失敗した国 ~しくじり国家は夢の跡~

文字数 2,420文字

サクセス・ストーリーは世に多くあふれています。


成功した起業家、会社。俳優にアスリート、インフルエンサー。

彼らが富や名声をいかにして手に入れたか、そのヒントを皆知りたがっています。


しかし実際の私たちの生活や取り巻く世界は失敗だらけです。


成功よりもはるかに多い失敗の物語にも、もっと関心を寄せてもいいのではないでしょうか。

むしろ失敗にこそ、物事の本質があると思います。失敗談を知りたければ歴史を振り返るとよいでしょう。


特に世界史はスケールの大きな失敗談にあふれています。

20世紀最大の失敗国家・ソ連
20世紀最大の失敗と言えば、第二次世界大戦の勃発であることに間違いはありませんが、双璧を成す失敗が「社会主義国家」です。


キューバや北朝鮮などまだいくつか社会主義を標榜する国は残っています。しかし1991年にソ連(ソビエト社会主義共和国連邦)が崩壊した時点で、共産主義を目指す壮大な社会実験は終わったと言っていいと思います。


ソ連はマルクスの理論に裏打ちされた科学的社会主義の理論に基づいた国家でした。


資本主義が高度に発展すると資本家と労働者の格差は拡大し、一部の資本家が権力や富を牛耳るようになる。そのため労働者が革命によって資本主義社会を打倒し、農地や企業などを公有化したプロレタリア独裁の国を作り上げる(社会主義)。


その後、社会主義経済が発展し、資本家や反革命が完全に粉砕された後に、プロレタリア独裁は必要なくなり、能力に応じた働きと報酬を得る社会(共産主義)が実現する、という筋書きです。


ソ連はなぜ崩壊したのか。


それだけで分厚い書籍一冊になるテーマではありますが、いくつかポイントを挙げると、モスクワにすべて干渉され地方に自由がなかったこと、アメリカを始めとする西側諸国との経済競争に敗れたこと、社会主義の求心力が失われ世界の人々のソ連体制への支持が減っていったこと、などがあります。

独立を急ぎすぎた国・コンゴ民主共和国

1960年は「アフリカの年」と言われ、ヨーロッパの植民地となっていたアフリカ諸国が次々に独立を果たしました。


希望にあふれた時代であったことは確かなのですが、あまりにも準備が足りず見切り発車で独立をしたため、紛争や内乱が起こった国は数多くあります。


その代表的な例がコンゴ民主共和国(DRコンゴ)です。


現在のコンゴ民主共和国はかつてベルギーの植民地で、ゴムや象牙、木材、銅、ダイヤモンドなどの一次産品を盛んに産出しました。1950年代には第二次世界大戦で荒廃した本国ベルギーの戦後復興を支える経済発展をするほど豊かな地域でした。


ベルギーはコンゴの独立を長年認めない立場でしたが、イギリスやフランスの植民地が次々に独立を果たし、国際世論もこれを後押しする流れができると、国際的な圧力に抗しきれなくなっていきました。さらにコンゴ内でもアバコ党のカサブブ、コンゴ国民運動のルムンバ、コナカ党のチョンベなどの政治指導者が現れ、盛んに独立運動を展開しました。


1959年1月にベルギー政府は方針を転換しコンゴ独立の検討をスタートし、わずか5ヵ月後に独立することが決定されました。


5ヵ月で新国家を作ること自体が無謀だし、さらに厄介なことにコンゴは民族問題という爆弾を抱えていました。主要な民族だけでもバコンゴ人、バルンダ人、バルバ人、バモンゴ人などがいて、少数民族ともなれば数十にもなり、それぞれが自分たちの言いたいことだけを主張し、新国家への協力など微塵もない状態でした。


1960年6月30日、コンゴ共和国(後にコンゴ民主共和国に改名)が発足することになったのですが、7月11日に突如としてコナカ党のチョンベがカタンガ州の独立とカタンガ共和国の独立を宣言しました。カタンガ州は銅をはじめとした天然資源が豊富な地域でコンゴの国民総生産への貢献も高く、チョンベはカタンガが産する富を自分たちで独占することを目論んでいました。


さらに8月にはルバ人の住むカサイ州南部がダイヤモンド権益の独占を目論んで「南カサイ鉱山国」の独立を宣言。コンゴは独立直後に分裂の危機に見舞われました。


この「コンゴ動乱」は1963年1月18日にカタンガが消滅するまで続きました。


その後もコンゴ民主共和国は安定せず、1963年にはルムンバ派残党が起こしたシンバの反乱、1977年にはカタンガ残党が起こしたシャバ戦争、1996年には隣国ルワンダの内戦と連動して大規模な内乱に発展(第一次・第二次コンゴ紛争)。2002年に停戦するまでに270万~540万もの命が失われました。

これは消滅国家の大事典!

こういった「失敗した国家」を数多く紹介している書籍が、社会評論社より2012年に刊行された『消滅した国々 第二次世界大戦以降崩壊した183カ国』(吉田一郎/著)です。


タイトルにある通り、第二次世界大戦以降で消滅した国を集めた本で、700ページを超える大作。辞書並みの分厚さ


ソ連やユーゴスラビアのように国家破綻した国、南ベトナムのように戦争に敗れて消滅した国をはじめ、聞いたことないような傀儡国、首長国、国家連合、保護国、果ては勝手に国を名乗った勢力など取り扱っています。


これらの「失敗国家」の物語を読んでいくと、国を作ろうという彼らの真摯な想いに感じ入りつつも、どこか間の抜けた失敗談に悲哀を感じます。


つくづく、国家というものも結局は「人の営み」でしかないのだと思い知ります。

尾登雄平(おと・ゆうへい)

1984年福岡県生まれ。世界史ブロガー、ライター。

世界史専門ブログ「歴ログ」にて、古代から現代までのあらゆるジャンルと国のおもしろい歴史を収集。

著書『あなたの教養レベルを上げる驚きの世界史』(KADOKAWA)

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