コント後藤

文字数 1,945文字

コント後藤

僕たち四千頭身のネタは漫才が多いのですが、たまにコントもしたりしています。

『エンタの神様』では毎回必ずコントをやらせてもらっていますし、キングオブコントの予選にも実は出たことがあります。


 実は事務所に所属して最初にライブでやらせていただいたネタもコントでした。

 それは都築くんがくるみ割り人形の役で目の前に現れたクルミを拳で叩き割るというコントでした。

 初ライブにしてはそこそこいい反応をいただいたような気がします。お客さんは2人でしたが。


 その年キングオブコントに出ようということで、1回戦用の2分のコントを作って出てみました。

 その時に作ったネタは8階建てのマンションのエレベーターの中で、14階に行きたがる人が乗ってくるというコントでした。

 みなさんお察しの通りです。

 撃沈しました。人間ってこんなにスベるかねってくらいスベりました。


 それからはずっと漫才をやって、また翌年のキングオブコントの時期にもう一回挑戦してみようということで、再び2分のコントを作って出場しました。

 なかなかいい反応をいただいて2回戦に進むことができました。決勝に出て優勝できなければ意味がないことは分かっているのですが、その時通過する喜びもないと言っては噓になります。


 普通に喜んで意気込んで2回戦に挑みます。2回戦も2分のネタだったので1回戦同様そのコントをやりました。

 ここの反応もよく、準々決勝に進むことができました。いけるんじゃないかと思ってしまいました。


 さぁ次も頑張るぞと意気込み、準々決勝の詳細を見ると、ネタ時間5分と書いてありました。

 これはまいりました。

 1回戦2回戦でやったゴルフのネタはせいぜい延ばせても3分尺がちょうどいい短尺のコントだったので、新しいのを作るしかないかと思いましたが、準々決勝の日程もわりとすぐに迫っていたので、ライブでかけれる時間もなく、どうしようと頭を抱えたときに思い出しました。ライブにかけたことあるコントで5分のコント。


 あれだ。

 都築がくるみ割り人形になって出てきたクルミを拳で叩き潰すコントがちょうど5分位だったのです。

 僕はそのコントがこの時を待っていたように感じました。

 都築と石橋に言いました。準々決勝はくるみ割り人形のネタでどうだろうか。

 2人も、「たしかに。あれは最初にライブでやったネタで思い出もあるしな」。ということで、満場一致でくるみ割り人形で行くことになりました。


 当日の朝にネタ合わせを終えて、これはいけるぞと気合を入れ、いざ本番、僕が板付きで始まります。

 そこに現れる石橋、「くるみ割り人形を買ってきたから今から持ってくるね」。

 一度ハケる石橋。そして石橋に手を引かれて出てくるのは人形のように感情を無くした都築。

 のはずだったのですが、出てきたのは手も足もガクブルの都築でした。そういうコントかってくらい震えていました。

 いや人間じゃん。という僕のツッコミがその震えに妙な意味を与えます。

 都築は緊張に弱い。しかしここまでとは。


 まぁ大丈夫だ。クルミを都築の前に置いて都築がそれを叩き割った衝撃で、きっとお客さんも笑うだろう、と期待を込めて都築の前にクルミを置きました。

 震えた都築の拳は、クルミをよけて机を思いっきりぶっ叩きました。

 お笑いライブかってくらい静寂に包まれる会場。その静寂のまま5分がすぎました。

 しかしガクブルしなかったらウケてたかと言われるとそんなこともありません。シンプルにネタもスベっていましたが、くるみ割り人形くんが震えてくれたおかげで、僕は精一杯都築のせいにできてラッキーだなと思いました。


 それを最後にキングオブコントには出ていません。

 誠心誠意コントに打ち込みいいコントができたら、出場させていただきたいと思います。


後藤拓実(ごとう・たくみ)

97年岩手県生まれ。16年、都築拓紀、石橋遼大とともにお笑いトリオ「四千頭身」を結成。おもにツッコミとネタ作りを担当している。

YouTubeに四千頭身公式チャンネル「YonTube」を開設し動画を配信中。

FM-FUJIにてレギュラー番組「四千ミルク」を放送中。

『これこそが後藤』(著:四千頭身・後藤拓実)

人気お笑いトリオ・四千頭身の後藤拓実による初エッセイ!

色んな後藤を召し上がれ!


楽しかった中学時代、しんどかった高校時代、楽しくやりたかった草野球がちっとも楽しくなかった事、新幹線のイスを倒せない事、そして四千頭身の一員である事――。

後藤拓実の24年間の軌跡は、日常を楽しくする「笑い」の魔法に溢れている!


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