『茜さす日に噓を隠して』『青く滲んだ月の行方』書評(瀧井朝世)

文字数 2,108文字

小説家・真下みこととシンガー・みさきによるデュオ「茜さす日に嘘を隠して」(=アカウソ)、

小説家・青羽悠とシンガー・shunによるデュオ「青く滲んだ月の行方」(=アオニジ)。

これまで5話にわたり、現代を生きる10代~20代を主人公とした小説と楽曲をリリースしてきました。

7月1日(金)には、全話をまとめた、待望の共作小説『茜さす日に噓を隠して』『青く滲んだ月の行方』が刊行されます。

刊行記念として、瀧井朝世さん(ライター)の書評を公開いたします!

読書というものの“一回性”をしみじみ実感した。それが、青羽悠『青く滲んだ月の行方』と、真下みこと『茜さす日に噓を隠して』を続けて読んだ感想である。


これら2作の連作短篇集は共作の形で進められた青春群像劇で、登場人物も何人かは共通している。つまり、両作読むことでキャラクターがより深みを増してくるのだ。『青く滲んだ~』(以下「青」)は男性たち、『茜さす~』(以下「茜」)は女性たちが視点人物だ。どちらから読んでも問題ない。


「青」の主要人物は、就職活動を終えたが空虚な気持ちを抱えている隼人、そんな隼人に懐いている軽音サークルの後輩で、マッチングアプリで出会った女の子たちと遊んでいる大地、大地の中学時代からの友人である俊也、彼らと同じ大学に通い、キャンパスの側の定食屋で働く綾香と親しくなった和弘たち。


「茜」の主要人物は、隼人たちと同じサークルに所属し、就職活動に苦戦している皐月、皐月の妹で、覆面歌手としても活動している大学生の文、大地がマッチングアプリで近づいた愛衣、愛衣の友人で密かに意外な行動をとっている智子たち。他にも、さまざまな若者が登場し、意外な人同士が意外なところで繫がっていたりする。その相関図を読者だけが把握できる、というのもこうした群像劇を読む醍醐味だ。


浮かび上がってくるのは、一人一人の非常に繊細な感情。「寂しい」「不安だ」といった一言では説明できない、複雑で曖昧でモヤモヤした心許なさを、この2人の作家は非常に丁寧に掬いあげている。また、2作連続して読むことで、登場人物たちの一見謎めいた言動の背景にあるものや、恋愛がうまくいった/いかなかった理由などが、よりはっきりと見えてくる。


ちなみに自分は「青」を先に読んだが、その後で「茜」を手にした時、「青」に登場した女性たちの印象が大きく変化した。あまりよい印象を持たなかった人物のことも、気づけば「うんうん、分かる」「ああ、この人には幸せになってほしいな」などと、すっかり心を寄り添わせていた。そして、自分もまた、視点人物の目を通して、表面的にしか相手を見ていなかったこと、どんな人間にもやはり、他人にはなかなか理解されない、その人だけの真実があるのだと、改めて気づかされたのだ。


もしも自分が「茜」→「青」の順番に読んでいたら、男性キャラクターに対して同じような印象の変化や発見があったかもしれない。冒頭で触れた読書というものの“一回性”とは、そのことである。だがこの先、時間をおいて記憶を薄めてから、逆の順番で読み返してみるのも、また面白いかもしれない。

さて、あなたは、どちらを先に読んでみる?


瀧井朝世(ライター)

<書誌情報>

『茜さす日に噓を隠して』


「誰かに言えるわけない」私がこう思っている時、あなたは。

就活面接でうまく話せず、彼氏とも疎遠な日々に思いつめる皐月、

寂しさを埋めるため、急に人と会いたくなる衝動を抑えきれない愛衣、

自分の経験を切り売りして曲を作り、シンガーとして活動する文、

大切な友達に言えない秘密を抱えながら過ごす智子ーー

誰かに理解してほしい葛藤をひとりで抱える、"大人未満"の4人の物語。


真下みこと(ました・みこと)

1997年埼玉県生まれ。

2019年「#柚莉愛とかくれんぼ」で第61回メフィスト賞を受賞し、2020年デビュー。

最新刊は、「あさひは失敗しない」(講談社)。


◆発売日:2022年7月1日

◆定価:1540円(税込)

◆四六変判 264ページ

◆ISBN:978-4-06-524800-3

◆講談社第五事業局 文芸第三出版部


★小説の世界にリンクした各話の楽曲も配信中。MVはこちら

<書誌情報>

『青く滲んだ月の行方』


「ここからどうすればいい?」僕がこう思っている時、きみは。

何かを「好き」と言える人を眩しく感じる隼人、

「女の子との遊びはクレーンゲームみたいなもの」と言ってみせる大地、

高校時代までは、周囲から認められて自身を持っていた和弘、

仲間が何に苦しんでいるのか分からず、寄り添えない自分に絶望するBーー

「なりたい自分」に向かってひとり藻搔く、"大人未満"の4人の物語。


青羽悠(あおば・ゆう)

2000年愛知県生まれ。

2016年「星に願いを、そして手を。」で第29回小説すばる新人賞を史上最年少で受賞しデビュー。

最新刊は、『凪に溺れる』(PHP研究所)。


◆発売日:2022年6月29日

◆定価:1540円(税込)

◆四六判 288ページ

◆ISBN:978-4-06-527870-3

◆講談社 第五事業局 文芸第三出版部

 

★小説の世界にリンクした各話の楽曲も配信中。MVはこちら

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