メフィスト賞2023年下期座談会

文字数 11,624文字

応募総数600作品超! メフィスト賞受賞者は現れるのかーー?

海 2023年下期のメフィスト賞座談会を始めます。まず初めに、今回から文芸第三出版部に仲間入りをした、座談会初参加の2名からご挨拶です!

 

 ヤッター‼(歓声) 夢の座談会だッ‼ 甲と申します。これまで漫画雑誌や文庫本の編集に携わってきました。中学生の頃から楽しく読み漁っていたこの座談会に、己が参加することになるとは。山と届いている応募原稿のすべてが愛おしいです。夢のようだ。夢……? 夢? コレ? 夢ならどうか覚めてくれるなッ‼ よろしくお願いします。

 

 オギャー!!(産声) 新入社員の乙です。ベイビー編集者として最初に覚えた言葉は「面白ければなんでもあり」でした。前代未聞に挑戦し続けるメフィスト賞に携われること、とっても嬉しいです。素敵な小説を読むと「生きててよかったー!」と感じます。そんな小説が誕生する瞬間に立ち会えたら、という想いで日々生活しております。よろしくお願いします!

 

 新しい仲間を迎え、今回の座談会参加は7名です! どうぞよろしくお願いします! それでは早速、座談会に入ります。今回は、2023年3月〜8月末日までにご応募いただいた作品が選考対象です。これまで同様、編集部員が応募作品すべてを読み、その中で推したい作品を挙げ、その作品を複数の部員が読ませていただいています。では1作目、Nさんからお願いします!

(以下、応募順。①タイトル②著者名③キャッチコピー)


N  ①ブルータスの窓 ②あまえび  ③「ブルータスお前もか」カエサルが放った親しい人に裏切られた嘆きを表す象徴の言葉。この事件におけるカエサルは誰だったのか

読み終えてから、初めての応募ということを知り驚きました。そのくらい、書き慣れている印象を受けたのです。冒頭で明確な事件と謎が提示され、キャラクターも魅力的で、最後まで裏切りの連続を書き切っています。この作品は、高校を舞台に殺人事件に巻き込まれてしまった主人公たちの物語です。県内一の生徒数を誇る聖蘭高校で白昼堂々、一人の先生が撲殺される現場を、偶然隣の校舎の窓から目撃してしまったシーンからスタートします。目撃したのは、美鈴と陽子。その後、二人に向け犯人が警告としてブルータス像の血まみれの破片を示し、怖くなった二人は学校一の天才と呼ばれる氷見真という美少年に助けを求めます。即席探偵となった3人が謎を解いていくのですが……。安定感もある学園ミステリです。動機をはじめ「もう少しこうしたら」というツッコミどころはあるものの、応募作を読んだ中で一番、作品と作者に良い距離感があって、物語を制御できて書いている人だと感じました。ミステリをお書きになるセンスが光るな、と。編集部の意見も聞きたく、座談会に挙げました! いかがだったでしょうか?

 

 がんばって書いてくださったなと思います。「青い鳥文庫」の棚に並ぶ作品のような設定、世界観ではじまったので、どうなのかな? と思いましたが、後半は本格ミステリ的着地をしたので、書きながら成長していっている感じがしました。いずれ大人向けの本格ものを書けるようになるのではないでしょうか。今作にかける意気込みは素晴らしいと思うのですが、どうしても幼さや強引さが目立ってしまった印象です。 

 

 とても面白く、無駄のない物語の構成だと感じました。ワトソン役とホームズ役もピッタリで、特に氷見くんのキャラクターがいいな、と思いました。トリックも論理があると感じました。

 

 警察が高校生に事件のあれこれを教えるあたりはどう思いましたか?

