公開 タビメシ道の極意④「大勢で一緒に食べる……を探せ」

文字数 2,164文字

極意その4「大勢で一緒に食べる……を探せ」

 世界各地で、一年を通して楽しい祭りが繰り広げられている。

 5月のドイツ、ローテンブルグのマイスター・トゥルンク(写真)は、町が中世に逆戻りする。8月のイギリス、スコットランドのエディンバラ・フェスティバルでは、荘厳な雰囲気の中、バグパイプの音色が石畳の町に響き渡る。10月ドイツのオクトーバーフェストは、別名ビール祭りだ。冬の到来を感じつつ、『ヴルスト』(ソーセージ)をつまみにビールを飲みまくり、トイレ探しに一苦労するハメになる。

▲ドイツ・ローテンブルグのマイスター・トゥルンク

 2月は謝肉祭(カーニバル)。ヴェネツィアでは仮面をつけてあたりをうろつき、町中が仮面だらけで、あたかも町全体が仮面舞踏会の様相だ。禁断の恋でも生まれそうな雰囲気である。南国ブラジルではサンバ・カーニバル。同じカーニバルでも、ヴェネツィアとは対照的に、水着姿で踊りまくる男女も多く、裸祭りの様相だ。この祭典には、世界中から泥棒が集まるということで、要警戒でもあった。

 この時期ロシアでは、まだ雪の残る中、マスレニツァが開催される。太陽を待ち望んだ人々が、丸い太陽に似た形の『ブリヌイ』(ロシア風クレープ)をいただくのである。

 いずれの祭りも喜びに満ち、探さなくてもそこいらで地元メシが供される。しかも大勢の人と一緒に食べたり飲んだりするので、実に楽しい。

 インドのアムリツァルにあるシーク教の黄金寺院では、「ランガル」という名称で、毎日無料で食事を共にする会が開かれている。一度に5000人、一日で10万人食べるというから凄い。最近では、ツアーコースに組み込まれるほどで、すっかり有名になった。

 アジアでは、街をぶらぶらしていると、結婚式に遭遇して、「お祝いだから、寄って行ってくださいよ」と参列させていただくこともあり、さすがに葬式に呼ばれたことはないが、偶発的に招かれることは少なくない。欧米では、画廊で開かれている個展のオープニング・パーティーが面白い。招待されていなくても入場できる場合も多く、最新の芸術作品を鑑賞しながら、ワインをご相伴にあずかりながら、芸術論議に花を咲かせる。

 また世界では、高級ホテルで客へのサービスとして、ホテルによっては、無料でニューイヤー・パーティーが催されることもある。僕はチュニジアのとあるホテルの最上階で、大勢の客とともに飲み、食い、踊りまくって、実に愉快なカウントダウンの時を過ごした。

 そうなのである。大勢で飲み食いすると、相手が見知らぬ人であっても、実に楽しく、うまいのだ。タビメシ道の極意の一つにちがいなかった。

 こうした集まりでは、新しい友達ができることもある。妻などとある個展で、オーストラリア人の家族と仲良くなり、以来30年以上の付き合いが続いている。我が家にも遊びに来たことがあり、数年前には彼の家族の口利きで、中東のドバイで絵の個展を開いた。

 タビメシ道とは、ただうまいものを探す、食べるだけではないのだ。人と人を結び、未来を育むこともある。

 このタビメシ道を、日本でもどうだろうかと考えて、僕の主催で実現したのが「下田インド化計画」である。

▲第2回下田インド化計画2019年、伊豆下田

 いまだ地方ではなじみの薄い南インドカレーを、大勢で手で食べようという企画だ。ここには異文化交流という隠れたテーマもあった。

 シェフに招へいしたのは、旅仲間の「マサラワーラー」である。


https://masaalaawaalaa.wixsite.com/masalawala 


 するとSNSのみの告知でも、第1回目には100人もの人が集まった。東京からはマサラワーラーファンも来てくれた。

 南インドと同様に、バナナの葉っぱのお皿に、ライスと数種類のカレーが盛られる。ボランティアの人が、一人ひとりに、カレーがなくなると、配って回る。食べ放題だ。

 四苦八苦しながらインド風に手で食べることに挑戦する人、あるいは抵抗感があって、スプーンで食べる人もいる。

「おいしいね!」

「うん、おいしい!」

 そう頷き合うだけなのに、みんなに笑顔があふれ、気持ちが通じたようになる。

 大人も子供も、老いも若きも、男も女も、見知らぬ人と一緒に、同じカレーに舌鼓を打つ。

 一息つくと、そこここで、スマホをかざして、連絡先交換も行われている。

 愉快、愉快だ!

 最後に僕は、スタッフのみんなと卓を囲んだ。

「うまいですねえ!」

「そうでしょ」


 大勢で一緒にメシを食べること──。

 コロナ禍で禁じられた、この喜びを、いつの日か必ずどこかで取り戻したい。

岡崎大五(おかざき・だいご) 

1962年愛知県生まれ。文化学院中退後、世界各国を巡る。30歳で帰国し、海外専門のフリー添乗員として活躍。その後、自身の経験を活かして小説や新書を発表、『添乗員騒動記』(旅行人/角川文庫)がベストセラーとなる。著書に『日本の食欲、世界で第何位?』(新潮新書)、『裏原宿署特命捜査室さくらポリス』(祥伝社文庫)、『サバーイ・サバーイ 小説 在チェンマイ日本国総領事館』(講談社)など多数。現在、訪問国数は85ヵ国に達する。


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