希望のステージ /南 杏子

文字数 1,379文字

著書『いのちの停車場』が吉永小百合さん主演で映画化、さらに『徹子の部屋』『あさイチ』『王様のブランチ』『羽鳥慎一モーニングショー』へ出演と、メディアで注目の南杏子さん。『希望のステージ』(『ステージ・ドクター 菜々子が熱くなる瞬間』を改題)の文庫化に合わせ、舞台に立つ人々への医療支援について書下ろしてくださいました!

 2017年12月、NHK紅白歌合戦のステージで、アイドルグルーブ「欅坂46」のメンバーのうち3人が生放送中に体調不良を訴えてニュースになりました。晩年の桂歌丸さんが高座に上がるときには、医師の指示で酸素吸入のチューブを鼻につけていたのはよく知られています。古くは昭和の歌姫・美空ひばりさんも、最後の全国公演では楽屋に医師と看護師が付き添っていました。

 舞台出演中に体調不良になる人は少なくありません。私自身、市民合唱団の第九演奏会で意識を失いかけた男性歌手を救護する経験をしました。また今年5月、映画「いのちの停車場」のキャンペーンで舞台挨拶中に、みなみらんぼうさんが具合を悪くされ、医師役だった吉永小百合さんに介抱された――というエピソードをご記憶の方もおられるでしょう。


 舞台に立つのは大きなプレッシャーを伴います。特別な瞬間だからこそ無理をして、普通の精神状態なら気づける体調不良のサインも見過ごされやすいのだと思います。

 健康不安を抱えつつ大舞台に立つリスクは、想像以上に大きいものです。場合によっては命がけの行為と言えることもあるでしょう。その意味では、スポーツもステージも同じです。なのにスポーツドクターの存在は注目されてもステージドクターは目に見えません。


 だから、『希望のステージ』を書きました。

 これは舞台に立つ人々を応援する女性医師の物語です。ステージに参加する人々の健康をいかに守るか、焦点はもっぱらそこに当てられます。

 主人公の菜々子は熱血です。スマートでそつのない、オシャレな医師ではありません。医師らしくないことにまで首を突っ込み、ときには暴走し、患者さんを救いたい一心で、言ってはならないことを口にしてしまいます。そして、自分を責め、川原で一人、缶ビールを飲んで涙をふくような医師です。

 菜々子は最初、小さな町の舞台を見守るステージドクターの仕事に巻き込まれて戸惑っていました。けれど、いつしか自分が人々に支えられていることに気づきます。過去に負った菜々子の心の傷は、舞台に立つ人々の医療支援を続けるうちに、徐々に癒されていったのです。

 舞台を見守る「医師の目線」をお楽しみつつ、人が人を救いたいと思うときの、結晶のような何かが生まれる瞬間を感じていただけますと幸いです。


杏子(みなみ・きょうこ)


1961年、徳島県生まれ。日本女子大学卒。出版社勤務を経て、東海大学医学部に学士編入。卒業後、慶応大学病院老年内科などで勤務したのち、スイスへ転居。スイス医療福祉互助会顧問医などを務める。帰国後、都内の高齢者病院に内科医として勤務。『サイレント・ブレス』(『サイレント・ブレス 看取りのカルテ』に改題)がデビュー作。その他の著書に、ドラマ化された『ディア・ペイシェント』(『ディア・ペイシェント 絆のカルテ』に改題)、映画化された『いのちの停車場』、『ブラックウェルに憧れて』、『ヴァイタル・サイン』がある。

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