 

 確かにそのあたりは口が軽すぎるかな……とは思いました。結局、偽造の遺書で犯人が大体絞り込めてしまうことになりますし……。でも、氷見くんとの情報交換や妹のため、という理由があるので、やみくもに漏洩している感じはありませんでした。

 

N   刑事のお兄ちゃん、情報漏洩しすぎですが、ファンタジー世界なので……そこは許してください!(笑) 

 

 人を殺すための凶器のチョイスが厳しいと思いました。犯人の筋力、俊敏さであの殺害方法は可能なんでしょうか? 一撃で息の根を止めるってだいぶ難易度が高いと思うのです。また犯人当ての推理で「音楽室に血の付いた破片を置きに来られるチャンスがあるのは、教師か部外者、それ以外いないんだよ」という描写がありましたが、「いやいや犯人も有り得るでしょ!」とツッコミを入れてしまいました。 でも初めてでここまで書けるのは本当にすごいと思います。

 

 ミステリセンスがある! と思いました。ラストはとてもびっくりしました。ただ、身内がいるとはいえ警察が情報を出しすぎることや、捜査が雑すぎることが気になりました。警察が探偵役に情報を流しまくる小説は他にもありますが、その理由づけ(言い訳)はちゃんとしておかないと、と思います。聞き込みはこの事件内容なら生徒全員にするでしょうし、科学捜査も丁寧に行われるはずです。重要な証言が後から都合よく出てくることも気になりました。視点人物が読者に隠し事をするのも気になります。作者はそれを自覚してフォローしていますが、読み手にバレてしまう気がします。作者が到達したいラストのために登場人物たちを動かしている印象です。9割完成したあとで、小さな穴を埋めていく最後の1割の作業はすごく大変ですが、美は細部に宿ります。作者自身は瑕疵に気がついているので、次はぜひ「完璧だ!」と思えるまで改稿したのちに、応募していただきたいです。もう一度言いますが、センス、抜群です。 

 

N   学校内で人が死んでいたら、殺人であることを伏せておくのはかなり無理がありますよね!

 

 はい。校門や道の防犯カメラもあるでしょうし、保護者が学校をうろうろしているわけもなく、噓もすぐにバレそうです。事件についても、なぜ移動中に目撃されないと思ったのか、と。 ぜったい学校じゃないところで呼び出して殺したほうがいいはず。もし初小説でこれなら、控えめに言って天才だと思います。たくさんミステリを読まれていそうですよね。

 

N   プロフィールを拝見すると『占星術殺人事件』『アクロイド殺し』『獄門島』が好き、とあります。いいですね!

 

 私は登場人物のキャラクターの配置がとても素敵だと思いました。野球部の生徒や野鳥部の生徒など、ある意味コテコテかもしれませんが、みんなが素直に楽しめる作品かな、と思いました。

 

 キャラクター、無理のない感じでよかったですよね。次作も意外な結末、お待ちしています!

 

 次の作品に進みまして、甲さん、よろしくお願いします!

 

 ①アズルテイルに哀をこめて ②冴守三冬  ③たった一人の誰かのための物語

創作に励む5人の学生が集まるサークル〈アズルテイル〉。中心人物である深山蒼はプロデビュー済みで、誰もがその才能を認める若き天才作家。昔から蒼のことを知る耕司も、複雑な感情を抱きつつ会に参加していた。ある日、蒼が一人の男を会に迎え入れる提案をする。彼は麻倉夕貴という、“本物の天才”だった。信じがたい才能の乱入に〈アズルテイル〉は揺れ……というお話です。膨大な文量で描かれた群像劇です。正直言ってとても粗いです。登場人物全員を丁寧に描こうとして冗長になってしまっています。終始、主要登場人物6人の視点を跳び回る構造で、混乱は避けられません。作中で起こる事件も唐突な感は否めません。ただマイナスポイントが多くありましたが「この物語で血の通ったキャラクターを描くんだ!」という気合を感じまして、推すことにしました。

 

