今月の平台/『栞と噓の季節』米澤穂信

文字数 2,109文字

ひら-だい【平台】…書店で、書籍や雑誌を平積みする台のこと。


書店の一等地といっても過言ではない「平台」は、今最も注目のオススメ本&新刊本が集まる読書好き要チェックの胸アツスポット!

毎月刊行される多くの小説の中から、現役書店員「これは平台で仕掛けたい!」と思うオススメ書目1冊をPick Up!&読みどころをご紹介!

さらに、月替わりで「今月の平台」担当書店員がオススメの1冊を熱烈アピールしちゃいます!

「今月の平台」担当書店員、

紀伊國屋書店横浜店 川俣めぐみさん

が熱烈アピールする一冊は――

米澤穂信 著『栞と噓の季節』

 直木賞受賞作『黒牢城』は四大ミステリーランキングに加えて、山田風太郎賞受賞と、文学賞もW受賞したとんでもない小説であった。次作への期待感が自然と高まってくるが、まさか大好きな『本と鍵の季節』のシリーズ続編、『栞と噓の季節』を書かれるとは思ってもみなかった。米澤さんの初期作品を彷彿とさせ、歴史ミステリーから青春ミステリーとジャンルを横断する筆力に、米澤さんの魅力を一層感じる。


『本と鍵の季節』は、高校の図書委員である堀川次郎と松倉詩門が、持ち込まれるさまざまな謎を解いていく連作短編集である。日常の謎というにはちょっとダークでビター過ぎるが、見かけによらず頭脳明晰な彼らの推理が、読んでいてとても小気味良い。ホームズとワトソンならぬ、ホームズが二人いるようなのだ。そんな謎解きも、もちろん面白いが、更に魅力的だと思うのは堀川と松倉の掛け合いである。クラスも異なり、委員会の仕事だけが一緒という友達未満ともいえる二人の絶妙な距離感、空気感がたまらない。 その二人の関係が今後どう変わっていくのかという終盤から、今作『栞と噓の季節』に話が繫がっていくのだが、新作が長編作品とは意外であった。短編で続くと思っていただけに驚いたが、読んで納得である。噓と謎が複雑に絡みあい深くなっていくゆえ、短編でこの世界観は描けないのであろう。


 前作に続き堀川と松倉の二人の関係性、物語の発端ともなる猛毒のトリカブトの押し花の栞を挟んだ人物の行方など読みどころは満載である。ちりばめられた噓に、シスターフッドやルッキズムといった今日的なテーマが重要なファクターとして絡む。前作を読んでなくても充分に楽しめるが、読んでいると更に楽しめるはず。そして、読後は、その余韻にしばらく引き摺られてしまうので注意。


 人生における最強の「切り札」というのは、誰かを守るための噓をつける友達なのかもしれない。

現役書店員が今月「仕掛けたい!」と思う一冊は――

丸善名古屋本店 竹腰香里さんの一冊


『君のクイズ』

小川哲 朝日新聞出版


とあるクイズ番組で、主人公の対戦相手がヤラセのようなやり口で優勝。世間で物議を醸すが、主人公は自分のクイズ力を駆使して真実を探っていく。真実が明かされた時、クイズの世界の奥深さ、主人公の思考力に圧倒されます!

出張書店員 内田剛さんの一冊


『君のクイズ』

小川哲 朝日新聞出版


真剣勝負のクイズ対決にまさかの疑惑が。スリリングな問題と解答の応酬から見えてくるのは、偶然と必然が織りなす奥深い人生そのもの。溢れる可笑しみと畳みかける人間ドラマに息をのむ。知的興奮と刺激に満ちた痛快な一冊だ!

ときわ書房本店 宇田川拓也さんの一冊


『煉獄の時』

笠井潔 文藝春秋


じつに11年ぶりとなる、800ページに及ぶ〈矢吹駆〉シリーズ最新巨編。著名なフランスの思想家が送った手紙の消失を皮切りに、39年の時を挟んだふたつの首なし屍体事件の謎に挑む。ミステリに知的で面白い抜群の読み応えを求めるなら、これが今年のベストだ。

大垣書店イオンモールKYOTO店 井上哲也さんの一冊


『老害の人』

内館牧子 講談社


後期高齢者目前の私にとっては、まさにバイブル。いや、ホントそうなのだ。迷惑がられたって、老後は俳句をひねってみたいものだ。

丸善博多店 徳永圭子さんの一冊


『フィールダー』

古谷田奈月 集英社


噓偽りのない地平がどこにあるというのか。身近な存在を疑って生きる苦しさを抱えながら、ゲームにログインを繰り返す。この混沌と閉塞感が現実的で、取り繕った良心をはね除けるように読んだ。

丸善丸の内本店 高頭佐和子さんの一冊


『介護者D』

河﨑秋子 朝日新聞出版


描かれる全てが切実な、介護小説にして推し活小説。介護する人もされる人も、応援する人もされる人も、自分の人生を生きている。奇跡のようなラストに、涙が止まらない。

うなぎBOOKS 本間悠さんの一冊


『付き添うひと』

岩井圭也 ポプラ社


子どもたちの〝付き添い〟を専門とする弁護士のオボロ。描かれる様々な親子関係に、今現在親であることを問われ続けた。大人はもちろん、まだ小さな読者たちに届けたい一冊。

紀伊國屋書店梅田本店 小泉真規子さんの一冊


『あなたへの挑戦状』

阿津川辰海・斜線堂有紀 講談社


ミステリランキングを席巻し、今大注目の作家からの挑戦状⁉ そりゃ読むしかないでしょ!! 一文字たりとも読み逃さないつもりでいてもまんまと騙される快感。ぜひあなたにも。

この書評は、「小説現代」2022年12月号に掲載されました。

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