メフィスト賞2023年上期 印象に残った作品

文字数 1,075文字

座談会にはあと一歩届かなかったけれど、編集部員が読んで印象に残った作品を公開いたします。

『とぷりなん』 

 文章がうまく、奇妙な状況や特異な設定も混乱せずに受け取ることができました。独自のユーモアにも魅力があります。内容としては、折檻やエログロともいえる表現に差別的な要素を感じました。多くの読者が、エンタテインメントとして楽しめる作品を期待します。

 

『おじいさんが飲んだ缶コーヒー』 

 タイムトラベルが実現した社会を舞台に、「グランドファーザーパラドックス=親殺しのパラドックス」(ある人物を殺してしまうことで、その人物の子孫がいなくなってしまう)の面白みと複雑さが、「愛」と「憎しみ」とうまくまじりあっていて面白かったです。センスを感じました。登場人物の整理と個々の厚みが増すと、さらに面白くなったような気がします。

 

『未解決探偵社』

キャラクターは魅力的で、探偵社なのに「真相を告げることがいつも正しいとは限らない」という枠組みは面白いのですが、描かれる各話が小さかったかもしれません。設定を生かして、もっと一話ずつの完成度を上げられるように練ってもらえたらと思います。

 

『狂った先』

 文章に安定感があり、日常をリアルに描いてくださっているので、没入して読ませていただきました。全体の展開がやや平坦で、ラストも大きな衝撃などはなかったのが残念で、もっとこの物語で感情を動かされたい、と思いました。

 

『四〇四号室の住人へ』

 座談会に何度も取り上げられたこともある読みやすく、文章力も高い方です。冒頭の摑みは強いし、展開もはやく読み手を惹きつけます。ただ「何を書こうとしているのか」「どんなジャンルの話なのか」が伝わりづらく、物語が散らかってしまっている印象です。どんな書き手になりたいのか、どこに強みがあり個性があるのか、どういうジャンルの作品を描いていきたいのかを見定めてじっくりと書く時期ではないでしょうか。

 

『月の糸』

 美しく儚く悲しい青春の物語で、作者が愛しんで書いていることが伝わってきます。文章の清潔さ、丁寧さにも好感が持てます。筋立ては既視感のあるもので、新鮮さに欠けるのは残念でした。

 

『阿弥陀堂の殺人』

 建物のオリジナリティ、トリックの面白さが魅力です。読者への挑戦状を提示し、推理のフェアネスに注意を払っていらしたのも好感を持ちました。ただ、登場人物のキャラクター設定がやや定型で、舞台装置に比べて感動の度合いが弱いように感じました。次回はぜひセリフも含めて人物の描き方にも工夫を凝らしてください。


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