 最初の100ページを読んでいる間は「てにをは」や「れる」「られる」の使い方、また言葉の誤用、誤字脱字などにひっかかって、読み進めるのに時間がかかりました。物語の展開がゆっくりで梗概にはミステリとあるけれど、ミステリの気配が感じられないので、この話はなんの話なんだろうか? と何度も考えました。文化祭が終わってからが、現在軸の物語の本番でしょうか。そこからは興味深く読みました。伏線を回収する誠実さや登場人物への愛情から創作への熱を受け取りました。名言や魅力的なセリフが随所にあって、そういうのを照れずに書けるのは強みだと思います。登場人物が語るさまざまな「論」も興味深く読みました。登場人物一人一人のエピソードが長く(それぞれ愛すべきものですが)視点人物が多いために物語の軸が見えづらいと思います。同じ出来事を別人物視点で語り直すこともあるため、同じエピソードを重複して読むことにもなるし、ページ数も内容からすると多すぎると感じます。差別的と感じる表現もありました。全体的に言葉を大事にしていただければと思います。 

 

 小説が大好きな方が描いた作品だ! ということが冒頭少し読んだだけでわかる、とても愛のある作品でした。枚数も300枚超えと多めでしたが、特に文化祭後の展開が怒濤で、この登場人物が●●だったのか、というような驚きをこまめに作っていただいていて、飽きずに読ませる工夫がされていて良かったです。さらに冒頭かどこかに、何を追って書くべき作品なのかを示していただけると、読者としては何を目指して読むべきなのかが明確にわかるように思いました。分量が多いこと自体は問題無いのですが、その分描くべきところは描き、削るべきところは削らなければ全体が弛んでしまうと思います。甲さんご指摘のとおりに視点の切り替わりが多くて、「いつのまにか視点が変わっていた!」となることが多々あったので、読者の読みやすさを優先して、必要以上に視点人物を変えず、本当に変えるべきところだけ変えてもらいたいです!

N  この物語は「才能」を扱った物語であるのですが、「才能」を小説で描くことはとても難しいと思います。でもそれを完璧に表現した先行作品があるんです。そのため、応募作品を拝読しながら、最初からなんとなく予感はしていました。途中で「これは……」と疑いをさらに深め、「まさかラストのオチまで一緒⁉︎」と最後に確信し、読後にプロフィールを拝見して、影響を受けた作品を確認すると「やはり……」と。それは『スロウハイツの神様』(辻村深月)でした。好きなんでしょうね、『スロウハイツの神様』が本当に。私も大好きなのでよくわかります。そして頑張ってここまで書いてくださったことを評価します。ただ先行作品の構成に寄せていらっしゃるのはわかるのですが、まだ未完成で「書きたい視点で書きたいことを都合の良いタイミングで書いている」ように見えてしまっています。影響を受けた作品があるのはとても素敵なことなので、ここから次はオリジナルな物語をぜひ紡いでください! 

 

 読み終わって、作者の情熱に拍手をしたくなりました。しかし、文章がもう少しかな、と思います。惜しい。助詞の使い方に不自然な部分が見受けられることや、「経済的地位とは反比例的に人間的品格は下がる」など、ひっかかりながら読みました。視点も変わりまくっていて読みにくいです。青春群像劇を読む魅力がたっぷり詰まった良いエンターテインメントで楽しく読めましたが、そのストーリーを表現する文章を、あとちょっと頑張っていただきたいです。決め台詞を言うぞ! と決めてちゃんと言うところは好感が持てます。辻村作品が好きなんだろうな、書いていて楽しいんだろうな、と思いました。

 

 思い返せば確かに『スロウハイツの神様』に寄せられすぎていましたかもしれませんね。著者の方の好きな作品の要素が強く出過ぎてしまっていました。今回は残念ながらここまで、ですね。まだまだ伸び代のある書き手の方だと思います。色々な作家さんの良いところをたくさん吸収して、次の原稿をまた送っていただきたいです!  甲はこの方、大応援です‼︎!


 先に進みまして、次は海が推した作品です!

