葉と育った場所が近いという貫地谷さんは、小さい頃から当たり前のように、一葉が自分のなかにあったといいます。しかし、作品についてはとても難解で、解説を読んでやっとわかったとも。


「私は東京の下町で育ちまして、一葉記念館の横にある一葉記念公園で遊んでいた小学生だったんです。私にとっては樋口一葉は小さい頃から身近な存在で、その人を演じるというのは、すごい縁を感じます。今まで当たり前だったからこそ知らなかった一葉を発見してみなさんにお伝えできたらなと思います」


 また、何かあったときに家族を第一に考えてしまうというところが、樋口一葉と同じで親近感が湧くと言います。下町気質なのかもとも。

 作家の井上ひさしさんについては、とてもやりがいのある戯曲を書く方だと、絶賛しています。


「今まで三作品の戯曲を演じさせていただいたんですけど、共通しているのは、ユーモアがあってコメディの要素もあって、笑いが起こるんだけど、心の機微や情感が深く描写されていて、考えさせられるところだと思います。今回の作品で言えば、会話劇が抜群に面白いんだけど、最後は泣いてしまうように作られているのが最大の魅力でしょうか。台本を読むたびに発見があるので、飽きないです」


 テレビや映画よりも、舞台は演技の稽古に時間をかけられるので、深掘りできるという貫地谷さん。この舞台を通じて伝えたいことについては、


「樋口一葉というと、貧困という言葉がついてまわる人物だと思うんですけど、そんななかで、たくましく、自分の才能を開花させながら、最後は病気で亡くなってしまう。今の時代にも貧困という問題はなくなっていませんし、より様々な困難が表出してきているとも言えます。この舞台を観て、今生きている色んな人たちに、こういう生き方、こういう心の動き方があるんだよということを知って生き方の参考にしてほしい」


 ちょうどこの公演が開幕するのはお盆の直前。幽霊との交流を描くこの舞台ですが、貫地谷さんご自身は霊感はないといいます。でも、もしかしたら、井上ひさしさんが、こっそり天国から降りてきて観ているかもしれませんよ。井上ひさしさん、貫地谷さんの演技を観て何て言うでしょうか。そんなことを想像するのも楽しみです。

本インタビューは、「小説現代2022年8月号」に掲載されたものになります。

こまつ座第百四十三回公演

井上ひさし作『頭痛肩こり樋口一葉』


公演期間:8月5日(金)~年8月28日(日)

場所:紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA

読者割引あり こまつ座03‐3862‐5941にて要事前予約

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