『パンダより恋が苦手な私たち』刊行記念特別エッセイ!

文字数 2,359文字

その恋、叶えたいなら「野生」に学べ!


イケメン変人動物学者とへっぽこ編集者コンビが、動物たちの求愛行動をヒントに、人間の恋の悩みをスパッと解決!? 笑って泣ける傑作ラブコメディー『パンダより恋が苦手な私たち』の刊行を記念して、著者の瀬那和章さんのエッセイを特別公開――のはずが、あれ? 動物トリビア!?

ぜひお楽しみください!

 みなさんは、パンダの尻尾が何色かわかりますか?

 白か黒の2択ですが、意外とどちらか確信を持てない人が多いようです。答えは、このエッセイの最後にあります。


 パンダの尻尾のように、よく知ってると思っていたものでも、意外と大事な部分が欠けていることは、人生においてもよくあります。

 仕事でも人間関係でも、そして、恋でも。


 今回の物語には、三つのテーマがあります。


 『恋愛』×『仕事』×『動物の求愛行動』


 こうして並べると、全くベクトルの違うものを合わせたようですが、どれも『大切なのに見落としていること』という共通点があります。


 『動物の求愛行動』とは、その名の通り、動物たちがどんな方法で異性にアピールし、どんな基準で異性を選ぶのかです。物語の中には、たくさんの動物の求愛行動が登場します。


 これは、私がデビュー前から興味があり、いつか物語にしたいと考えていたテーマでした。


 きっかけを遡ると、おそらくは小学校の時、通学路の途中にあった家の庭に、とても仲睦まじいワンちゃんのカップルがいたことです。二匹はとても人懐っこくて、生垣の隙間から覗くといつも可愛く尻尾を振ってくれました。けれどある日、いつものように覗くと、メスにオスが覆いかぶさろうとしていました。そして、私の視線に気づいたオスは、いつも愛想がいいのが嘘のように、激しく吠えかかってきました。当時の私にはなにがなんだかわからずショックでした。大切な瞬間を邪魔したのだと理解したのは、高学年になってからです。

 それ以来、私にはずっと、動物園にいっても図鑑を読んでも、頭のどこかで求愛行動について考えていました。多くの場合、それは図鑑などには載っていないのです。


 この本を書くにあたり、たくさんの本を読み、取材を行いました。けれども、物語の中に出てくるアデリーペンギンが特別な物を使ってプロポーズをすることや、カメレオンが特別な能力を使ってプロポーズの返事をすることなどのエピソードの多くは、小学生や中学生だったころにネットやニッチな学術書で調べたものです。


 動物たちの求愛行動は時に美しく、時に残酷で――それはどこか、私たちの仕事や人間関係に通じるものがある。そして、人間の恋愛には足りないものも教えてくれる気がしていたのです。


 最近では、スマホが普及し誰もが他者と簡単に繋がれるようになったにもかかわらず、恋人を作ることに対するハードルがあがっているように感じます。理由はたくさん考えられます。社会情勢のせいでも格差や貧困のせいでもあるでしょう。その中の一つに、情報が爆発的に増えたこともあると思います。たくさんの人とたくさんの情報を受信発信する日々の中で、大切なたった一人を選ぶことが難しくなったりしていないでしょうか?


 パンダの尻尾が白か黒かなんて、このエッセイを最後まで読むより検索した方が速い。その効率の良さが恋愛と相性が悪いのかもしれません。恋は、効率の悪いものですから。


 今の時代の私たちに必要なのは、恋心なんて曖昧な物に頼らずに、最高の相手を見つける能力なのかもしれません。

 そして、最高の相手を見極めるという一点については、動物たちの求愛行動から学べることがたくさんあります。


 この小説はエンターテイメント小説です。笑って泣いて心がほっとする、こんな時代だからこそなにも考えずに読める、そんな物語を目指しています。けれど、物語の中で取り上げた動物たちの求愛行動には、きっと心を動かされる何かがあるはずです。


 さて、最初の質問の答えですが。

 パンダの尻尾の色は白色です。お尻だけみると真っ白なのです。

 では、パンダは、どのように求愛行動を行うかは知っているでしょうか?

 とても愛らしい彼らのプロポーズを、ぜひ本書を手にとって確かめてみてください。




瀬那和章

今泉忠明氏(動物学者 「ざんねんないきもの事典シリーズ(高橋書店)」監修)、推薦!


ヒトよ、何を迷っているんだ?

サルもパンダもパートナー探しは必死、それこそ種の存続をかけた一大イベント。最も進化した動物の「ヒト」だって、もっと本能に忠実に、もっと自分に素直にしたっていいんだよ。

あらすじ

中堅出版社「月の葉書房」の『リクラ』編集部で働く柴田一葉。夢もなければ恋も仕事も超低空飛行な毎日を過ごす中、憧れのモデル・灰沢アリアの恋愛相談コラムを立ち上げるチャンスが舞い込んできた。期待に胸を膨らませる一葉だったが、女王様気質のアリアの言いなりで、自分でコラムを執筆することに……。頭を抱えた一葉は「恋愛」を研究しているという准教授・椎堂司の噂を聞き付け助けを求めるが、椎堂は「動物」の恋愛を専門とするとんでもない変人だった! 「それでは――野生の恋について、話をしようか」恋に仕事に八方ふさがり、一葉の運命を変える講義が今、始まる!

瀬那和章(せな・かずあき)

兵庫県生まれ。2007年に第14回電撃小説大賞銀賞を受賞し、『under 異界ノスタルジア』でデビュー。繊細で瑞々しい文章、魅力的な人物造形、爽快な読後感で大評判の注目作家。他の著作に『好きと嫌いのあいだにシャンプーを置く』『雪には雪のなりたい白さがある』『フルーツパーラーにはない果物』『今日も君は、約束の旅に出る』『わたしたち、何者にもなれなかった』『父親を名乗るおっさん2人と私が暮らした3ヶ月について』などがある。

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