①ダンチの歌 ② 古武紬 ③投稿した歌が巻き起こす奇跡の物語――

父から虐待を受けていた主人公・傀は、近所の子ども食堂を運営する母娘によって希望を取り戻すきっかけをもらいます。しかし、その母娘が事件に巻き込まれ、未解決のまま時が過ぎて傀は高校生になります。そんな傀がアーティストを目指す過程をたどることで、事件の謎が明らかになっていく、という構造の作品です。登場人物それぞれにたくさんの要素を与えていて、回収するのが大変そうなところを上手にまとめ上げています。それどころか「ラストにそんなことが……‼︎」という展開も加わり、著者の方のサービス精神と力量を感じました。だからこそ展開の中に、実際そんなにうまくいくだろうか……と思うポイントは多く、特にラストはあまりにきれいにまとまりすぎていると感じました。みなさん、どうだったでしょうか?

 

 最初は『じゃりン子チエ』(はるき悦巳)的なエネルギッシュな市井の人々を主題にした人情ものかな、と読み始めました。しかし、章が進むにつれて「ジャンル」、つまり「小説の顔」がどんどん変わる。甘酸っぱい青春ものから、ハードボイルドな殺人事件を経て、王道クリエーター成長譚に辿り着き、最終的には●●ものでフィニッシュ! そんな風にジャンルが変容していく読み味は確かにユニークでした。一方で、どのパートでも現実を描写する解像度が低いように思え、常に物足りなさを感じました。

 

 ネグレクトと父親からの暴力などから逃れ、音楽配信で成功していく過程の面白さ、ドラマチックさは韓流ドラマのようで一気に読ませる作品でした。過去の事件の真相が説明で終わってしまうのが惜しく、ここはしっかり読みたいと思いました。書き込まれていたら黒幕の二人にもより説得力が出て、主人公が狙われる理由なども納得できたと思います。プロローグでは、主人公が高校生なので気になりませんでしたが、第一章は小学生時代の主人公の一人称で語られるため、第一章の地の文に大人が使うような定型の比喩や表現が多く気になりました。

 

N  一人称が、僕から俺になっているので、「伏線か!」と思ったら同一人物でしたね。

 

 わかります! 冒頭の団地を描く文章は劇画タッチで脳内再生されました。まぁその後、主人公はまさかのボカロPに成長するのですが。

 

N  「動画配信でオリジナル楽曲をつくり、話題になる」という展開を軸にした今っぽさを上手に使って物語を描かれています。「歌詞に秘密が隠されている」という謎の作り方も魅力的です。ただ全体的に「幼い」のです。なぜ幼さがにじみ出てしまうか、考えました。人として子供っぽい人は、「自分の都合の良いように言い訳をする」ことだと思うのですが、小説も同じなのかもしれません。うまい小説は無理筋なところを丁寧に丁寧に自然に補足して読者を違和感なく納得させなければいけません。とくにミステリ作家さんは、そこに過剰なくらいに気を配られています。この小説は、「どうにかした」という強引さが目立ちすぎていて、幼さにつながってしまっています。また「全部書きすぎてしまっている」ことも、書き上げた後に振り返ってみるポイントかもしれません。書かなくていいところをもう一度精査することで、完成度は上がると思います。例えば、極悪非道な父親を、わざわざ最後に救わずともよかったかもしれない、など。

 

 まさかのラスト……! 文章がシンプルで華美ではないのにエモーショナルで読みやすかったです。前半と後半でジャンルがガラッと変わるような感覚もおもしろかったです。どこに連れていかれるかどんどんわからなくなってきて、最後はひっくりかえりました。荒唐無稽ともとれる設定ですが、地に足のついた文章で書かれているため、リアリティも感じます。惜しむらくは登場人物が読者に対して過去を隠しすぎているように感じました。複数の人物が読者に隠し事をしているため、読者が考えなければいけないこと(謎)が多くなってしまいます。登場人物が何を考え、何を疑い、何を追いかけているのか、その熱量はいかほどなのか、を、読者に伝えながら物語を進めていただくと、さらに良いかと思います。今追いかけている謎はこれだよ、その謎が解かれたら次はこれだよ、最後はこうすると終わるんだよ、と。あと、ラストがちょっとドタバタしているように感じたのと、真相がわかってからの悪役の退場のさせ方には、もうひと工夫の余地があったかな、と思いました。 またシーンがいい、と思いました! フェス会場や団地、夜の海、船など、絵になる場面がいっぱい出てきて、素敵でした。

