『青く滲んだ月の行方』企画始動前夜のことば(青羽悠)
文字数 1,556文字

小説家・青羽悠とシンガー・shunによるデュオ「青く滲んだ月の行方」(=アオニジ)。
これまで5話にわたり、現代を生きる10代~20代を主人公とした小説と楽曲をリリースしてきました。
7月1日(金)には、全話をまとめた、待望の書籍『青く滲んだ月の行方』が刊行されます。
それを記念して、このデュオの歌詞と小説の執筆を担当した、青羽悠との「企画始動前夜のことば」を公開いたします!
小説家が、歌詞と小説の両方を担当する前代未聞のこの企画。
どのような思いで、執筆に臨んだのでしょうかーー?
形だけを追い求め、形だけを摂取する時代。エモいの一言で感情を片付け、それ
以上深く考えるのを避ける時代。綺麗にパッケージされ過ぎた時代。何かを叫ぶよ
う求める時代。文化的な大量消費の時代。無限の可能性によって路頭に迷う時代。
多様性を表層で語り、その価値観自体が画一的だと気付かない時代。
いつだって自分の生きる時代を見下す者がいる。きっと僕もその一人。
このプロジェクトを持ちかけられたとき、時代について語るよう要求されている
のだと思った。難題だった。いつも何かが納得いかない。皆、的外れなことを言っ
ている気がする。
時代は僕らが作るものだ。
結局のところ、僕らは自分のことを何も分かっていないんじゃないか。
だからこの場を借りて、自分の本当の姿を探そうと決めた。
今回、僕は歌詞を作って音楽の方向を決めながら小説を書く。音楽は言葉になら ないものを切実に表現するものであって欲しい。偽りの陳腐な感情はいらない。上手く説明できなくとも誰の心にもある引っかかりや衝動、感情になる前の色合いを浮き彫りにして、寄り添って欲しい。それは明白な意味を持たない音楽だからこそ できることだ。
そして音楽の力を借りながら、小説では言葉を尽くして僕らを整理したい。どうしてか泣きたくなる。無性に腹が立つ。何だか疲れている。不思議と滾っている。心の姿をありのまま映すのが音楽なら、心の絡まりをほどいて解き明かすのが小説だと思う。地味に、愚直に、やるしかない。解き明かして何になる? 分からないけど、僕は知りたい。
渇望と失望、暖かさと寂しさ、無力さと強さ。未整理なものたちに僕はもっと迫りたい。真に心へ響き、伝わり、ともすれば抉るようなものを作りたい。そのためにはどんなメッセージを生むべきだろう。どんな歌詞と小説を書くべきだろう。音楽と小説をどう使えばいいのだろう。ここから何が見えてくるだろう。
模索の続く全五曲・五章になると思う。
2000年愛知県生まれ。
2016年「星に願いを、そして手を。」で第29回小説すばる新人賞を史上最年少で受賞しデビュー。
最新刊は、『凪に溺れる』(PHP研究所)。
<書誌情報>『青く滲んだ月の行方』
「ここからどうすればいい?」僕がこう思っている時、きみは。
何かを「好き」と言える人を眩しく感じる隼人、
「女の子との遊びはクレーンゲームみたいなもの」と言ってみせる大地、
高校時代までは、周囲から認められて自身を持っていた和弘、
仲間が何に苦しんでいるのか分からず、寄り添えない自分に絶望するBーー
「なりたい自分」に向かってひとり藻搔く、"大人未満"の4人の物語。
◆発売日:2022年6月29日
◆定価:1540円(税込)
◆四六判 288ページ
◆ISBN:978-4-06-527870-3
◆講談社 第五事業局 文芸第三出版部
★小説の世界にリンクした各話の楽曲も配信中。MVはこちら。
