書下ろしエッセイ「私が占星術を書く理由(わけ)」/望月麻衣
文字数 2,103文字

私が占星術を書く理由(わけ)
ちょうど今から十年前、私の心は地の底に落ちていました。
時代は『ケータイ小説』の隆盛期で、私も小説投稿サイトに登録し、作家としてデビューを志していたのですが、投稿作品はことごとく落選。
これが、一次選考も通らなかったらさっさと諦めもついたのですが、いつも最終選考まで残り、最後に落ちるので、なかなか引き下がれない状態でした。
同じ頃に投稿を始めた仲間たちの小説は次々に書籍化され、私だけが取り残された状態。
仲間は「あと一歩だよ」「きっと次は麻衣さんだよ」と慰めてくれるのですが、それがありがたくもつらかったわけです。
何度目かの落選の時、匿名で『また落ちましたねwww』とメッセージまで届き、私のメンタルはズタズタで、まさにドン底でした。
その時私は、「自分は運が悪いのかもしれない」と思い、開運に関する書籍やサイトをチェックするようになりました。かなりアヤシイ流れですが、壺などを買うタイプではないので大丈夫です。
そこで、ある占星術師のブログと出会いました。
「星の流れに従って、あなたの行動を変えてみましょう」
そんな一文が目に留まったわけです。
たとえば、月が獅子座に入った時は、思い切り自己アピールをし、月が乙女座に入ったなら、縁の下の力持ちに徹してみよう、といった感じです。
私はこのブログを読んで、星の動きと自分の行動を合わせるようにしてみました。
満月や新月の日にWEBに掲載する新作の公開をする、お願い事を書く等々……それは本当に遊び感覚だったのですが、目に見えて運が良くなっていったんです。
2013年、夫はかねてから希望していた京都の職場に転職できることになり、新居もスムーズに決まり、その年の夏、私はサイトの小説賞を受賞しました。
「占星術ってすごいかもしれない」
そう思った私は、占星術の勉強をするようになりました。
星の勉強をすればするほど、占星術の面白さにのめり込みました。
これはたくさんの人に知ってもらいたい。
占星術を題材に書きたい。
そう思った私は、『満月珈琲店の星詠み』(文春文庫)という占星術をモチーフにした作品を書きました。
桜田千尋先生の美しいイラストの世界観とコラボした作品で、人生に疲れた人の前にトレーラーカフェが現われ、大きな三毛猫のマスターが星を読んでくれるという幻想的な物語です。この作品は、たくさんの方に読んでいただくことができました。星に興味を持ってくださった人も多く、とても嬉しかったです。
そして、講談社文庫さんとお仕事させていただくことなり、さて、何を書こうかと思案するなかで、周りを見回してみたところ、『満月珈琲店の星詠み』を刊行した後もまだまだ占星術を題材にした小説が少ないことに気が付きました。
『満月珈琲店の星詠み』はファンタジー要素のあるお話だったので、今度はもっとリアルに、現実の生活に寄り添い、そして楽しさのある占星術を描きたい。
そう思い、執筆したのが『京都船岡山アストロロジー』です。
京都に詳しい人でも、あまり馴染みがない船岡山というエリアを舞台に、キラキラの観光地ではない京都、私がこれまで見聞きして学んできた出版業界の話、そして西洋占星術。
これらを盛り込んだ家族と仲間の物語です。7月に発売される第二弾では、キャラクターの成長を描けたのと、より実用的な占星術について触れられていると思います。
作中にも書きましたが、人は星を知ることで、生きやすくなると私は思っています。
たとえば、雨が降るのは決まっていて、それは人の力では変えられない、どうしようもないことだとしても、知っていれば出かけるのをやめたり、どうしても行かなくてはならない場合は雨具の用意をできるわけです。
もちろん、そんなのは必要ないという人や、占いって怪しくて怖いと思う方もいるでしょう。
私としては占星術は、天気予報アプリだったり、カーナビだったり、人生という旅を快適にするツールだと思っています。
より多くの人に知ってもらって、このツールを上手に活用してもらいたい。
人生という旅を、今よりもさらに快適なものにしてもらいたい。
そんな想いから、私はこれからも占星術を題材にした作品を描いていきたい――そう願っている次第です。

PROFILE
望月 麻衣(モチヅキ マイ)
北海道生まれ。2013年にエブリスタ主催第2回電子書籍大賞受賞し、作家デビュー。京都を舞台にした「わが家は祇園の拝み屋さん」シリーズ、「京都寺町三条のホームズ」シリーズなどで多くの読者の支持を得ている。2016年「京都寺町三条のホームズ」で第4回京都本大賞を受賞する。近著に『満月珈琲店の星詠み~本当の願いごと~』などがある。京都府在住。