『京都船岡山アストロロジー』著者コメント+試し読み+スペシャルMAP
文字数 2,539文字
今作の舞台は京都・船岡山。そこで船岡山のある京都市北区役所とタッグを組んでコラボキャンペーンを実施! 聖地巡礼・謎解きラリーやお店での限定メニュー&グッズなどもりだくさんの内容で展開しています!
…と、そんな盛り上がりを見せている京都船岡山について、著者である望月麻衣さんからコメントをいただきました!
さらに試し読みと、作中に出てくる場所をピックアップしたMAPも掲載!
どうぞ京都にいる気持ちになってお楽しみください!
はじめまして、望月麻衣です。
取材で京都市北区の船岡山エリアを何度か訪れてみたところ、他にはない独特の魅力がある場所だと思いました。
京都は世界遺産がそこかしこにある、町全体が観光地です。
どこに行っても見どころがあり、美しく情緒があり、もう一度訪れたいと思わされます。
けれど、生活感には乏しく、ここで日常を送るイメージが湧かないというところも多い。
ですが、船岡山エリアではごく普通の日常生活が感じられる中で、しっかりと京都の長い歴史や文化が根付き、そこから温故知新のカルチャーが派生している。
着物を着て歩く人も、ギターを抱えて歩く人も違和感なく溶け込んでいる。
観光はもちろん、住んでみたいと思わせるそんなところでした。
そんな船岡山エリアの魅力に触れて、新作の舞台を船岡山にしようと決めた次第です。
タイトルは、そのままずばり『京都船岡山アストロロジー』。
京都、占星術、お仕事がテーマのコミカルで優しい成長の物語です。
どうぞよろしくお願いいたします。
望月麻衣
PROFILE
望月 麻衣(モチヅキ マイ)北海道生まれ。2013年にエブリスタ主催第2回電子書籍大賞受賞し、作家デビュー。京都を舞台にした「わが家は祇園の拝み屋さん」シリーズ、「京都寺町三条のホームズ」シリーズなどで多くの読者の支持を得ている。2016年「京都寺町三条のホームズ」で第4回京都本大賞を受賞する。近著に『満月珈琲店の星詠み~本当の願いごと~』などがある。京都府在住。
「そうそう、高屋君」
向かい側に座る三波に声を掛けられて、高屋は慌てて顔を上げた。
「明後日、取材に付き合ってほしいところがあるの。本当は私一人でもいいんだけど、マル長が『高屋君も同行させたって』って」
「分かりました。それで、どちらに」
「京都」
京都、と聞いて少し胸が躍った。
同時にマル編集長が、『高屋君も』と言ったわけが分かった。
京都が好きだと伝えていたのだ。京都は、祖父母が好んでいて、共に何度か観光に訪れているので、大阪よりも馴染みがある。
ちょうど桜の時季。良い景色が見られるかもしれない。
「北区に話題の『西洋占星術師』がいるのよ。『船岡山アストロロジー』といってね」
占星術師と聞いて、思わず顔が強張る。
『ルナノート』の担当になり憂鬱を感じているのは畑違いというだけではなく、そもそも自分は占いが好きではないのだ。
雑誌の片隅に載っている星占いコーナー程度ならまだ可愛いものだが、実際に占い師に会いに行くとなれば、話は別だ。
「常に受け付けているわけではないのと人気もあって、なかなか予約が取れないところなのよ。三ヵ月前に予約を取って、ようやく今日を迎えたの。伝説の占い師に会えるのが楽しみで」
三波は目を輝かせて言う。
ちなみに『アストロロジー』は、占星術のことだ。
「伝説の占い師って……」
大層な言いように高屋の顔が引きつる。
そんなにも人気なのだろうか?
「ああ、伝説というのはね、一般的な話じゃなくてうちの編集部でのことなんだけど」
その言葉に高屋は、うちの? と訊き返す。
「真矢さんをはじめ、何人かそこで視てもらっているのよ。良かったという話を聞いていて私もずっと行きたいと思ってて。あっ、『胡散臭い』って顔してる」
「いえ、その……すみません」
「それにね、その占星術師、姿を現さずに占ってくれるそうなのよ。ミステリアスでしょう?」
「姿を見せずに?」
それはいかにも怪しい占い師という感じだ。
「もしかして、自分も、この編集部の一員として視てもらえと?」
焦りながら問うと、三波は、ううん、と首を振った。
「占い鑑定してもらうのは私だけ。あなたは、勉強のために見学ね」
はあ、と高屋は気のない返事をする。
占い師の許に行くのは、気が進まない。
だが、自分が鑑定を受けないのならば、まだ良いだろう。
「それで、京都市北区のどの辺りでしょうか?」
「名前そのままで、船岡山の近くよ」
「船岡山?」
京都は何度も訪れていて、それなりに詳しいと思っていたが、『船岡山』と聞いてもピンと来ず、高屋は首を振る。
「えっ、知らない? かの『建勲神社』があるのに?」
その神社の名前も、聞いたことがあったかもしれない程度だ。
「有名な神社なんですか?」
「織田信長を祀っていてね、刀剣ファンの聖地なのよ」
なんでも、織田信長の愛刀『宗三左文字(義元左文字)』と『薬研藤四郎(再現刀)』が所蔵されているそうだ。刀にちなんだ御朱印もあるという。
「場所は、『船岡山珈琲店』ってところですって。予約は午後三時。私、今日から出張でここには戻らないから、明後日、午前十一時に駅で待ち合わせしましょう。それまでに占い師の先生に持っていくお土産を買っておいてほしいの。お土産はそうね、エシレのフィナンシェがいいかな。阪急に売ってるから」
午後三時からなのに、結構早くに待ち合わせるのだな、と思いながらも、
「分かりました」
と高屋は素直に頷いた。
※続きは講談社文庫『京都船岡山アストロロジー』でお楽しみください!
憧れの耕書出版に就職した高屋誠は、中高校生向け占い雑誌に配属される。
編集部は大阪支社で、住まいも未定。
占い嫌いの高屋は、船岡山珈琲店にいる正体不明の占い師への取材中にぶち切れ、星読みと大喧嘩。
和解の流れでなぜか店の二階に住むことになり、
不本意ながら星の世界に触れ、その奥深さを知っていく。