 

N    ディストピア感があって、よかったですね。

 

甲 さりげない語りのシーンで、東京を「2つの塔がある街」と表現していたのが印象に残っています。そういう光って見える一文も見受けられたので、惜しいな、と。

 

 また、人物をかなり丁寧に描いてくださっている、はずなのになぜかその人物がみんな宙に浮いている感じがしました。書いてある描写は何も間違っていないのに、なぜか胸に迫ってこないというか……。内面描写がとても重要な作品だと思うので、登場人物の内側をもう少し詳細にイメージして書いていただきたいです。とても力量のある方だと思うので、次作に期待しております! 次に巳さんより、お願いします。

 

 ①ルヴァルの人々 ②風胤敦 ③失われた言語で表される自分の名前に込められた意味とは?

軍事国家ウェポニアに文化も言葉も奪われたルヴァル。唯一先祖から受け継がれた人名にルヴァル語はひっそりと残されていた。しかし、その名もやがて番号に置き換えられてしまう。主人公は、言語学の教授の力を借りて、記憶の中の家族の名前などから文法や言葉の法則を探り単語の意味を理解し、その過程で二人は自分たちのアイデンティティを見出していく。凛とした端正な文章で知的な魅力に富んだ作品です。登場人物の役割もしっかりしていて人間的な魅力がありますが、それぞれの関係性は希薄で物語としては厚みに欠ける点が残念。また名の意味を探り出す道筋が一直線なので単調に感じます。主人公が、言葉を取り戻し、文化を取り戻し、いずれ中興の祖となる壮大な物語の第1章という印象です。この作品でデビュー! とはいきませんが、たいへん才気を感じる書き手です。長編に挑戦していただきたいと思いますし、そのときのためのアドヴァイスなどをお伝えしたくて座談会に取り上げました。 

 

 作中に言語表が登場⁉︎ 異色のファンタジー小説でした。べらぼうに面白かったです! 正直驚きました。かつて敗北した国がある。迫害されている民族がいる。その末裔である少年は、自分の名前の意味を知らない。大人になった少年は、密かに奪われた言語の“意味”を研究し始めた……いや、絶対面白いでしょう‼︎! ページ数的には、まだまだ短く序章という印象なので、この作品でメフィスト賞受賞! ということはないかもしれません。ただ率直にこの物語の続きが読みたいと感じました。

 

 抑圧された人々が掘り起こす失われた文化に関する物語で、非常に寓話性のある作品だと思いました。文化を取り戻すために、自分たちが持っていた名前をヒントに言語学的に解析していく、という過程が面白かったです。ただ、結構展開がご都合主義的で、最初から最後まで課題解決のために一直線、という感じで話が進んでいくので、それはもうちょっと楽しみたいなぁ、と思いました。また、現状50枚ほどでとても短いですが、物語の各段階でもう少し、起伏があったり登場人物が出てきたらいいなぁ、という感じです。そして、時代設定がよくわかりませんでした。鉄道が最新技術的な書かれ方をしているので、19世紀前半(?)的な世界観かと思いきや、途中でビニールが登場したので、エッ! とビックリしました。ファンタジーなのでOKなのかもしれませんが、それにしても都合が良すぎる感がありました。哀しい物語ですが、ロマンがあって、示唆に富んだ話だと思います!

