メフィスト賞2023年下期 印象に残った作品

文字数 1,340文字

座談会にはあと一歩届かなかったけれど、編集部員が読んで印象に残った作品を公開いたします。

『東亰の花、雪の影、月に酬いを』

 時代設定と題材の選び方がマッチしていて、文章も読みやすく魅力的な作品でした。しかし、連作短編にしたために、話ごとの中身が浅くなったように思います。セリフや心理ネームが舞台となる時代の概念から外れているものもあるため、冒頭の物々しい雰囲気との違和感が出てしまったのも残念でした。とても力のある方だと思うのでぜひ長編で再チャレンジしていただきたいと思います。期待しております。

 

『不思議の海に飲み込まれ』
 ショートショート(SS)集です。様々なタイプのSSを書き分けるのがとても上手だと思いました。文章も読みやすく、特に最初の一文から引き込む技術があるな、と。様々なタイプのSSという部分はとても魅力的なのですが、一方で、1点突き抜けて挑戦的な部分やテーマがあればいいな、と感じます。それとは別に、是非、長編でも応募してほしいです。 

 

『怪獣に名前をつけるなら』

 憂鬱な日常の中で、主人公がとある不思議な女の子に出会い……という、読者もどこか遠くに連れて行ってくれるのではないか、とドキドキする設定がとても魅力的でした。この物語の中の「怪獣」の設定がまだ詰まりきっていないように感じられたのと、楽しく読んでいたからこそラストの展開があっけないように感じてしまったので、もう少し丁寧に描いていただけるとさらによくなるように思います。

 

『失敬な依頼人』
 飄々とした面白みのある文章です。幽霊が元刑事と自分を殺した犯人探しをするという筋立てに合っていると感じました。残酷な犯罪も出てきますが、あっさりしているので怖さや不気味さは感じません。今回はそれが魅力にもなっていますが、文章力の底上げは課題だと思います。ミステリを書くぞという姿勢を好もしいと感じました。タイトルも魅力的です。

 

『青藍の蝶とピアニスト』

N 読者に対して「こういう気持ちになってほしい」という、明確な意図を軸にされて書かれているところに魅力を感じました。何気ない日常を描いているかのようなのに、冒頭からきちんと「秘密」を隠しているところにも惹かれました。ただ、登場人物が抱えている問題に既視感が……。次作は人物の関係性をもっと深掘りして描いてみるのはどうでしょうか。

 

『妄想犯』
 しっかりとした骨太な文章です。ドラマを描こうという意欲とエネルギーを感じました。基本的に一文一段落で進み、地の文がほぼ言い切る形(断言)で体言止めも多いので、ブツギレな印象が残ります。そのため読者が物語世界に一緒に入っていくというよりも、用意されたシーンを外側から見ているようだと感じました。小説としての深まりに期待したいと思います。


『放課後アンサンブル』
 誠実で前向きな気持ちにさせてくれる作品でした。温かさ、優しさにあふれています。物語としては音楽や音楽家を扱った先行作を超える部分を見つけられませんでした。「アンサンブル」の魅力、難しさ、ソロと比べての評価など前提となる事柄は物語の序盤で読者に伝えてほしいと思います。登場人物が多いので全体に散漫になってしまったのも残念です。

 

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