今月の平台/『夜がうたた寝してる間に』君嶋彼方
文字数 2,274文字
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超能力が使えたらと、誰もが一度は夢想したことがあるだろう。時間を止める、人の心を読む、瞬間移動をする。そんな能力をいかんなく発揮して何らかの利を得たり巨悪に立ち向かったりするキャラクターは、数多くの創作にも登場する。
君嶋彼方さんの最新作『夜がうたた寝してる間に』には、まさに前述の3つの能力を持つ高校生が登場する。時間を止める冴木、人の心が読める篠宮、そして瞬間移動をする我妻。ただし彼らは何らかの利を得たり、巨悪に立ち向かったりはしない。およそ1万人に1人の確率で能力者が誕生する世界で、彼らは圧倒的なマイノリティなのだ。
秩序を守り犯罪を抑止するため、一目でそれと分かる「能力者バッジ」の着用が義務付けられる彼らは、己の能力がゆえに友人たちとの付き合いに悩み、奇異の目をむけられることを怖れ、ひたすらに平凡な日々を切望しながら、または既に諦めて、孤独を内に秘めて暮らしている。
学校では「能力を使う」ことはもちろん制限されている。瞬間移動能力を持つ我妻が、50メートル走で好タイム(あくまで常識の範囲内で)を出したにもかかわらず「瞬間移動をしたんじゃないのか」と教師から疑われ走りなおしを強要される場面などは、彼らが置かれている状況を象徴している。
この構図は、果たしてフィクションにおける「対能力者」だけの問題だろうかと考えた時、作者がファンタジックな設定を通して伝えたかったことの片鱗が見えてくるような気がする。私達の現実世界もまた、様々な「決めつけ」と「差別」の中にあるからだ。
かつて無邪気に夢想した憧れは、この物語に触れ、そして今の現実と照らし合わせたときに、その色をガラリと変える。
前作では男女入れ替わりの切なさを描いた作者による、能力者たちの苦悩の物語。「ファンタジーはNOT FOR ME」なあなたにこそ手に取っていただきたいが、ラストシーンを駆け抜けたあとは、きっと「超能力最高!」と快哉を叫ぶに違いない。
丸善名古屋本店 竹腰香里さんの一冊
芦花公園 東京創元社
あらすじだけでも滅茶苦茶怖いのに、どうなってしまうのか‼︎ 読むのを止めたら呪われそうな。3人の視点で物語は進んでいき、展開はまったく読めない。真相を知ったら最後、もう物語から逃れられません。マレ様に出会ってしまったら、誰も彼もが虜になるでしょう。
ときわ書房本店 宇田川拓也さんの一冊
白井智之 新潮社
流行りの「特殊設定」を迎え撃つ、出色の特殊〝条件〟ミステリ。カルト教団の集落に消えた助手を救うため、現地に乗り込んだ探偵が巻き込まれる不可解な連続殺人事件。150ページに及ぶ圧巻の解決編、そしてタイトルの真意に愕然!
大垣書店イオンモールKYOTO店 井上哲也さんの一冊
相沢沙呼 講談社
城塚翡翠と千和崎真に再会出来た幸福。物語を重ねる度に、2人の新たな魅力にとらわれ、次の出会いを待ち侘びる私がいる。このシリーズは、本当に裏切らない。遠田志帆さんの表紙画も安定の美しさで感動。
紀伊國屋書店横浜店 川俣めぐみさんの一冊
相沢沙呼 講談社
わたしと城塚翡翠の共通点は……「なにもないところで転ぶ天才」ぐらいでしょうか? 真ちゃんまで「転ぶ天才」に仲間入り⁉︎ となりましたがさすがにそれはなさそう。そんなわたしには探偵の推理を推理することはやっぱり難しいけれど、翡翠ちゃんの思考を追うのはそれはそれでとても楽しい。
紀伊國屋書店梅田本店 小泉真規子さんの一冊
相沢沙呼 講談社
次回作は難しいのでは……という不安をいとも簡単に乗り越えてくる。「反転、再び。」の言葉に偽りなし!!! 表紙すらも見逃せないので隅々まで読むべし。
出張書店員 内田剛さんの一冊
芦沢央 中央公論新社
ひとつの殺人事件から転がり始めた運命の日々。逃げる者、匿う者、追いかける者。それぞれに信じる正義がある。選択だらけの人生で人は何を選ぶべきなのか。背負った十字架の重たさと抱え続けた闇の深さに震えが止まらない。
丸善博多店 徳永圭子さんの一冊
金原ひとみ 集英社
女性とは、母親とは。年甲斐もなくと、恋愛のブレーキを世間に踏まされても消えない感情をごっそり搔き出された気がした。テンポよく交わされるちょっと狡くて気高い会話のスリルを味わって欲しい。
丸善丸の内本店 高頭佐和子さんの一冊
小川洋子 集英社
舞台の上の物語は数時間で終わる。だが、観客の想像する世界にフィナーレはなく、それぞれの内側で別の物語が広がって行く。劇場を愛する者にとっては、あまりに美しくて恐ろしい短編集だ。
この書評は、「小説現代」2022年11月号に掲載されました。