 

甲 教授との対話シーンめちゃくちゃ素晴らしかったと思うんですね。

 

N    座談会に挙がった5本を読んだ中で、一番のめりこんで読みました。めちゃくちゃ面白かったです。個人的には、まだまだ読んでいたかった。それくらい魅了されました。才能あると思います!  名前というアイデンティティを奪われ、番号で呼ばれる迫害された民の、アイデンティティを取り戻す物語なんですが、自分のルーツを、「言語学」を使って名前に込められた言葉の意味を探っていく過程がとても素敵だなと思いました。そこに、日本の「名付け」との共通性も感じて興味深かった。占いで名前を付ける民の秘密と謎が明かされる時、とても驚きました。センスが良い! と惚れ惚れしました。ある意味、一番のミステリ作だったかもしれません! 細かいところでツッコミどころはもちろんあるものの……。

 

 作者に乾杯! なんてヘンテコな小説! ありがとう! 大きな物語のサイドストーリーを読んでいるような心地でした。最後に名前の意味がわかって、そこからどうなるの! と続きがとても気になりました。大きな困難が訪れたときに、キーとなる人物の名前の意味を知ることで、解決への突破口を見出す連作、とかどうでしょうか。実験的な作品ですが、無駄が少なく落ち着いた筆致で描かれているため、安心して読めました。言語学者の方が書かれたのかな? と思ったら、とても若い方で非常に驚きました。こういう、どのジャンルにも当てはまらない小説をメフィスト賞に送っていただいたことも嬉しいです。ぜひまた、読んだことのないようなものを書いて、メフィスト賞に送っていただきたいです。

 

 しかも、今作が初小説、初応募とのことです。 

 

N しかも初⁉︎

 

 わお。

 

 初小説がこれなんですね。可能性の塊で恐ろしい。

 

 握手して腕をブンブンしたいです。

 

N  世界を創れる人ですよね、きっとこの方。

 

 メフィスト賞とってほしいですねえ。

 

 先に進みまして、いよいよ最後の1作! 乙さんよりお願いします。

 

 ①Someday ②松本あずさ ③すべての夢を追う人へ、乾杯!!

舞台はニューヨークのオフ・ブロードウェイ。バックダンサーのアルフレッドは15年のキャリアに才能の限界を感じ、雇い主のマリアに今期限りで引退することを伝えました。その帰り道にブロードウェイのスター、ナオトと出会ったことから物語は始まります。無名のアルフレッドにナオトは「11年前から、君と舞台に立つために頑張ってきた」と告白。超新星との出会いをきっかけに、アルフレッドがダンスに向き合って出した答えとはーー。 爽やかな青春小説です! ストレートな人間讃歌的小説で、読んでいてとても気持ちがよかったです。2人の主人公の友情とも愛情ともつかない人間関係が素敵ですね。描写やテンポがとても良く、見せ場を作るのが上手な書き手さんだな、と感じました。また、描写がオシャレなのも推しポイントです。装丁や帯もなんとなく浮かび上がってくるようでした。物語の最後に主人公の心象風景が鮮やかに描かれるのも、爽快感がありました。全90枚とやや少なめで、クライマックスのシーンなど、加筆の余地があるな、と思いました。

 

 自分がブロードウェイの舞台にダンサーとしていられるかどうかをずっと逡巡している話で、良い話だと思ったのですが、物語の起伏がないため、全体的にはちょっと厳しかったです。予想以上のことが起きないのも残念でした。あと、アメリカで缶コーヒーの自動販売機はないのではとか、節制が大切なダンサーがウイスキーをラッパ飲みするという描写だったりも、もう少しディテールに凝って、調べてから書いた方が良かったと思います。細かいところで言えば、泡立てスポンジで固形石鹼を泡立てると書いたその次の行で「ボディーソープで洗うと」と書いてあり、見直しの癖をつけてほしいと思います。何を描きたいのか、そのためにはどんな舞台設定がいいのか、そこではどんなキャラクターが活躍するのかなど準備にもう少し時間をかけて次回作に挑戦してほしいです。 

