余話 お江戸手習い事情②

文字数 2,114文字

『損料屋 見鬼(けんき)控え』の第2巻が登場です! 「損料屋」とは、江戸時代に実際にあったもので、現代でいうところのレンタル・ショップ。その損料屋・巴屋の息子、又十郎は霊が見える「見鬼」で、その妹、天音は声が聞こえることから、さまざまな事件に巻き込まれます。

 …と聞くと、すわ、江戸版ウィンチェスター兄弟? 霊とのバトル? などと思ってしまいますが、そこは三國さん。あの世から届く思いを、兄妹が温かく解き明かしていく、落涙もののハートウォーミング・ストーリーなのです。

 で、今回はそんな三國さんが江戸時代の「寺子屋」についてのトリヴィアをご自身の経験も織りまぜて語ってくださいます!


※ラストに、『損料屋 見鬼(けんき)控え ②』刊行記念のtwitterキャンペーンの告知があります。


 江戸時代、庶民の子どもたちが通っていた手習い所(寺子屋)の数は、全国で約1万5千とされていますが、実際にはその2~4倍であっただろうとも言われています。江戸時代の人口が3千万人程度だったこと、現在の日本の小学校数が2万弱であることから考えると、いかに江戸時代に手習い所が多かったかがわかります。当時の全国の識字率は60%で(江戸はもっと高かった)、世界でも群を抜いていました。日本は昔から教育熱心だったと言えるようです。

 中でも江戸の就学率は一説によると幕末のころで80%。たくさんの子どもたちが手習い所に通っていたのです。中には女筆指南といって女生徒だけの手習い所もありました。生徒たちは『筆子(ふでこ)』と呼ばれ、習っていたのは俗にいう『読み・書き・そろばん』ですが、同時に礼儀の躾など心の教育も行われました。6~7歳くらいで入学し、12~13歳で卒業する子が多かったようです。授業は朝五つ(午前八時)から昼八つ半(午後三時)まで。昼食は弁当か家へ食べに戻りました。午後からの授業は、家の手伝いや習い事で休む者もけっこういました。当時も教科書があり、『往来物』と呼ばれるものの数はなんと7千種類(そのうち女子用は1000種)もあったそうで、子どもひとりひとりの将来に合わせて教材が選ばれていました。
 一方、手習い所の束脩(入学金)はまちまちで、200文(現在の価値で約4000円)~1分(2万円)ほど。謝儀(月謝)もどこもきまりはなく、20文(400円)~200文(4000円)くらいでした。家の経済状態によって支払える分だけを納めるということだったようです。また、野菜や蕎麦、お酒なとの品物を持参する家もありました。筆子が100人いれば生活は楽、200人いれば20石の下級武士並みの暮らしができたといいますが、たいていの手習い所の筆子は30~60人ほどでした。そのため、手習い所の師匠だけで暮らしていくのはなかなか難しかったと思われます。他の仕事と兼業だった人が多かったのはそのせいだともいえます。しかし、役に立つ知識を子どもたちの身につけてあげたいという情熱と、学問の師匠であるという誇りが先生たちをを支えていたのではないでしょうか。
 ところで、一度にたくさんの子どもたちの手習いをみるために、手習い所の師匠たちは、なんと超絶技巧『倒書(とうしょ)』を極めていました。『倒書』ができぬものはもぐりだとまで言われたそう。『倒書』とは、子どもに向かい合って座り、子どもから見て正しく読めるよう逆さまに、しかも素早く文字を書く技術です。流麗で魔法のようなその筆遣いに、筆子たちはすっかり魅了されると同時に、お師匠様に対して信頼や尊敬の念を抱くようになります。私は、一昨年まで30年近く自宅で無学年制の個別指導の学習塾を開いておりました。生徒は小学生から高校生まで20人ほど。私ひとりで五教科を教えていました(期末テスト前はたまに音楽!?も)。机を回りながら、生徒のノートに逆さまに文字を書くことも多々ありましたが、それは数字やアルファベットに限られていました。『倒書』は、漢字や仮名の崩し字を筆で書くのですから、つくづくすごいなと感心してしまいます。この『倒書』については、日本を訪れた外国人もびっくり仰天したそうです。
 手習い所の様子を描いた浮世絵を見てみますと、勉強している子に混じって、おしゃべりをしたり、落書きをしたり、いたずらをしたり、いろんな子どもたちがいます。どの子も皆、生き生きとして楽しそうです。そういえば、うちの塾の生徒たちはよく、「勉強は嫌いだけど塾は好き」と言っていました。当時は、『勉強も好きになってよ』と返していたのですが、今では、あれは生徒たちがくれた最高のほめ言葉だったのだと思っております。
三國青葉『損料屋 見鬼控え』刊行記念!


江戸時代のレンタルショップ「損料屋」を舞台に不思議な力を持つ兄妹が、「霊助け」のために事故物件を巡る霊感時代小説第2弾の刊行を記念して、twitterのスレッドで試し読み無料公開+フォロー&リツイートで特製図書カードが当たるキャンペーンを実施中!(締め切りは2021年7月5日(月))

詳しくは☞ https://news.kodansha.co.jp/8842

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