 

 叶わない夢に悩まされて捻くれているアルに対して、ナオトの無垢で可愛らしいキャラがとても好きでした! リアルな世界に普通にいるような人物として描かれていて、その生っぽさが魅力的でした。残念だったのは、アルとナオトにとって、2人が交わる大切な場面のみを抽出して描かれている点です。アルとナオトがどれだけこれまで苦労してきたかなどなど、まだまだ作品内に書き込むべき過去のエピソードや感情があるはずです。枚数も90枚程度なので、さらに加筆していただいてよいお話だったかと思います。さらに詳しく2人の人物について書き込みがあることで、読者も2人に感情移入しやすくなり、感動に結びつくかと思います。ラストの、アルに関する展開が早く、ここまでためてきたからにはもう少し粘ってしっかり書き込んでほしいと思います!

 

N   ブロードウェイを舞台に、活躍する日本人とヒエラルキーの底辺で葛藤する主人公が織りなす人間関係が読みどころなのですが、「二人の人生が実は過去に繫がっていた」というストーリーは月並みで、文章も既視感のあるもののように感じられたのが残念でした。もっと「自分の言葉」で表現することを意識してみるとよかったのかなと思いました。 

 

 全体に駆け足で奥行きがなく、書きたいシーンや言わせたいセリフを繫ぎ合わせたような小説でした。また描写の不足も気になりました。ニューヨークを舞台にしていますがニューヨークの街の描写も少なく、日本人読者に向けた作品で舞台をマンハッタンにする必然性があまり感じられませんでした。日本にもダンサーはいます。また「声の出し方、体の動かし方が本物」と書かれていましたが、そこをどう描写するかが小説の肝かと思います。もっと人物にカメラを近づけて描いた方がよかったのではないでしょうか。翻訳調で書かれた会話文は説明的でぎこちなさもあり、デビューされた場合、次作以降をどんな文体で書かれるのかも摑みきれませんでした。気持ちのいい小説で、落ちてほしいところに落としてくれるため嫌な感じはまったくしないのですが、まだまだ頑張れるのでは、と!

 

 確かに、ダンス小説なのにダンスの描写が少ないのは気になりました。故郷のスペインの思い出を振り返る最後のシーンがいいな、と。読後感で推しました。次作に期待しています!


 5作品、すべて議論し終わりました! 読ませていただいた作品の中で、今回は編集部人気がとても高かった『ルヴァルの人々』の著者、風胤敦さんにご連絡させていただこうと思います。

 

 残念ながら受賞作は出なかったですが、どれも熱がこもっていて読んでいて楽しかったです。

 

N   みなさま、ご応募をありがとうございました! どの作品も魅力的で、メフィスト賞だからこそ原稿を送ってくださった気持ちを感じました! 編集部一同嬉しいです。まだまだ見たこともない才能をお待ちしております! 

 

 ご応募の際、規定枚数よりも少ない作品、PDF形式ではない作品は選考対象外となってしまうので、くれぐれもご注意ください! 今回の応募作品の中にも、そのような原稿がいくつかありました……。今回まではそのような原稿も読ませていただいておりましたが、次回からは規定外とさせていただきます。原稿規定をご確認の上、ご応募をお願いいたします。

 

 最後に自分からメフィスト賞受賞者の動向についてお知らせします。第65回受賞の『死んだ山田と教室』は2024年5月に発売予定ですが、12月に「メフィスト特別号」としていち早くMRC有料会員にお届けします。現在プロモーションの仕込みをしていますが、かなり面白いものになると思いますよ! メフィスト賞は賞金こそありませんが、受賞作は必ず本になりますし、デビュー後のバックアップやプロモーションは相当すごいです……! 作家志望の方、ぜひメフィスト賞に唯一無二の作品をお送りください! よろしくお願いいたします。

メフィスト賞2024年上期座談会は、2月末日受付までのものが対象になります。

どうぞよろしくお願いいたします!


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